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Ⅵ 平成18年度新規特別研究の事前説明
4. 省エネルギー型水・炭素循環処理システムの開発

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

我々の日常生活や産業活動の結果多量に排出される有機性排水は、環境保全のために好気性微生物処理が施されている。しかし、処理に伴う電力消費は莫大(国内総電力消費の0.6〜0.8%)であり、さらに除去有機物の50%程度が産業廃棄物としての余剰汚泥に姿を変えている。それ故、水処理に伴うエネルギーの削減は急務である。また、未利用有機資源の大きなソースである排水から再利用が可能な形のエネルギーを取り出すことは新たな水・有機物循環社会構築のために必要である。他方、下水処理設備を利用できない人は、世界人口の40%超(26億人)に達しており、水を媒介とした健康被害が開発途上国において深刻な問題となっており、処理に伴うエネルギー消費が少ない(維持管理コストが安い)適切な排水処理技術の開発が求められている。以上の様な背景から本研究では、有機性排水の無加温処理に対応した省・創エネルギー型のメタン発酵排水処理技術の開発を行うことを目的とする。

2) 研究期間

平成18〜20年度(3年間)

3) 研究計画

省エネルギーで資源回収が可能なメタン発酵技術は将来有望な水処理技術として注目されている。しかしながら、水温が10〜20℃と低く、低有機物濃度である排水処理に現状技術を適用することは、中・高温度域(35℃、55℃)に至適温度を持つメタン生成細菌等の活性維持やバイオリアクター内への菌体高密度保持の観点から困難であった。

そこで本研究では、嫌気性微生物を高密度に集塊化させる生物膜法の利用により本来嫌気性処理には不向きである低温、低濃度の排水処理のメタン発酵処理法の開発を行う。具体的には排水処理(有機物の分解と、メタンへの転換)性能発揮の鍵となる嫌気性生物膜とそれを構成するメタン発酵微生物群集の解析、種々の排水(水温、有機物濃度、有機物組成等の異なる排水等)への提案処理システム適用可能性評価試験、システムの高効率化・最適化法(バイオリアクターの構造、運転方法の最適化)の検討を行う。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

国内の有機性排水対策とアジア地域での水環境保全の両方に活用できるのはよいが、なぜこの研究を国立環境研究所でやらなければならないかが今ひとつ不明確である。また、処理水質やコスト、面積などの目標も不明確である。この技術の社会ニーズを明示すべきであろう。場合によっては、工業先進国での対応技術についてのみ焦点を絞ってもよいだろう。また、新規性もどこにあるかが分からない。

2.研究の進め方、組み立て

より低濃度、低温の排水にどのように対処するかが分からないので、これを明確にしながら研究を進めていただきたい。また、科学技術基本計画で示されている技術の活用を検討してみてもよいだろう。

5) 対処方針

1.研究内容

ご指摘のように、国内においては排水処理に伴う消費エネルギーの削減、アジア地域においては水環境保全のための省エネルギー型排水処理システムの開発が求められている。民間企業等による技術開発では、短期的な利益が技術開発の実施を左右し、現状技術からの脱却を図る新規技術開発の推進が困難な場合も多く、技術評価の公平性に支障を来すことも懸念される。以上の様な観点から、公的な機関である国立環境研究所が資源循環型の水処理システムに関する研究を推進する意義が大きいと考えられる。

本研究では従来技術をベースに、生物膜の高度利用により嫌気微生物の効率的な活用を目指した新たな嫌気排水処理法(装置、運転方法)の開発を行う。量的に多く排出され、嫌気処理技術の確立がなされていない低濃度排水(溶解性CODCr 0.3〜0.6g/L)の常温処理を中心にして嫌気処理の位置づけを再評価し、次世代の技術オプションとしての技術確立を目指している。処理水質は、有機物に関して嫌気性処理のみで一律排水基準を満たすこと、処理時間(設置面積)は、既存の好気性処理と同等レベル、消費エネルギー(維持管理コスト)は好気性処理の半分以下とすることを目標にしている。また本技術は、排水の易分解性有機物除去とメタン回収のための前段処理法としてもニーズが大きく、技術の確立により省・創エネルギー排水処理の適用範囲が飛躍的に広がることが期待される。

2.研究の進め方、組み立て

予備的な実験データや種々の温度条件下での微生物活性測定結果より、嫌気プロセス(装置、運転方法)の最適化により低濃度、低温排水への適用可能性が確認されている。低濃度排水の常温嫌気処理に関する問題点の抽出と課題の明確化を行って研究を推進する予定である。また嫌気処理水の高度処理や再利用を踏まえ、科学技術基本計画で示されている他の処理技術との組み合わせ等も、その技術的可能性について検討する。