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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
4. アジア自然共生研究プログラム

4.1 アジアの大気環境評価手法の開発

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

東アジアを中心としたアジア地域について、国際共同研究による大気環境に関する科学的知見の集積と大気環境管理に必要なツールの確立を目指して、観測とモデルを組合せ、大気環境評価手法の開発を行う。具体的には、

  1. 広域越境大気汚染観測のための多成分・連続観測を含む地上観測拠点を確立するとともに、黄砂についてのライダー観測・地上観測ネットワークをモンゴル及び東南アジアへ拡大する。
  2. 中国・日本における航空機観測を含む集中観測を実施する。
  3. 本プロジェクト及び国内外の機関の共同研究により得られる観測データをデータベース化する。
  4. 数値モデルのマルチスケール化と観測データベースの活用により、広域大気汚染の全体像を把握する手法を確立する。
  5. ボトムアップ的手法による精緻化と、観測データ及び数値モデルを用いたトップダウン的手法を組合せ、大気汚染物質の排出インベントリを改良する。
  6. 化学気候モデルを開発し、2030年までのアジアの大気環境の将来予測を行う。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

エアロゾルおよびガスの大気汚染物質と黄砂の地上観測、航空機観測、ライダーネットワーク観測等を行い、国際的にも観測の連携を進めるとともに、モデルと排出インベントリの精緻化を進めて、観測データ・モデル解析の両面から日本国内を含むアジア地域の大気環境施策立案に必要な科学的知見とツールを提供する。以下の3つのサブテーマについて研究を進める。

(サブテーマ1:アジアの広域越境大気汚染の実態解明)

沖縄辺戸ステーションをベースにした地上通年観測による、長距離輸送されたガス・エアロゾルの解析を行うとともに、辺戸を中心として対流圏大気変化観測の連携を進める。また、航空機観測による広域汚染分布の解明とモデルとの突き合わせを行って、東アジア地域全体の広域大気汚染の実態把握を行う。さらに大気観測の国際協力を推進し、これによるアジア域の大気環境のデータベース化を行う。

(サブテーマ2:アジアの大気環境評価と将来予測)

マルチスケール大気汚染モデルと化学気候モデルを開発し、観測データをもとに検証するとともに、観測データや数値モデルを用いて大気汚染物質の排出インベントリを改良する。開発・改良したモデルと排出インベントリおよび観測データベースを活用して、アジア広域から国内都市域における大気汚染の全体像を把握する手法を確立する。更に、将来シナリオに基づく排出予測結果と化学気候モデルを使って、2030年までのアジアの大気環境(気候と大気汚染)変動を予測する。

(サブテーマ3:黄砂の実態解明と予測手法の開発)

東アジア地域で増大している黄砂の発生から輸送・沈着を把握するための、ライダーを中心とするリアルタイム観測ネットワークを展開・整備すると同時に、化学分析のための黄砂サンプリングも行う。これらのリアルタイムデータをモデルに取り込むデータ同化手法を確立し、黄砂予報モデルの精度を向上する。また、黄砂による汚染物質の変質過程をモデリングする。最終的に、砂漠化や気候変動などによる黄砂の将来変動を予測する。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

広範囲な大気環境データベースの作成は意義があり、また大気環境管理を目指す方向に期待できる。国際的に重要なテーマであると同時に我が国としても重要なテーマといえる。また、他では実施しにくい国立環境研究所が実施すべき研究といえる。一方で、観測成果は得られるが理論的な科学的知見がどれほど得られるのか不明なので、その点には留意していただきたい。汚染物質の広域動態解析モデルの進化には期待できるが、我が国への環境影響という一方通行の影響評価モデルではなく逆方向の影響・相互依存性を考慮した統合評価モデルを基本とすべきであろう。また、輸送フラックス・沈着フラックス・化学反応も考慮できるとなお良い。排出源インベントリや社会・経済モデルとの結合が成否の鍵なので、排出源特定は可能か、政策・対策にいかにつなげるかという視点でモデルの内容を吟味していただきたい。対応国家間で合意形成ができるように、測定やモデル化等についてはできれば国際標準化を目指して欲しい。

