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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの事後評価
3.内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクト

  • 更新日:2006年9月25日

1)研究の概要

内分泌かく乱化学物質およびダイオキシン類の総合対策をより高度に実施するため、i)高感度・高精度分析、迅速・簡易分析のため新たな実用試験法の提案を行う。ii)内分泌かく乱作用についての生物検定法を確立する。iii)環境中での分布、生物濃縮、分解性をグローバルスケールを視野にいれつつ明らかにする。さらに、ヒトや生物への影響について、iv)実験動物を用いて、発生・生殖、脳行動、免疫系への影響を調べる。v)いくつかの野生生物種について、霞ヶ浦、東京湾等をフィールドとして生物影響の状況を明らかにする。vi)未知の関連物質の探索を行うとともに、臭素化ダイオキシン等についても調べ、データベース化を進める。vii)統合情報システムのもとに、情報管理・予測システムの確立を目指す。viii)処理技術として生物浄化技術等の開発により、効果的な対策に資する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成17年度研究成果の概要

(1) 分析法・試験法
(ア) 化学計測法
  • 引き続き質量分析法を中心として、超微量分析法の開発を進め、環境調査への応用をはかった。
  • ダイオキシン類分析の前処理における有機溶媒量を減らす目的で、クリーンアップ最終段階での活性炭分散シリカゲルの少量化に向けた検討を行った。
  • (2) 煙道排ガス中のダイオキシン濃度のオンサイト測定装置の開発、改良を行った。低分解能MS条件での測定であるが、良好なクロマトグラムが得られ、感度もサブpgが測定可能であった。
(ア) 生物検定法
  • 環境中では複数の化学物質により、相加や相乗などの様々な内分泌かく乱作用が引き起こされていることが推測される。同一作用を引き起こす化学物質の組み合わせによる複合影響をエストロゲン活性及び甲状腺ホルモン活性について酵母アッセイ法を用いて検討を行い、相加的であることを確認した。
  • 酵母アッセイ法による甲状腺ホルモン・アンタゴニスト試験法の構築を試み、PCBのモノ水酸化体91物質を用いてアンタゴニスト活性の有無を調査した。アンタゴニスト活性物質と評価された物質は、4物質であったが、いずれも濃度的にも抑制率的にも強いアンタゴニスト物質とは評価できなかった。
  • 酵母アッセイ法に適用する環境試料の前処理法の検討を行い、従来用いてきたC18ディスクによるジクロロメタン溶出法(C18-DCM法)のあとにフロリジルカラムによる処理を行うことで、夾雑物の多い試料や毒性の強い試料に対しても良好な結果が得られた。
  • in vivoの生物検定法として、ミジンコを用いた甲殻類における内分泌かく乱化学物質の新たな試験法をOECDに提案している。今年度は世界各地のD. magnaの感受性についてのバリデーションを行った。
  • 魚類における内分泌かく乱化学物質のエストロゲン作用のスクリーニング法の一つである、メダカの卵黄タンパク質の前駆体であるビテロジェニンのELISA法による測定の標準化、バリデーションをメダカビテロジェニン標準タンパク(NIESスタンダード)を作成して行った。
  • 引き続き内分泌攪乱化学物質の試験法開発における国際協力(OECD、日韓、日米)を行った。
(2) 環境動態の解明
  • 東京湾の稚シャコ中のダイオキシン類の水域間の比較を行った。 PCDDsとPCDFsは湾北東部で高く、コプラナーPCBsは湾北西部で高かった。コプラナーPCBs濃度が高いため、ダイオキシン類の総量では湾の北西部で高い結果となった。
  • 地球規模のダイオキシン類およびPOPs汚染を解明するために1995年から97年に捕獲されたイカの肝臓を用い、外洋におけるダイオキシン類の分布と発生源の推定を行った。その結果、北部太平洋周辺、ことに日本付近の海域で高く、それと比べて南半球では低く、赤道付近では検出できないレベルであった。また、発生源は多くが燃焼起源であると推定された。
(3) 生物影響の解明
  • 東京湾における定点観測を引き続き行い、生物量の把握、生物サンプルの分析を行い、サメ、エイ類が増加していることを明らかにした。化学物質による汚染の影響を明らかにする一環として、マコガレイの血清中ビテロゲニン濃度と性ステロイドホルモンの経月変化及び生殖腺の病理組織学的検討を行った。
  • RXRを介したインポセックスの発生メカニズムについて、 RXR遺伝子及びタンパクの発現、RXR標的遺伝子、ペニス及び輸精管の分化と増殖(成長)について検討した。
  • 多動症モデルにおいて、ビスフェノールAのラット新生仔への経口投与によっても多動症が起きることを示した。
  • ダニアレルゲン誘発アトピー性皮膚炎マウスモデルを構築し、フタル酸エステルのDEHPが皮膚炎症状を増悪させることを見いだした。
  • ダイオキシンの水腎症発症メカニズムを尿細管のイオンチャネル関連遺伝子への影響を解析することにより、分子レベルで明らかにした。すなわち、授乳期TCDD曝露により仔マウスの腎臓形成期に生じる水腎症は、AhRを介して起こる腎臓COX2の発現上昇に伴うNKCC2およびROMK遺伝子発現の抑制により、腎尿細管のNa、K、Clイオンチャネル関連遺伝子発現に対するTCDDの影響に起因するという、新たな水腎症発症メカニズムを明らかにした。
  • ヒト用高磁場MRIによるボランティアの脳測定を引き続き行い、脳形態画像の集積、脳機能画像の測定を行った。脳局所スペクトルによる代謝解析の手法を確立した。
  • ダイオキシン類への曝露の実態を母乳で調べるとともに、CYP1A1の多型が感受性要因として機能しているかどうかを検討した。
(4) 総合対策の研究
  • 分解技術については、高温・高圧の熱水により土壌のダイオキシン類を効率よく除去できることを示した。
  • 底質等からの有害化学物質の水棲生物への移行過程を把握するための基礎的検討の一環として、懸濁させた底質中のダイオキシン類濃度の粒径分布を調べた。
  • GIS多媒体モデル(G-SIEMS)について、ダイオキシン類やPRTR対象物質に対するケーススタディとモデルの検証を実施した。また、POPs輸送モデルに対する複数の国際比較共同研究に参加し、性能比較研究を行った。

