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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
4. アジア自然共生研究プログラム

4.2 東アジアの水・物質循環評価システムの開発

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

長江、黄河を中心とした東アジア地域の流域圏について、国際共同研究による水環境に関する科学的知見の集積と持続的な水環境管理に必要なツールの確立を目指し、観測とモデルを組合せ、水・物質循環評価システムの開発を目的とする。さらに、都市・流域圏における環境管理の技術インベントリを整備し、持続性評価指標体系を構築することにより、技術導入効果に基づく適切な技術システムと政策プログラムの設計を含む流域の長期シナリオ・ビジョンの構築の方法論の開発を目指す。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

広域的な水・物質循環を評価するためのリモートセンシング観測技術、新しい計測手法等による観測システムを活用し、衛星データ、GIS(地理情報システム)、観測データ等に基づく、水・熱・物質循環を考慮した東アジア環境情報データベースを構築する。次に、上述のデータベースに基づき、広域的な気象・地形・土地被覆の条件が互いに影響し合う複雑な過程、相互関係を調べていくことにより、水・物質循環を評価するモデルを開発する。それによって、人間活動による土地改変や気候変化などが、水不足・流出等の水循環、炭素・窒素等の物質循環、海洋生態系に及ぼす影響を評価する。さらに、地域における環境管理の技術インベントリを整備し、流域圏の持続性評価指標体系を構築することにより、技術導入効果に基づく適切な技術システムと政策プログラムを評価し、設計する。具体的に、

  1. 広域的な水・物質動態の計測手法による観測を活用し、衛星データ、GIS、観測データ等に基づく、東アジア水・物質循環情報データベースを構築する。また、長江流域の開発により、河川を通じて流入する汚濁物質等の陸域からの環境負荷の量・質的変化の影響の推定と解析を行う.さらに、気象・地形・土地被覆の条件が互いに影響し合う複雑な過程、相互関係を調べていくことにより、水・物質循環を評価できる統合型モデルを構築する。
  2. 長江流量と栄養塩濃度の季節変動を含むデータを整備し、長江河口沿岸の埋め立て工事に伴う干潟の消失に伴う水質浄化機能の低下を評価するデータを収集する。また、長江起源水により輸送される栄養塩類の藻類群集による取り込み過程およびその行方に関する検討を行う。さらに、長江から東シナ海における汚濁元素の輸送循環を評価するための低次水界生態系モデルを構築する。
  3. 拠点都市域からの汚濁物質フラックスの把握と解析をして,汚濁負荷インベントリを構築し、衛星データ等を用いる都市・流域内における植生変化,都市の技術・政策インベントリの水循環に及ぼす影響のアセスメントモデルを構築する.さらに拠点地区において水・物質資源制約とその都市活動と基盤装置の立地条件の検討に立脚する技術・政策インベントリの評価技法の開発とともにそれを用いた長期シナリオ・ビジョン研究に取り組む。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

東アジア地域の水問題は重要であり研究意義は深い。本プロジェクトは、既開発の要素モデルを組み合わせたシステム・モデルの開発であり、研究目標および目的などは明確である。環境政策に大きな視点があることは重要であり、社会・行政へのインパクトも期待できる。また、日本では既にノウハウが蓄積された研究テーマも多く、日中環境協力という観点から国際貢献が期待できるだろう。しかし、中国の研究者のニーズを把握できているか、また日本への影響は明らかになるのかといった点については更なる検討や議論が必要である。東アジアの持続可能な水環境管理というより、むしろ中国国内の水環境問題に限った内容に受け取られかねないので、研究の対象範囲を的確に設定する必要があるだろう。関連して、水循環を伴う物質循環だけではなく大気、河川、陸という全体から見た循環像を明らかにすべきかもしれない。実践的貢献のためには水質改善のための導入技術の経済性評価・社会的受容性などの視点が必要と考えられる。モデルの統合と精緻化によってどのような改善策の提言ができるのかのイメージをはっきりさせることが重要である。

