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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
1. 地球温暖化研究プログラム

1.4 脱温暖化社会に向けた対策の統合評価

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

地球温暖化問題は、社会経済活動と密接な関係があり、地球温暖化問題を解決するためには、科学的なメカニズムを明らかにすることとともに、将来の社会経済のあり方を含めた議論(社会構造そのものを温暖化防止に資するものに転換する「脱温暖化社会」の構築に向けた議論)が重要となる。また、温暖化対策の目標の設定や枠組を明らかにし、その効果を評価することは、温暖化対策を効率的かつ効果的に実施する上で必要不可欠である。

本研究課題では、脱温暖化社会のビジョンやその構築に向けたシナリオの検討、国際交渉の枠組、さらにはこれらの評価を定量的に行うためのモデル開発やモデルの適用を通じて、温暖化を防止する社会の構築やそれを支える温暖化政策を支援することを目的とする。また、モデル開発及び政策分析では、途上国との共同作業を通じた人材育成を行うことで、アジアを中心とした途上国における温暖化対策の促進に貢献することも目的とする。

温暖化研究プログラムにおいては、中核研究プロジェクト1,2との共同作業により温室効果ガス排出インベントリの検証を行う。また、排出経路や安定化濃度を中核研究プロジェクト3と共有することで、温暖化影響をフィードバックした対策の評価を整合的に分析する。これらの研究を通じてIPCC等への国際貢献を行う。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

平成18年度においては、(1)2050年の脱温暖化社会の定量化と他国の脱温暖化シナリオとの連携方法の検討開始、(2)炭素市場メカニズム等、京都議定書の下で発足した各種制度の評価、問題点の整理、(3)日本を対象とした温暖化対策の費用・効果分析、温暖化対策と他の環境問題の統合施策の定量的評価を行う。

平成19年度においては、(1)2050年の脱温暖化社会に向けた実現可能な発展経路の同定、アジア主要国のビジョン検討枠組の構築の開始、他国の脱温暖化シナリオとの連携の拡大、(2)炭素市場メカニズム等、京都議定書の下で発足した各種制度の問題点の整理と改善策の提示、(3)アジア主要国を対象とした温暖化対策技術の移転の効果分析(削減ポテンシャルの評価)と長期の温暖化対策と短期の適応策の統合評価を行う。

平成20年度においては、(1)中長期および短期環境政策への具体的提言アジア主要国のビジョン構築の進展(各国の実情に合わせたモデル適用)、他国の脱温暖化シナリオとの連携による政策提言、(2)京都議定書以降の国際的取り組みに関する改善策の提示(批准等で数年かかることから、2013年から次期制度を開始するためには2008年までに合意することが必要と考えられている)、(3)アジア主要国を対象とした温暖化対策と他の環境問題の統合評価を行う。

平成21年度においては、(1)他の環境問題との関係を考慮した中長期および短期環境政策への具体的提言、(2)途上国や米国を含んだ全ての国が参加する長期的取り組みのあり方に関する具体的提言に関する検討、(3)国際的な枠組での温暖化対策の効果、費用に関する定量分析を行う。

平成22年度においては、(1)日本・アジア・世界における脱温暖化社会ビジョン・シナリオ研究の方策・適用・政策提言の総まとめ、(2)途上国や米国を含んだ全ての国が参加する長期的取り組みのあり方に関する具体的提言、(3)日本及びアジアを中心とした温暖化対策を中心とした環境・経済政策の効果に関する定量的評価を行う。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

温暖化対策に向けてのシナリオの提案、その実現に向けての国際的な枠組みとプロセスの提案、具体的な対応策の評価、を行う研究プロジェクトである。具体的な温暖化対策、政策提言に関する研究であり、且つ、国際的政策立案に直接関与する研究内容であり、時宜にかなった国立環境研究所/地球環境研究センターらしい研究プロジェクトである。特に、アジア主要国も包括した研究は今後の長期的対策を考えるうえで重要であり、社会に直結する課題といえる。

一方で、ビジョン・シナリオの作成において、シナリオの主要パラメータが何か、が判りにくく、具体的な方向が見えないという印象を受ける。パラメータを明らかにしたうえで、これらのパラメータについて各サブテーマがどうのように扱うかを明確にすることが必要であろう。また、ビジョン策定には、価値や理念が深く関係することから、価値・理念についての検討が必要であろう。

