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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの事後評価
2.成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明プロジェクト

  • 更新日:2006年9月25日

1)研究の概要

環境省が開発した人工衛星搭載オゾン層観測センサー「改良型大気周縁赤外分光計II型(ILAS-II)」(運用期間:平成15年4月−10月)で取得された観測データを処理・検証解析した後、オゾン層研究の科学的利用のためのデータプロダクトとして、国内外に向けて提供する。地上からのオゾン層モニタリングを継続実施し、国際的ネットワーク(NDSC)のデータベースへの登録を通して、データを提供する。観測データの解析や数値モデルを利用して、極域オゾン層変動に係る物理・化学プロセスの解明、オゾン変動要因の割り出しとその寄与の見積もりを行う。オゾン層保護対策の有効性の評価および将来のオゾン層変動の予測を行う。また一層の予測精度の向上を目指す。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成17年度研究成果の概要

(1) オゾン層の監視
(ア) 衛星モニタリング
  • ILAS-II 観測スペクトルデータの処理アルゴリズムの改良とそのデータ検証に務めた。オゾン、硝酸、亜酸化窒素、メタン、エアロゾルなど各観測化学種に対して検証解析(Version1.4)を実施し、その精度評価を行った。その成果はアメリカ地球物理学会誌に特集として発表予定(2006年6月)。
  • ILAS-II Version 1.4プロダクトを国内外の一般ユーザーに向けて2006年2月に提供した。
  • プロジェクトの最終データプロダクトの提供に向けたVersion 2.0アルゴリズムを開発、一部データをサイエンスチームメンバーに提示。プロジェクト終了時点での最終プロダクトのサイエンスチームメンバーへの提供を可能とする。
  • ガス−エアロゾル同時算出手法をILASデータに適用し、N2O, CH4, H2O, O3間の相関を利用してその手法の有効性を実証すると共に、極成層圏雲(PSC)の組成判別への応用の可能性を明らかにした。
(イ) 地上モニタリング
  • 陸別のミリ波オゾンデータをNDSCに登録した。
  • 下部成層圏オゾンデータの取得のため、つくばミリ波分光計に対しハード面(1GHz帯域分光計の導入と新たな光学システムの開発、広帯域/狭帯域分光計の併用による不安定要因の解決)およびソフト面(オゾンの高度分布データの導出アルゴリズムの開発)の改良を実施。下部成層圏から中間圏におよぶ高度領域でのオゾンモニタリング手法を確立した。
  • 38-76kmの高度領域でのオゾンモニタリングの結果、60km以上の高度領域で新たな季節変動を発見。また、下部成層圏での垂直・水平方向の短周期振動を発見。
(2) オゾン破壊機構解明
  • ILAS-IIデータを利用したPSC出現頻度と最低気温や硝酸混合比との相関の有無を明らかにし、バックグランドエアロゾル(成層圏硫酸エアロゾル)の存在の重要性を示した。
  • 極渦生成期や北極夏季などのオゾンの変動原因をILAS/ILAS-IIデータや3次元化学輸送モデル(CTM)で明らかにした。
  • また、トレーサー相関法を用いて南極オゾンホール期間のオゾン分解速度の見積もりを行った。
(3) オゾン層のモデリング
  • CCMおよびCTMを開発し、オゾン分布の再現性などをチェックし、更なる高精度化に向けて、臭素化学系の導入や大気球面効果の導入、更には空間分解能の向上などを行った。
  • 更に臭素化学反応系を含んだ改良版CCMでの過去のオゾン層変動再現実験や将来予測実験を実施した。

4)外部研究評価委員会の見解

  1. 成層圏オゾン破壊に関連する研究の展開は、新しい知見を得るなど、当初の期待を十分に達成する成果を得ている。ILAS、ILAS-IIは途中で運用停止となる不運もあったが、運用期間中に得られたデータを十分に活かすことが出来ているのは高く評価できる。
  2. 衛星観測・地上観測・オゾン層消長モデルの研究の3要素がよく構造化され、測定法の開発・検証、成層圏オゾン層分布や破壊機構の解明の基礎研究、オゾン層消長に関する独自モデルの開発においてみるべきものが得られている。
  3. 得られた成果はJournal of Geophysical Research特集号にまとめられるなど、国際的にも先導的な研究プロジェクトとして認識される。今後このプロジェクト経験を国際協力観測などの面で如何に活かしていくか、成果を如何に社会還元していくのかなどの点で多くのことが期待される。