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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
1. 地球温暖化研究プログラム

1.3 気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

効果的な温暖化対策を策定するためには、短中期および長期の将来に亘って人間社会および自然生態系が被る温暖化のリスクを高い信頼性で評価することが必要である。短中期については、将来30年程度に生起すると予測される極端現象の頻度・強度の変化を含めた気候変化リスク・炭素循環変化リスクを詳細に評価し、適応策ならびに炭素管理オプションの検討や温暖化対策の動機付けに資することを目的とする。長期については、安定化シナリオを含む複数のシナリオに沿った将来100年程度もしくはより長期の気候変化リスク・炭素循環変化リスクを評価し、気候安定化目標ならびにその達成のための排出削減経路の検討に資することを目的とする。地球温暖化研究プログラムにおける位置付けとしては、炭素循環観測研究から得られる最新の知見を取り込みつつ、主として自然系の将来予測情報を対策評価研究に提供するものである。

上記の目的を達成するため、極端現象の変化を含む将来の気候変化とその人間社会および自然生態系への影響を高い信頼性で予測できる気候モデル、影響モデル、および陸域生態・土地利用モデルの開発と統合利用を行い、炭素循環変動に関する最新の研究知見も取り入れた上で、多様な排出シナリオ下での全球を対象とした温暖化リスクを不確実性を含めて定量的に評価し、適応策、炭素管理オプション、および長期気候安定化目標に関する政策検討に資する。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

気候モデル、影響・適応モデル、陸域生態・土地利用モデル(いずれも全球規模のメッシュベースモデル)を相互に連携して用いて、

  • 極端現象リスクや吸収源オプションの検討が重要となる短中期(将来30年程度)
  • 気候安定化目標や排出削減経路の検討において重要となる長期(将来100年程度もしくはそれ以上)

の二つの時間スケールのそれぞれに対して、気候変化、陸域生態・土地利用変化、およびその社会経済影響を不確実性を含めて定量的に評価する。また、経済的因子を含む土地利用モデルと気候モデル・影響モデルを統合利用することにより、温暖化将来予測における自然システム‐社会システム間のフィードバックのモデル化を試みる。

具体的には、以下の3つのサブテーマで構成される。

(1) 気候モデル研究
  • 気候モデルの改良および必要な新規実験を行う。但し、想定されるIPCC第5次報告書のタイミングを考慮すると、組織立った新実験は本プロジェクトの終了時期頃に行うのが効果的なため、本プロジェクトでは主として既存のモデルと実験結果を利用する。
  • 特に短中期に注目し、温暖化に伴う熱波や豪雨等の極端現象の変化を地域的に詳細に評価する。
  • モデルの様々な検証、雲−エアロゾル過程など各種フィードバックの評価、20世紀再現実験の評価等を通じて、気候変化の定量的予測(気候感度)の不確実性を評価し、その低減を図る。
  • 気候感度の不確実性の定量化に基づき、短中期および長期の気候変化予測を確率的表現により定量化する。
  • 炭素循環過程を結合した気候モデルを利用して、気候‐炭素循環フィードバックの不確実性を評価する。サブテーマ3の陸域生態・土地利用モデルとの連携により、農林業による土地利用変化を考慮した気候変化予測を行う。
(2) 影響・適応モデル研究
  • サブテーマ1で得られる気候変化予測、サブテーマ3で得られる土地利用変化予測、およびAIM(中核研究プロジェクト4)の社会経済発展シナリオに基づき、温暖化の食料生産・水害・水資源・健康への影響を全球規模で評価する。
  • 影響モデルを高度化し、短中期の温暖化に伴う熱波や豪雨等の極端現象の変化による社会的影響を評価する。
  • 気候変化予測の不確実性の定量化を基に、確率的表現による温暖化影響のリスク評価を行う。特に、いくつかの安定化目標について、目標別に長期の影響評価を行う。
  • 影響評価結果に基づき、地域別の適応策の検討・提案を行う。
  • 食糧生産および水資源影響モデルと、サブテーマ3の土地利用モデルとの整合的な統合利用を図る。
(3) 陸域生態・土地利用モデル研究
  • サブテーマ1で得られる気候変化予測およびAIM(中核研究プロジェクト4)の社会経済発展シナリオに基づき、将来の陸域生態(森林・草地等)と土地利用(林地、農地等)の変化を全球規模で評価する。
  • 陸域炭素吸収源活動に対する温暖化対策からのインセンティブを含む、経済活動に伴う土地利用変化を考慮することにより、気候変化と社会経済要素のフィードバックを評価する。
  • 短中期および長期の将来における陸域炭素吸収源ポテンシャルならびにバイオマス資源ポテンシャルを評価する。
  • 衛星情報と社会経済インベントリ情報を用いて、高精度な土地被覆データセットを構築し、陸域生態・土地利用モデルへの入力とするとともに、影響モデル、気候モデルにも提供する。
  • 土地利用モデルと、サブテーマ2の食糧生産・水資源影響モデルとの整合的な統合利用を図り、サブテーマ1の気候モデルに土地利用変化シナリオを提供する。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

