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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
3. 環境リスクプログラム

3.1 化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析による曝露評価

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

化学物質の曝露を考える上では、多数の物質による多重的な曝露、一つの物質の持つ複雑な影響スペクトル、排出から個人あるいは生態系への曝露に至る過程で関連する自然的、時間的また社会的な因子などを考慮した評価・解析が重要である。これらは、最終的なリスク評価における複合影響の評価において特に不可欠な解析となるが、まず当面は、可能な範囲の複合的要因の総合解析による、化学物質の曝露のより包括的な評価を目指すことが必要と考えられる。本プロジェクトでは、(1)地域GIS(地理情報システム)詳細モデルおよび地球規模など複数の空間規模階層を持つ動態モデル群の総合的構築、(2)バイオアッセイと包括的測定の総合による環境曝露の監視手法の検討と曝露評価への適用、(3)モデル推定、観測データ、曝露の時間的変動や社会的要因などの検討と総合解析による曝露評価手法と基盤の構築と整備、の3つの課題を設定し、それらの有機的な連携を通じて化学物質曝露に関する複合的要因の総合解析を達成し、新たな知見を与えることを目指す。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

(1) 地域GIS詳細モデルおよび複数の空間規模階層を持つ動態モデル群の総合的構築

近年のGISおよびGISを基盤とする多媒体モデル等の成果を発展させ、地域スケールでの詳細曝露評価を可能にするための地域GIS詳細モデル、地球規模での汚染拡散が問題となる物質群を対象とする地球規模モデルの開発を中心とし、その他既存モデルの検討を含め、複数の空間規模を持つ化学物質特性からの複合的な曝露解析を可能にする動態モデル群の総合的構築を目指す。中期計画前半においては、個々の単位モデル群の開発・改良・導入またデータ整備を中心として検討する。後半においては、これらの階層的総合化のシステム開発と、これを用いた多重的および複合的規模を持つ曝露の総合解析を試みる。

(2) バイオアッセイと包括的測定の総合による環境曝露の監視手法の検討と曝露評価

環境観測を基盤として、多重的な曝露と種々の影響スペクトルを効率的に監視することを目標として、in vivoおよびin vitroのバイオアッセイ群による予見的な影響・曝露の包括的把握と、網羅的分析法を中心とする広範な物質レンジの効率的な監視手法を組み合わせた環境曝露の監視体系の再構築を行う。具体的には、大気・水環境を主対象とする多媒体の曝露把握を、バイオアッセイ群と網羅的測定の総合によって達成することを目指す。中期計画前半においては、環境試料へのバイオアッセイ手法の適用のための試料調製手法等の準備・開発を中心として行い、予備的な環境調査を実施する。中期計画後半では、前半での予備的環境調査の結果を踏まえたバイオアッセイ・計測体系の再構築と更に詳細な曝露把握のための環境調査を実施する。

(3) モデル推定、観測データ、曝露の時間的変動や社会的要因などの検討とこれらの総合解析による曝露評価手法と基盤の整備

モデル推定、観測データおよび曝露に関連する社会的要因などを曝露評価において総合的に解析することを目標として、データ蓄積、一連のモデルやデータを蓄積また解析するための情報技術的また統計的手法の検討と開発を行う。また、曝露の時間的変動の検討を事例的に進めることを目標として、東京湾におけるフィールド調査と室内実験に基づき、残留性の高い化学物質による曝露の時間的変動の解析と動態パラメータの取得を目指す。これらの総合解析により、最終的に化学物質曝露に関する複合要因の総合解析を目指す。中期計画前半においては、データ蓄積、情報技術的および統計的手法の検討、また調査の実施を中心として行う。中期計画後半においては、データ蓄積や調査を継続しつつ、各課題の成果を総合的に解析する試みを行い、最終的に、複合的要因の可能な総合解析により、現在の化学物質曝露の総合評価の成果を提出することを目指す。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