4)外部研究評価委員会の見解

  1. 内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類の作用メカニズム、生態影響などの現象解明においてフィールド調査などを含み、精力的かつ多岐にわたる研究が行われ学術的な成果は評価できるものである。
  2. 分析法や生物検定法(バイオアッセイ法)の開発などの面で成果を挙げている一方において、リスク評価に関する全体的、統合的管理戦略に結びつけるような概念の確立が十分とは言えない。
  3. 最終的に期待される安全・安心な人間社会、生態系を確立する方向を目指すためには、対象物質のヒトへの影響を解明する方向への展開が必要であり、同時に社会に対する研究成果の発信体制の構築が求められる。

5)今後の展望等

本プロジェクトの研究成果を発展させる形で、以下に挙げる内容については、第2期中期計画における環境リスク研究プログラムの中で引き続き実施することとしている。

リスク評価へ向けた曝露評価に関しては、階層的環境動態モデルおよび本プロジェクトで開発した計測技術や生物検定法によって得られたモニタリング情報を活用し、曝露評価手法の構築を中核プロジェクト1「化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価」において行うこととしている。ヒトへの影響を解明する方向の取り組みとしては、本プロジェクトで明らかとなった高感受性期の存在、核内受容体およびそれらのクロストークを介した作用メカニズムを重点的に掘り下げるべく、中核プロジェクト2として「感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価」を行うこととしている。