2.研究の進め方、組み立て

ロードマップは明確であり、計画にそった成果が期待されるが、研究目標をより具体的にすべきであろう。また、広範なテーマであるため成果の統合やその科学的解析手法の妥当性の検証に懸念が残される。関係要素のオーダリングから重要な要素を抽出できているかを確認し、どのような環境改善策の提言ができるかの道筋を明確にすべきであろう。また、広範かつ高精度の観測データが必要なだけに中国側との効果的な分業・協調体制が欠かせない。若い研究者を育成する視点も重要になるだろう。各論としては、モデルの信憑性は常に検証・改善されるべき事、統合モデルの機能を明確にすべき事、既に過利用・過汚染されている黄河との比較研究も必要、既存手法の適用と自然共生・循環型流域システムへの発展とは区分して対策を提案すべき事、我が国の水質改善に関わる古い技術の総括と国内伝承と中国への移転が重要である事、などの点に配慮して、研究を進めていただきたい。

5) 対処方針

1.研究内容について
  1. 中国の研究者からのニーズを把握するため、本年度、長江水利委員会と連携して「第一回日中流域水環境技術研究討論会」を開催した。さらに、具体的な研究課題、期間を詳細に議論するためのワーキンググループを招集することによって、中国の研究者からのニーズを把握することができると考えている。
  2. 研究の対象範囲が中国であっても、中国を典型的なモデルとしてアジア全体へ応用できるように研究対象を設定する予定である。最上位の目標としてアジアを見据えており、これまでの実績に基づき、中国で方法論を確立していきたい。
  3. 日本への影響を明らかにするため、東シナ海を通じた日本への影響を検討する。そのためには中国沿岸域の現況把握が重要となるため、共同研究実施による基盤的データの集積を図る。
  4. 水循環に伴う物質循環だけではなく大気、河川、陸という全体から見た循環像を明らかにするのは容易な事ではないが、プログラム全体として大気、水、生態系をプロジェクトとして扱っており、プロジェクト間の密接な連携を進める。
  5. 実践的貢献のためには、既存技術を含めた環境改善の導入技術インベントリを検討して、その改善効果と、経済性・社会的受容性などを評価する研究に取り組む。プロジェクトの中で代表的な地域を選択して検討し、その特性に応じた対策提案を可能にするように研究を遂行したい。
2.研究の進め方、組み立てについて
  1. ロードマップに沿って研究を進めたい。研究目標についてはご指摘を踏まえてより具体的にしていきたい。総括的な研究目標としては、長江流域圏を中心に人間活動による土地改変や気候変化が水・物質(炭素・窒素等)循環を生態系に及ぼす影響評価、およびそれの対策技術システムを評価することであるが、研究目標については、研究対象地域を絞ることによってさらに具体化すると共に、成果の統合や科学的な解析手法の妥当性の検証を可能にしたい。
  2. ご指摘に従い、関係要素のオーダリングから重要な要素を抽出し、環境改善策の提言のための道筋を明確にしたい。
  3. モデルと必要とされる観測精度についてはこれまでも精査してきたが、今後は相互の関連性をより明確に整理する。
  4. ご指摘に従い、プロジェクト期間には広範囲な研究者の参加が可能な研究交流の場を提供する。さらに、競争的資金を含めて、より強固な分業・協調体制を模索・構築中であり、プロジェクトの進行と共に国際共同研究としての完成度を高めていく予定である。
  5. アジアの環境問題はいまだに公害型であるが、本プロジェクトでの共同研究を通して、若手研究者が環境問題解決への総合的な視点を持てるよう育成していきたい。
  6. 黄河は既に日本の他のプロジェクトで取り上げていた経緯もあり、比較研究に向けて検討を進める。また、既に「温故知新」のコンセプトに基づいた技術情報の整理と体系化に着手しており、その中から中国型への発展を考えていく予定である