2.研究の進め方、組み立て

これまでの研究成果に立脚した着実な研究の進め方は評価できる。一方で、サブテーマ間での具体的なパラメータや、データ、情報の流れが見えにくい点が見られるため、サブテーマ間の関連を明確にして進めることが必要であろう。例えば、サブ課題1で提案されるビジョン・シナリオをどう評価して、サブ課題2、3に提供し、それがどうフィードバックされるのか。また、サブ課題2で提案される国際的な交渉プロセスが、サブ課題1、3でどう使われるのか、を明確にする必要がある。さらに一歩踏み込んで、本研究プロジェクトから、大胆なビジョン、政策提案を行い、その具体化を各サブテーマで検討することも進め方の一案であろう。

なお、本課題は国際的な研究であることから、実際に進行している国際的な交渉を対象として研究を進めることが望ましい。研究者のネットワーク作りに留意することも重要であろう。

5) 対処方針

ビジョン・シナリオ作成における主要パラメータとして人々の考え方、人口、国土・都市、生活・家庭、経済・産業に関する要素を考慮し、作成した叙述的シナリオをもとに、整合性のとれた定量的シナリオを開発することとしている。また、対象とする要素として、国内のエネルギー供給システム、都市システムから、国際貿易体制、気候変動に関する国際枠組みなどを想定している。また、社会・文化的価値や環境保全のための理念などもビジョン策定の重要な要素であることから、これらの検討を併せて行うこととしている。 サブテーマ間の関連については、以下に示す連携により研究を進める。

サブテーマ1では、2050年において我が国の温室効果ガス排出量を1990年排出量から60%から80%と大幅に削減するために必要な諸施策具体的提案を行う。この際、人口・世帯構造、家庭消費構造、都市・交通構造や産業構造および国際貿易構造に関し、歴史的トレンドおよび今後50年のうちに想定しうる社会・経済・技術革新を組み合わせた複数のシナリオを構築し、サブテーマ3と協力して定量化する。作業にあたって重要となるパラメータには、社会・経済面からは、人口動態・世帯推移に係る各種のパラメータ、消費性向、トリップ発生及びその性状に関する各種パラメータ、産業部門別の技術進歩率、投入産出係数、資本・労働生産性、輸出入率といったミクロレベルのもの、合計特殊出生率、都市化率、モーダルシェア、経済勘定に係る諸値といったマクロ的かつ演繹的なレベルのものがある。また、エネルギー技術面からは、ミクロレベルのものとして単体技術の革新、低廉化および社会受容性に関するパラメータ群が、またマクロ的かつ演繹的なレベルのものとしてエネルギー集約度、炭素集約度などがある。ビジョン・シナリオ作成にあたっては、これらのパラメータ諸値の変化特性および社会的易受容性を考慮しながら、目標ビジョンに到達可能なパラメータ値の範囲を同定・提示するとともに、その結果をサブテーマ2に引き渡す。

サブテーマ2では、京都議定書第一約束期間終了後(2013年以降)に我が国として追及すべき将来枠組み、そこに到るための必要な交渉プロセス、将来枠組み提案が実際に合意された場合に我が国が目指すべき排出量削減量や地球全体で到達できる排出抑制量、予想されるコストなどについて検討する。交渉動向等に関する最新の情報は、サブテーマ1及び3へ逐次フィードバックされ、対策の定量化に利用される。なお、サブテーマ2は、実際に進行している国際交渉の場を対象として研究を進める。

サブテーマ3の課題は、京都議定書の目標達成や2013年以降の枠組の有効性を検討するためのモデルを開発し、温暖化対策税やCDM等の対策の効果と費用ならびに温暖化抑制対策がもたらす副次効果を定量的に評価することである。サブテーマ3で推計する温室効果ガス削減ポテンシャルやアジア各国における緩和策・適応策の検討結果は、サブテーマ2において次期枠組みを検討する上で重要な情報を提供する。

研究者のネットワーク作りに関しては、日本で開発したモデルを新興国、途上国に適用するために必要な人材育成や次期枠組みの検討のための国際的な対話を実施し、これまでのネットワークを強化する。また、2006年から始まった日英共同プロジェクトを進展させ、先進国だけではく、中国やインドを始めとする途上国と連携した脱温暖化シナリオ分析を進める。なお、今年度は、日本を対象とした脱温暖化シナリオ開発や温暖化対策の費用・効果分析、種々の将来枠組みの検討を行い、来年度以降、アジア主要国などの我が国以外の脱温暖化シナリオ開発を行うとともに、我が国として追及すべき将来枠組みを一本化する。また、アジアの貧困については直接研究対象とはしていなかったが、途上国への対応としてこうした課題は重要であるので、貧困問題も含めてミレニアム開発目標を踏まえたモデル化の拡張が可能であるかを検討する。