包括的曝露評価を適切に行うためには不可欠な研究で、レギュラトリ・サイエンスとしても有意義な研究であり、環境研にしか出来ない研究といえるだろう。重点化すべき物質・複合影響・地域を明らかにすることの他、総合的な曝露評価手法のプロトコルを提言するなど、環境リスク問題の解明・解決に寄与することを大いに期待したい。個々の研究については、簡易迅速分析法やバイオアッセイ法の開発、それら情報をリスク管理に利用するための検討にも期待したい。また、食品由来の曝露・複合影響についての検討、長期モニタリングに使える指標や健康影響との関連付け、曝露量との相関を考慮した展望、化学物質の有益性の視点の追加、細胞レベルのリスク評価、親水性の化学物質の曝露評価など、さらなる発展を期待する点も多い。研究が発散しないように注意しながら、これらをふまえて研究を進めていくことが重要であろう。

2.研究の進め方、組み立て

研究を進める上では、ヒトの健康影響評価にどのように適用するか、GIS詳細モデルにPRTR情報とリンクを行うときのデータの精度差をどのように扱うのか、使用量≠環境放出量の物質についての曝露シナリオを考えているか、バイオアッセイデータと物質をどううまく関連づけて影響評価をするのかといった点を検討されたい。また、社会・行政へいかに貢献するかの目標が不明確である。本研究と疫学調査をうまくリンクさせないと社会・行政への発信が弱くなると思われるので、これらのことに留意して研究を進めていただきたい。一方、関連する研究分野・研究グループとの連携が必要であり、特に、他機関で蓄積されているデータと融合を検討していただきたい。また、用語・説明が難解なので、その点も注意が必要。

5) 対処方針

1.  曝露評価において多数の物質による曝露や曝露量の分布を総合的・包括的に把握することが環境リスク問題の解明と解決に重要な課題であると考えており、環境研としての成果を提出すべく努力したい。個々の研究へのご指摘のうち、バイオアッセイ法の開発については、長期モニタリングや健康影響への関連付け、細胞レベルのリスク評価などのご指摘を意識しつつ、今年度から取り組んでいく計画である。親水性の化学物質の曝露評価については、主にGIS詳細モデルの検討の中で取り組んでいきたい。また、分析とバイオアッセイの結果をリスク管理で利用するための検討というご指摘には、環境リスクセンターの別課題とも連携しつつ、当面はデータ蓄積を進める計画である。一方、本研究の中ではバイオアッセイとこれに関連する包括的曝露計測が一つの目標であり、必ずしも簡易迅速な分析法の検討は計画していないが、意識しつつ研究を進めて行きたい。食品由来の暴露評価は重要な課題と認識しているが、実施の可能性を含め3年目以降に検討したい。化学物質の有益性の視点については、まずどのような方向性があり得るか新しく検討を開始したい。

2.  ヒトの健康影響評価にどのように適用するかというご指摘については、GIS詳細モデル等による詳細曝露評価の結果は、ヒト健康リスクの個体差を考察する際に一つの重要な要因として利用されるものと考える。GIS詳細モデルとPRTR情報のリンクにおけるデータの精度差は重要であり、モデルにおける精度差への適切な配慮、またPRTRの精度改善のための提言の双方を含めて検討したい。バイオアッセイデータと物質情報の関連付けは本プロジェクトの主要な関心の一つであり、環境リスクセンターの各課題とも連携しつつ、さらに他機関で蓄積されたデータを有効に活用・融合することを考えながら検討したい。また、これらの成果の発信を通じて社会・行政の貢献に努力したい。本プロジェクトは環境リスクプログラムの他の中核研究プロジェクト、特に中核研究プロジェクトとは既に連携を図って進めている。一方、使用量≠環境放出量の物質の曝露シナリオは重要な課題と認識しているが、3年目までにまず方針を検討したい。また、疫学調査については、本プロジェクト内部での実施はおそらく困難であり、研究所内外との連携により本プロジェクトの成果と疫学をリンクさせる可能性を3年目までに検討したい。なお、用語・説明については改善に努める。