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Ⅵ 平成18年度新規特別研究の事前説明
5. 残留性有機汚染物質の多次元分離分析法の開発に関する研究

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

本研究では,残留性有機汚染物質の分析に対する高いニーズに応えるために,高精度・高感度・迅速・多成分同時分析法を開発することを目的とする.

  1. ダイオキシン類(DXNs)をはじめとする残留性有機汚染物質(POPs)の分析には,多工程と高度な技術を要する等の難しさがあり,研究や対策の大きな障害となっていることから,それらの迅速・高精度・高感度分析法を開発する.
  2. 広範な汚染が見いだされているパーフルオロオクタン酸などの環境挙動を解明するには,関連物質を包含した研究が不可欠である.近年,パーフルオロカーボン(PFCs)の大気への放出や大気経由の輸送が注目されていることから,それらの多成分・高精度分析法を開発する.
  3. 環境中に蓄積されたPCBsの問題は依然重要であるが,特に,PCBsの代謝物である水酸化PCBs(HO-PCBs)は,甲状腺ホルモンかく乱作用が報告されるなど,生体影響の解明が急がれている.HO-PCBsには多数の異性体があり,毒性には大きな差があると考えられるため,それらの超高度分離分析法を開発する.

技術的には,分析法の開発を多次元ガスクロマトグラフ(GCxGC)及び高分解能飛行時間型質量分析計(TOFMS)の組み合わせによる超高分離・高精度測定技術の開発を中心に進め,その開発・改良により,有機分析の発展とブレークスルーを目指す.

2) 研究期間

平成18〜20年度(3年間)

3) 研究計画

  1. DXNsやその他のPOPsなどについて,GCxGCとTOFMSを組み合わせ,測定時に夾雑物から対象物質を分離し,高感度検出することで,前処理を省略する迅速で正確な分析法の開発を行う.大気中のHCHs,BHC,排ガスや大気中のPAHs,環境試料全般のDXNsをとり上げ,物質に応じた測定条件の最適化や媒体毎の夾雑物の影響の把握とその回避方法の検討を行い,環境試料の実測,既存分析法との比較などにより分析法の検証を行う.気体試料については熱脱着(TD)技術を応用した全量注入による高感度化の検討も行う.GCxGC/TOFMSの多次元情報の解析手法開発や,装置の改良や技術開発などは,必要に応じメーカーと協力しながら進める.
  2. PFCsが廃棄物や製品の燃焼で大気中に放出される可能性について,標準品やフッ素化学製品を様々な温度やガス雰囲気等で熱分解GC/MS(Py-GC/MS)により測定し,発生する物質を検索する.大気中のFTAsと各種フッ素化合物の多成分同時分析法の開発をGC/MSを中心に行う.環境大気への適用によって開発した分析法の有効性を検証する.
  3. HO-PCBs異性体のうち特に毒性学的に重要と考えられるモノ水酸化体について,GCxGC/TOFMSを用いた超高分離分析法の開発を行う.PCBsとの同時分析を視野に入れた前処理法の検討や異性体分離条件の最適化の検討を標準品を用いて行う.開発した分析法を生体試料や環境試料に適用し,有効性を検証する.

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

残留性有機汚染物質の多成分同時分析法の開発は、現状の環境問題への対策ならびに新しい環境問題の掘り起こしの両面から重要であり、環境有機化学分析と環境挙動の解析に資する有用な研究といえる。多次元分離分析という基本的な方向はよいと思われ、新しい分析法が完成されれば大きな貢献が期待できるだろう。一方で、GCxGCやTOFMSがまずありきの印象がある。目的を明確にしたうえで、キャピラリーカラムの開発など、目的により合致した研究内容も考慮すべきであろう。多次元分離分析においては、夾雑物の影響も大きいはずなので、試料の前処理方法や高度な統計処理についても十分考慮して研究を進めていただきたい。また、本研究は、分析を主として、毒性評価・健康評価は別のプロジェクトとした方がよいだろう。一方で、分析に偏り過ぎて、分析結果を評価する視点が欠けると好ましくないので、その点は留意いただきたい。

2.研究の進め方、組み立て

研究の進め方・組み立てには特段の問題はないだろう。ただし、計測しなければならい化学物質はどれくらいあるか目標を示すべきだろう。あらゆるものを観測するというアピールは必ずしも必要ではない。その意味では、有害化学物質等の優先順位付けをするとよいだろう。分析対象として結果が面白い、役に立つものを選ぶことが重要であり、特に新たなPOPs候補(PFOSなど)も分析対象とすることを検討するとよいだろう。また、開発した分析法の汎用性は必ずしも高くないので、分析法が利用される場面・人などのニーズを明確にすべきである。特に、地方研での利用は念頭においた方がよい。また、新たに蓄積された分析情報をライブラリとしてどのように発信しているかも検討していただきたい。同時に、その分析情報から分かりやすく役に立つ情報をどのように提供するかということも視野に入れて研究を進めていただきたい。

5) 対処方針

本研究では,POPs類の高精度迅速分析,PCB代謝物の異性体分離分析法の開発を中心に研究を進めるが,手法自体は複雑な混合物や多成分分析に広く応用可能であるので,手法の汎用性や普及を意識した研究の進行に努める.

また,この研究で開発する方法は,多情報と迅速性を両立したもので,地方自治体の要求に対して的を射たものと考える.主にダイオキシン類測定のために地方研究所に配備された二重収束型高分解能質量分析計(HRMS)は,耐用年数を迎えつつあり,その置き換えが問題になっている.GCxGC−TOFMSは,HRMSの約1/3の価格になる見込みで,性能と価格の両面よりHRMSの有力な後継となることが期待される.GCxGC−TOFMS以外にも装置の最適な使い分けや詳細な分析条件などを検討・確認する計画である.

毒性と環境中の存在量に基づいた測定対象物質の絞込みなどを考える必要があるが,具体的にコンセンサスが得られるような物質選定は容易でなく,今後の検討課題とさせていただきたい.この研究では,ダイオキシン類やPCBの他にPFOS類やPAH類などのPOPs候補物質や,PCBの代謝物を対象としたい.

ご意見を踏まえ,社会に貢献する研究となるよう尽力したい.