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Ⅵ 平成18年度新規特別研究の事前説明
2. 湿地生態系の時空間的不均一性と生物多様性の保全に関する研究

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

湿地における水分条件・土壌・地形などの空間的な不均一性,定期的・確率的に生じる撹乱要因が湿地生態系のありかたにどのように影響しているのかを明らかにし,その成果にもとづいて湿地の保全・管理のありかたを提示することを目的とする.そのために,リモートセンシングと地上での調査を有機的に関連させ,踏査が困難な広い湿地での生物多様性の保全・管理を効率的に行う手法を開発する.

2) 研究期間

平成18〜20年度(3年間)

3) 研究計画

リモートセンシングで把握した環境・植生の時空間的不均一性を踏まえながら,植物群落の分布パターンの形成メカニズム、および環境の空間分布パターンと動物相の形成・個体群の存続メカニズムに関する研究を進める.様々な分類群の生物の分布パターンを把握するにはどのような時空間解像度の情報が必要なのかを検討しつつ,地上調査とリモートセンシングとを連携させる.本州第一の面積を持つ湿地である渡良瀬遊水地をおもな調査地とする.

初年度は,既存のリモートセンシングデータを収集するとともに,航空機計測を開始する.これと対応させる形で地上での調査を行い,植生タイプの識別法を検討する.また,植物相・物相と空間分布パターンの調査を開始する.2年目は,1年目の成果をふまえて,航空機計測の成果のスケールアップ・スケールダウンの手法を開発する.また,動植物の生息適地の条件の解析を行う.最終年度は,動植物の分布予測モデルを開発し,リモートセンシングデータとの対応付けを行う.さらに,古い航空写真を併用した過去の環境の変動の解析を行い,湿地の生物多様性の動態の推定を行う.

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

生物多様性の記述として意義があるとともに、精度のより高い保全対策を目指している点で評価できる。ただ、一般化して政策へ提言することは、直ちに期待できないかもしれない。環境保全というものの考え方が問われてくるので、その検討を欠かさないで欲しい。また、国立環境研究所で行われる研究としては従来の測定方法を密に行って観測するだけでは意義が理解できないので、その点を明らかにするとよい。生物の分布の推定・予測モデルを作ろうとする努力は重要であるので進めていただきたいが、ヨシ原の火入れ等の人為的要因を考慮したモデルとすべきことには留意していただきたい。

2.研究の進め方、組み立て

保全の中身や管理指標を明らかにすることが何よりも必要である。また、地形・地下水位などの物理的要因との関係の考察が必要であり、時間変化としてとらえられるとさらに良い。かく乱の規模と生物種の分布との関係をいかに解析するかも重要である。ただし、「時空間不均一性」に注目することは従来の研究手法とどこが異なるのかは不明確であり、研究を進めながらオリジナリティをより明確にしていただきたい。リモセンと現地調査の組み合わせは妥当と思われるが、リモートセンシングで絶滅危惧種を同定できるのかには疑問がある。火入れしない区、刈り込み区などの実験区を設置して研究を進めるのは一つの手であろう。

5) 対処方針

従来の観測方法を使った調査では意義が不十分ではないかという点については,従来法であっても,現場での適用実験が十分にされていない方法の実用化を試みることには意義があると考えている.森林ではなく草本群落を対象にして,群落高の推定や植生タイプの識別を詳細に行うことは,方法論的なチャレンジである.この点を明確にするよう,留意して研究を進める.

人為的な要因を考慮したモデル化を行うべきではという点については,当然,火入れ,工事などの人為的要因を考慮路した分布予測モデルを開発する予定であり,じゅうぶんに対応できるものと考えている.火入れの有無などの実験区を設置することは,現地の管理体制などから困難であるが,たまたま火が十分に入らない場所は発生するので,これを利用して火入れの効果の解析ができないか検討したい.

地形・地下水位も考慮すべきという点については,地形はリモートセンシング画像を利用して詳細に把握し,これを植生の分布予測モデルでも活用する予定である.地下水位も重要な要因であるが,水文学的な調査を担当できるメンバーが確保できていない.担当者確保の努力をしたい.

草本植物の場合,リモートセンシングで絶滅危惧種を同定することは困難ではないかという点についは,直接,該当種を同定することは確かに困難ではあるものの,そのような種の分布確率が高い場所を探し出すために地形・色彩・群落高・展葉時期の違いなどリモートセンシングで得られる多面的なデータを利用したいと考えている.本課題の実施期間を通じて,そのような手法の開発をめざす.

時空間的な不均一性に注目することのオリジナリティについては,特に洪水・火入れの履歴を過去の航空・衛星画像などから再現し,これと植生の分布との対応関係を解析すること,植物群落の空間的な分布パターンを正確に把握したうえで,これと鳥類などの分布とを結びつけることなどにあるものと考えている.この点が明確になるよう,意識して研究を進める.