2.研究の進め方、組み立て

よく計画されているが、対象汚染物質と測定精度・代表性が不明確、測定方法の改良はどの程度行うのか不明確、モデルの予測精度が不明確といった点があるので、一応の具体的目標を設定すべきであろう。そのなかで本プロジェクトの限界も明らかにし、大風呂敷を広げることがないようにするとよい。環境影響の把握には、長期的なモニタリング観測網との連携も重要であるし、モニタリング地点の選定も重要であろう。年間を通した定期的な航空機観測や他の研究成果を活用してみてもよいだろう。モデルについては、大気汚染の気候影響予測モデルと排出源との因果関係を評価するモデルは特性がかなり異なるので統合しない方が良いかもしれない。また、中国へのモデルの適用性にも配慮すべきであろう。

研究を進める上では、アジア側の研究発展も必要であるので、我が国と他国の比較優位分野などを明確にして国際協力体制を構築し、能力向上と交流を図ることに努力していただきたい。

5) 対処方針

  1. 本研究では、地上・航空機・衛星の観測データとモデルを組み合わせることにより、長距離輸送によるエアロゾル化学成分の変質過程の解明、気候変動と大気汚染の相互作用の検出、輸送・沈着フラックスや化学反応の生成消滅率などのプロセス・収支解析などを進め、東アジアの大気環境に関する理論的な科学的知見を得たい。また、本研究の対象物質は、健康影響、生態系影響、気候影響が大きいと考えられる、対流圏オゾン、エアロゾル(黄砂を含む)及びそれらの前駆物質とする。
  2. 東アジア地域の大気環境を代表するバックグラウンド地点として、沖縄本島北端の辺戸岬を選定し、ここに設置した観測ステーションを、他研究機関からの参加を含めたスーパーサイトとして運営し、長期のモニタリングも視野に入れた、エアロゾルおよびその前駆物質の観測を行う。更に、中国本土上空および東シナ海上空での航空機観測を行い、ライダーネットワークによる観測とも組み合わせて空間分布の把握に努める。なお、長期的な環境影響を把握するために、これらの観測だけでなく、ABCやEANETのような長期モニタリング観測網との連携や衛星観測データの活用を図りたい。また、予算・人的資源の面で困難性は高いが、沖縄以外の観測拠点の設置に努力したい。観測計画作成時には、モデルや衛星データの解析に基づいて、地点選定等を行う予定である。
  3. 排出インベントリは、本研究の重要課題と位置付けており、a) 地上・航空機・衛星の観測データとモデルを組み合わせたトップダウン研究、b) 他国のインベントリ研究者と協働して各国の排出実態を反映するボトムアップ研究、を併行して進めることにより、これまでに開発してきたインベントリの精度向上を図りたい。
  4. 大気汚染の気候影響予測モデルと排出源との因果関係を評価するモデルは別のものとし、各々、化学気候モデルとマルチスケール大気質モデルを使用する予定である。しかし、大気質・気候の相互作用を解析し、その結果を対策に結びつけるためには、両モデルを統合する視点も重要であり、その点も念頭に置いて研究を進めたい。
  5. 国立環境研究所では、国際度量衡局(BIPM)や米国標準技術研究所(NIST)との国際協調のもと、オゾンの高精度標準を維持しており、2005年以降、この標準を用いて東アジア・日本国内において国際相互比較実験を主催するなど、アジアにおけるオゾンの精度管理において主導的役割を果たしている。今後も引き続き、測定の精度向上・精度管理に努めたい。また、モデルに関しても、相互比較実験や共同解析を通して、他国と協働して研究を進める方針である。
  6. 社会経済モデルや社会・生態系影響評価モデルを含めた統合評価モデルの開発・適用は、本研究の対象外であるが、東アジアの大気環境管理を進めるためには重要であるので、それを念頭に置きつつ研究を進めたい。具体的には、社会経済モデルを利用した排出量の将来予測、農作物や水環境(「東アジアの水・物質循環評価システムの開発」プロジェクトとの連携)に対する影響評価などを実施し、統合評価モデルのための準備を進めたい。また、東アジア全体の汚染動態を解明する研究を進め、他国から我が国への一方通行の影響評価研究にならないようにしたい。なお、社会・経済の相互依存性を考慮して大気汚染の双方向性を検討する視点は、国際協力体制を構築する上でも重要と考えられるため、研究期間後半にその評価方法の検討を開始する方向で準備を進めたい。