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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
3. 環境リスクプログラム

3.2 感受性要因に注目した化学物質の健康影響評価

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

環境化学物質による内分泌系・免疫系・神経系などの高次生命機能のかく乱による生殖・発生・免疫・神経行動・遺伝的安定性などへの影響の解明が求められている。本研究では、先端技術を活用したバイオマーカーやスクリーニング手法の開発などにより、化学物質に対する感受性要因に注目して健康影響を評価する。特に、胎児・小児・高齢者や遺伝的素因保持者などの化学物質曝露に脆弱な集団の高感受性要因の解明を進め、高感受性の程度を把握し、感受性の個人差を包含したリスク評価、環境リスク管理対策の検討に必要となる科学的知見を提供することを目的とする。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

本研究では、まず、環境化学物質に対し高い感受性を示す集団の候補、環境化学物質に対し高感受性を示す高次機能指標、高感度・高精度に影響評価することが可能な評価法について、これまでの疫学研究、臨床研究、実験動物研究から割り出し、動物モデルを用いて実際の化学物質曝露を行い想定される高感受性要因を同定・検出する。さらに、評価期間の短期化や簡便化を図れる新たな高次機能影響評価モデルを開発し、総合的な評価を可能にする。また、これに並行し、複数の環境化学物質を対象とし、環境化学物質の高次機能影響を評価する。次に、同定・検出された因子を、ヒトにおける高感受性集団曝露による影響評価に適用できる指標として応用し、適切な評価法の確立をめざす。化学物質による高次生命機能の撹乱による、生体恒常性維持機構に及ぼす影響の解明を通して、環境中に存在する化学物質に対する感受性を修飾する生体側の要因を明らかにし、感受性要因を考慮した化学物質の健康影響評価手法を提案する。具体的には、

  1. 低用量の環境化学物質曝露により引き起こされる神経系、免疫系などの生体高次機能への新たな有害性を同定し評価するモデルを開発する。
  2. 胎児・小児・高齢者など感受性の時間的変動の程度を把握し、発達段階に応じた影響を包含したリスク評価、環境リスク管理対策の検討に必要となる科学的知見を提供する。
  3. 化学物質曝露に脆弱な集団にみられる高感受性を呈する要因の解明や様々な要因の複合影響を評価するスクリーニングシステムを開発する。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

リスク評価科学の進歩に貢献する大切な研究領域であり、社会的及び学術的貢献の高い研究といえる。実験動物モデルの開発を中心した研究は基礎研究としては大変面白い一方で、成果を社会へ還元するにはヒトへの影響が重要となるので、その点に留意して研究を進めていただきたい。特に、低濃度曝露の影響を生体システムのかく乱を指標として簡便かつ短期間で評価できるシステムの開発に期待したい。国立環境研究所としての成果発信を常に意識すべきで、将来的にOECDテストガイドラインなどに採択されることを視野に入れて研究を進めていただきたい。

2.研究の進め方、組み立て

いくつか要望したい点がある。まず、感受性要因についての定義を明確にすべきだろう。次に、本研究プロジェクトの達成目標も明確にすべきである。実験動物モデルの開発が目標となっているが、研究課題名と一致していない印象があるので、この点も再考いただきたい。一方、対象化合物を明確にすべきであろう。対象化合物の選定の際には、具体的問題があるものやメカニズムがよく分かっているものを対象にするとよいと考えられる。

感受性因子については、その数値化を目指してほしい。それから、遺伝的要因をどのように明確にするのか、また、遺伝的要因と発育ステージ別要因をどのように整理・識別するかは重要な点だと考えられる。アトピー性皮膚炎・過食生活・生活習慣・生活行動の因子を含めた検討や、曝露量や曝露時間との関連を明確にすることが望まれる。プロジェクトの実施に当たっては、他機関との協力研究を積極的に行い、他の医学関係でのデータとカップリングを行うことも検討すべきであろう。

5) 対処方針

1.  化学物質による高次生命機能のかく乱についての研究分野は新しい研究領域であり、ヒトへの影響が重要であることを常に念頭に置き、低濃度曝露の影響を生体システムのかく乱を指標として簡便かつ短期間で評価できるシステムの開発を進めより多くの研究成果の発信に努める。

2.  感受性要因の定義については、化学物質の曝露による影響のうけやすさに関わる生体内の要因と捉えている。達成目標として、サブ課題1は、化学物質による神経、免疫系での過敏状態を評価できるモデルの開発と検証を目標としており、サブ課題2は、胎生期や小児期での化学物質の影響評価から感受性因子の検索が目標である。サブ課題3は、アレルギー増悪影響のスクリーニングモデルや高次機能影響評価モデルを開発し、検証と評価を平行しつつ、簡便化、総合化を図るのが目標であり、ヒトへの健康影響評価に貢献すべく努力したい。対象化合物については、人での疾患との繋がりが疑われているものを選択しておりVOCs、内分泌かく乱化学物質やトリブチル錫などについて研究を進める予定である。メカニズムがよく分かっている物質は陽性物質として用いる予定である。感受性因子の数値化については、本研究の成果などを活用し、相対的評価を含む数値化の可能性などについて検討したい。遺伝要因の明確化については、当面は、免疫系での影響を遺伝的背景の異なる系統のマウスを用いた検討より、感受性にかかわる遺伝要因を明確にすることから検討を開始する。遺伝的要因と発育ステージ別要因の整理・識別については、サブ課題1(遺伝的要因を変化させ影響を検証)とサブ課題2(時間的要因を変えることにより影響)の連携を密にすることで対応する。アトピー性皮膚炎・過食生活・生活習慣・生活行動の因子を含めた検討については、過食生活・生活習慣・生活行動の因子は研究の焦点がぼやける可能性があり、アトピー性皮膚炎のみ研究計画に含めている。人での疾患とのつながりを重要視するために、国立病院機構相模原病院や北里研究所などと研究協力はすでに行っており、神経、免疫、内分泌の各基礎分野においても外部機関との研究協力については積極的に進めていきたい。