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Ⅵ 平成18年度新規特別研究の事前説明
7. 侵入生物・組換え生物による遺伝的多様性影響評価に関する研究

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

本研究では「カルタヘナ法」や「外来生物法」の規制対象外であるが、今後在来生物の遺伝的多様性影響を与える可能性がある生物として、輸入昆虫や寄生ダニ類、遺伝子組換え農作物及び移殖淡水魚について、その遺伝的特性と在来生物との遺伝的相互作用の実態把握をおこなう。これら生物に由来する外来遺伝子が在来生物集団へ浸透するプロセスを明らかにすることにより、それらの遺伝的多様性への影響を調査する。

2) 研究期間

平成18〜20年度(3年間)

3) 研究計画

本研究では侵入生物及び組換え生物が在来生物の遺伝的多様性へ与える影響を評価することを目的として、(1) 侵入生物や遺伝子組換え生物の遺伝子が在来生物集団へ浸透するプロセスを明らかにする。(2)在来生物の遺伝的多様性を減少させている、あるいはその可能性のある侵入生物の遺伝的特性を把握する。(3)外来生物法の対象外である同種個体の地域集団外からの移殖実態について調査を進め、その多様性影響を評価する。(4)これらの成果にもとづいて遺伝的多様性保全のための指針を策定する。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

重要な課題であり、環境問題の解明・解決に寄与し、社会・行政への貢献は高いと考えられる。実態把握の研究としても重要であり、学術的意義も高い。その一方で、法的な規制が後手に回る分野なので説得力のある結果が出せるようにしていただきたい。また、遺伝子多様性を解析するための標準的な解析手法を定められるように努力すべきだろう。保全・管理の到達点(限界)は十分に考察すべきで、人間生活との関わりの中で受容されるレベルを的確に設定することに留意いただきたい。

2.研究の進め方、組み立て

特別研究であるので、サブテーマ間のとりまとめに力を注ぐよりは各サブテーマで重要な知見を得るとよいだろう。研究量が過重に見えるので、実施内容の優先順位を意識して研究を進めていただきたい。他の研究グループの成果も取り入れていく工夫も必要であろう。また、生物の定着と交雑を区別する手法を明らかにすべきである。一方、ESU(Evolutionarily Significant Unit)の設定が重要である。わかりやすさという点でも現在の日本語訳は不適当であるので、表現も再考いただきたい。

5) 対処方針

1.  現状の法律では、外来在来の区別は種の生息域が国境線の内外にあるか否かで規定されており、国内においてもあるいは同一種においても地域による遺伝子組成の固有性が存在することは念頭に置かれていない。本研究プロジェクトでは遺伝子情報に基づく生物集団の保全単位や規準を設定することを将来目標として、現時点で遺伝子撹乱のリスクをはらむ生物種について実証研究を行い、基礎データを蓄積していきたい。各サブテーマとも、まずは研究対象とする侵入生物について、個体の生息状況と遺伝子型について現状把握した上で、それらの定着拡大がおこるのかどうかについて議論ができるデータを得ることに集中して研究を進めたい。その上で、クワガタムシなど既に遺伝情報と生物地理情報が豊富に得られている研究については、学術的に価値の高い成果を出したい。

遺伝子多様性解析の標準的手法は、上記の遺伝子情報に基づく生物集団保全単位の設定にあたっては大変重要な必須事項となると考える。ただ、生物ゆえに種毎に進化の歴史や生活史形質も多様であり、同一の遺伝子解析で同列に遺伝的多様性を測ることは、むしろ現実的ではなく、得られた遺伝子情報の解析手法や進化生態学的意義の解釈について標準化する必要がある。今回、本プロジェクトで選定している対象種は分類群も生活史形質も大きく異なるものであり、そうした遺伝的変異解析の基準設定を行う上で、貴重な事例となると考える。また、多数の遺伝子配列について変異を調べることで、かなり定量的な多様性解析が可能であるが、現時点では多個体について解析することは現実的ではない。これを実現するためには遺伝子変異を網羅的に検出する方法が必要だが、成否のリスクが大きい研究なので別課題で研究を行う。

保全・管理の到達点については、厳密な保全・管理を提唱しても実行されなければ意味がないので、社会に受容される実効性の高い保全・管理を検討すべきだと考えている。また、遺伝的変異の保全を最終判断するのは社会であり、我々研究者のなすべきことは、その判断基準としての明確な科学的データの蓄積と提供であると考える。生物集団という概念や遺伝的変異の意義というものを広く理解して頂き、議論が進められるよう、明確な科学データの蓄積と公表に務めていきたい。

2.  研究課題は確かに多く、構成メンバーだけで全てを推進することは困難だが、各生物群や関連技術に関わる研究者や一般の方々とも情報・技術の交流を図り、有機的かつ効率的な共同研究体制をとりながら各課題を全力で推進していきたい。本研究では外来遺伝子の定義として「地域固有でない遺伝子」としている。複数年調査の結果、ある領域に外来遺伝子を持つ個体が継続して出現する場合を「定着」とし、さらに外来遺伝子と在来遺伝子の両方を持つ個体が出現した場合「交雑」が起こったとしている。定着と交雑の区別は生態リスクを論ずる上で重要である。外来種が在来種個体群を競合により圧迫して衰退させているのか、外来遺伝子が在来種個体群中に浸透し、置換してしまっているのか、現状から判断するためにも遺伝子マーカーの探索や得られた遺伝子情報の統計解析など集団遺伝学的解析技術の向上が求められると判断する。本プロジェクトにおいてもより高度で正確な解析を図っていきたい。ESUは、世界的にもその保全生態学的意義が重要視され、議論されているところだが、本研究プロジェクトにおいても、上記遺伝的変異の基準設定と合わせて、ESUの設定基準についても議論を進めていきたい。また訳語についてはご指摘通り、分かり易くかつ保全生態学的意義も含んだ用語を提示したい。