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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
3. 環境リスクプログラム

3.4 生物多様性と生態系機能の視点に基づく環境影響評価手法の開発

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

化学物質や富栄養化による環境汚染、開発による生息地の喪失・分断化、消費的資源利用のための乱獲、外来種の侵入など、自然生態系に対する人為的な環境ストレスは複数の要因によってもたらされる。これらの要因の相対的な大きさを正しく評価して、合理的かつ有効な環境政策に資するためには、質的に異なる要因の生態影響を共通の尺度で評価する包括的な環境リスク分析手法が必要である。特に、近年、環境ストレス要因の多様化によって、このような環境リスク分析手法の開発が急務となっている。しかし、これらの環境リスク要因の解析は、環境毒性学における生態リスク分析、保全生物学の存続可能性分析、資源管理学における維持可能収量分析などで個別に行われてきた。本プロジェクトは、環境リスクの評価尺度を生物多様性消失と生態系機能低下に統一することによって、包括的な生態影響評価手法を開発し、実際の野外フィールドにリスク分析手法の適用を試みる。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

具体的な野外フィールド(沿岸域・淡水域)において、質の異なる複数の環境リスク要因が生物個体群や生物群集に及ぼす影響を評価する。有用生物資源量の低下や生態系のカタストロフをエンドポイントとし、エンドポイントを引き起こす因子や生物間相互作用の関与などを現場での調査、実証実験および数理モデルから明確にする。一方、侵略的外来種については、生物移送に伴う固有性撹乱の指標としてESU(進化的重要単位)の設定を行う。侵入種の原産地および侵入先での生息環境の条件をもとに、侵入種の分布拡大予測アルゴリズムを構築し、地図情報を併用することにより侵入種分布予測マップを作成する。汎用性の高い生態リスクの数理的解析法の開発を行う一方で、具体的な事象に基づきモデルの妥当性を検証しながら、包括的な環境影響評価手法を開発する。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

多岐にわたる課題を扱う意欲的な研究プロジェクトである。環境問題の解明・解決に寄与し、科学技術・学術に対する貢献度は高いと考えられる。一方、政策への提言等の研究成果の出口が見えにくい。人間の生活とのバランスの取り方や受容しうるレベルの設定は可能かという点を含め、環境修復への提言をどのように行うかを考えていただきたい。多岐にわたるということは、サブテーマ間の繋がりが希薄になりかねないことを意味するので、それを統合する数理モデルの果たす役割は非常に大きいと考えられる。その一方で、数理モデルに余りこだわり過ぎてもよくないだろう。

2.研究の進め方、組み立て

フィールド調査が多岐に亘るので研究が遅れないように、また、遠隔地での調査研究が負担にならないように注意して研究を進めていただきたい。また、研究組織を拡充する必要があるかもしれない。他の課題研究グループとのコミュニケーションを保ちつつ研究を展開すべきであろう。一般人へのアピールにつながる工夫も必要であろう。

5) 対処方針

1.  サブテーマ間の繋がりが希薄にならないよう、意識して連携に努めるとともに、有効な数理モデルの開発に力をいれる。本プロジェクトの研究成果は、沿岸環境(東京湾)の保全に向けた提言(新たな環境基準の設定などを含む)、ため池を含む地域環境の保全に取り組む兵庫県行政への提言、淡水域の自然再生手法への提言、外来生物法における特定外来生物の新規指定や特定外来生物の駆除法の確立など、環境政策にも十分寄与するものと考えている。

2.  フィールド調査は、漁業者や地元の農家と良いコミュニケーションを保ち、一般人の声を研究や研究成果の発信に活かすように心がける。研究組織の拡充は視野に入れる。そのためにも、国内外の研究者との情報交換などを積極的に行うよう努力する。さらに、競争的資金の獲得を通じて、他の研究グループとの共同研究を積極的に展開する。一般人への研究情報の発信や環境リスク管理・自然環境の保全へのアピールは、シンポジウム、講演、ウェブページの活用などを通して積極的に行いたい。