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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの事後評価
5.東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクト

  • 更新日:2006年9月25日

1)研究の概要

21世紀の日本及び東アジアにおける均衡ある経済発展にとって、森林減少、水質汚濁、水資源枯渇、土壌流出等の自然資源の枯渇・劣化が大きな制約要因となり、こうした問題に対処するためには、環境の基本ユニットである流域圏が持つ受容力を観測し、モデルにより定量化された受容力の脆弱な地域の予測に基づき、環境負荷の減少、保全計画の作定、開発計画の見直し、環境修復技術の適用等の管理を行っていくことが必要である。本プロジェクトは、日本及び東アジアの流域圏が持つ生態系機能(大気との熱・物質交換、植生の保水能力と水循環調節、物質循環と浄化、農業生産と土地利用、海域における物質循環と生物生産など)を総合的に観測・把握し、そのモデル化と予測手法の開発を行うものである。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成17年度研究成果の概要

(1) 衛星データを利用したアジア・太平洋地域の統合的モニタリング
  • 米国で開発された陸域生態系モデルであるBiome-BGCを東アジアモンスーン地域への適用を可能とするように改良した。
  • 陸域生態系モデルBiome-BGCを用いて,長江流域に存在する植生による炭素固定機能の評価を行った。
(2) 長江・黄河流域における水循環変化による自然資源劣化の予測とその影響評価
  • 長江流域の農業生態系から三峡ダムへ流入する窒素負荷量推定モデルを開発した。
  • 社会経済活動に伴う長江流域の水需要,排水量,汚濁負荷排出量のインベントリーを構築した。
(3) 東シナ海における長江経由の汚染・汚濁物質の動態と生態系影響評価(沿岸域環境総合管理)
  • 長江起源の淡水を介して東シナ海陸域棚に輸送される栄養塩等を利用して増殖する藻類の分布,種構成を検討した。
  • 東京湾で増殖中の外来大型二枚貝の浄化機能についての実験的検討を行った。

4)外部研究評価委員会の見解

  1. 種々の面で落差のある日中両国の間の共同研究として、お互いの運営上の課題を乗り越えて共同研究を実施し、一定の形を構築したことに敬意を表する。今後国立環境研究所においてアジア地域の国際プロジェクトを推進する際の資産となるであろう。
  2. 三峡ダムを中心として物理現象から生態系までのモニタリングを行い、観測データに基づくモデル構築を行ったことは、今後の種々の政策の効果検証に活用できることが期待される。
  3. 個別テーマにおける優れた成果が挙がっている反面、各テーマを統合する流域全体の総合的管理体制への提言につながる包括的な検討が不足している。
  4. 今後、他の東アジア地域において、国立環境研究所が如何なる環境面での共同研究の展開を図るかを考えていく上では、対象国との間の関係構築には本プロジェクトの経験が有効となる一方、さらに広範な視野で東アジア地域と日本の関係を基盤とした地域環境管理に対する研究構想の構築が必要となろう。

5)今後の展望等

  1. 第一期中期計画では、日中の研究者の個人的な関係に基づいて共同研究体制の維持が図られた面があったが、第二期中期計画におけるアジア環境研究は国立環境研究所の重点課題と位置付けられたので、研究所の組織としての対応や、より広範囲の環境問題と関連づけた水環境管理研究の進展を図りたい。
  2. 降雨・土砂流出等の動態再現モデルの開発という目標はほぼ達成されたが、これを施策効果の検討に繋げるためには、物理的な側面での人間活動と環境との間の利害得失のみならず社会経済的な側面も検討する必要がある。第二期中期計画における東アジアの水環境管理研究ではこうした面での検討も進めたい。
  3. 流域環境管理に必要なアセスメントツールの主要な構成要素として、数理モデル、環境対策技術、環境修復技術、技術・政策システム評価が挙げられるのが、本プロジェクトでは数理モデルの開発・整備に留まっていた。これまでの研究成果を基礎に、第二期中期計画では環境対策技術、環境修復技術、技術・政策システム評価の研究展開を図りたい。
  4. 第二期中期計画における東アジアの水環境管理研究では、持続的な水環境管理の技術・政策オプションや環境と経済の好循環を支援する技術・政策オプションに関する研究が新たに展開される予定である。地域の産業、社会、経済等の人文社会システム研究に立脚するものであり、アジアモンスーン地域の視点からの地域環境管理についての新たな手法を提示したいと考えている。