洪水や旱魃など気候変動に伴う極端現象等の温暖化リスクを、気候モデル、影響評価モデル、土地利用モデルを統合することにより評価することを目的とした研究である。身近なテーマを複数のモデルを統合することにより科学的な裏付けをしながら明らかにしようとする意欲的かつ優れた研究であり、社会への直接的な貢献が見えやすい重要な研究といえる。これまで個別に進められてきた気候・影響・土地利用の各モデルを統合する試みは新規性が高く、大変意欲的である。また、不確実性のある現象を影響の幅をふまえた評価として確率的に定量化する点も意欲的である。

一方で、個別の気候モデル、影響評価モデル、土地利用モデルが不確定性を有し、そのレベルが同じとは限らないことも事実である。モデルを統合することの意味を明確にすると共に、不確定性の評価、結果の検証に十分な対応策の検討が必要である。個別モデルの改良と共に、統合化の問題点に留意をしつつ研究を進めることが望ましい。

2.研究の進め方、組み立て

大変意欲的なプロジェクトであり進める価値がある。一方で、本研究プロジェクトの成果は、

  • 個別モデルをどう結合するか
  • 個別モデルの完成度、不確定性のレベルの違いをどう評価し、処理するか
  • 結果の検証をどう行うか

に大きく依存する。これらを念頭において研究を進めることが必要である。

例えば、モデルの完成度が揃っていないことを統合の際にどう処理するか、個々のモデルの発展度合いが影響することには十分留意すべきである。また、モデル化の妥当性や安定性についての説明が必要であろう。その意味でも、個々のモデルの検証とともに統合モデルの検証を行う必要がある。

なお、本プロジェクトは、中核研究プロジェクト1(温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明)と4(脱温暖化社会の現実に向けたビジョンの構築と対策の統合評価)とも関係することから、連携を取りながら進めることが望ましい。

5) 対処方針

個別モデルの完成度、不確実性のレベルの違いについては、個別分野のモデル研究の蓄積の程度や検証データの利用可能性の程度等に依存し、相当の違いが存在するものと認識している。また、特に社会的要素を扱う部分では、普遍的法則性が高い精度で成り立つ保証が無いことから、自然システムのモデル化と比較して本質的な難しさを持っているものと認識している。プロジェクトの遂行にあたっては、これらの点に十分留意し、モデル統合の方法やモデルの検証に反映させていきたい。具体的には以下に述べる。

モデル統合の方法については、個別モデルの完成度の違いや統合モデルの高度な複雑性に鑑み、徒に全てのモデルを一度に統合するのではなく、モデル間の結合の必然性や効果を検討しながら、逐次的に統合を進める予定である。今年度は互いのモデル結果を境界条件として用いながら個別モデルによる実験を行い、それと並行していくつかの部分結合の準備作業を行う。次年度以降、部分結合モデル(例えば気候+ダム+農業)の開発を順次進め、結合によって実現するフィードバック効果等に注目した解析を行う。

結果の検証については、個別モデル毎に可能な範囲で積極的に行う予定である。具体的には以下の通り。

  • 気候モデル:各種観測データ(再解析データ、衛星データ)による検証、特に20世紀の変動の検証
  • 水資源モデル:河川流量データによる検証
  • 農業生産性モデル:収量統計データによる検証、特に人為的投入量と気候変動の効果を分離して検証
  • 陸域生態モデル:国内外の観測・モニタリングデータによる検証、特にプロセスレベルの検証
  • 土地利用モデル:国内外のサイト単位の検証、オーストラリアを例にした大陸規模かつ100年程度の時系列変化に係る検証、衛星画像による全球規模の検証

不確実性の評価に関しては、今回のプロジェクト期間中に定量的な評価(確率的表現)までを現実的な達成目標とできそうなのは気候モデルについてのみであると考えている。その他の個別モデルについては、不確実性の高いモデルパラメータや入力条件に対する感度解析により大まかな不確実性評価を実施するとともに、気候モデルによる予測の不確実性の幅に対応した、影響等の不確実性の幅を求めることを目標とする。

中核研究プロジェクト1(および2)との連携については、以下の可能性があり、積極的に実施したいと考えている。

  • 炭素収支の時空間変動について、大気観測に基づく推定(1,2)と陸域生態モデルによる推定(3)との相互検証を行う。
  • CO輸送モデルのフォワード計算(1,2)に対して陸域CO交換量の推定データを提供する(3)。

中核研究プロジェクト4との連携については、以下の可能性があり、積極的に実施したいと考えている。

気候モデル、影響モデル等(3)を簡単化したものを統合評価モデル(4)に結合することにより、気候変化とその影響の社会経済へのフィードバックを含む将来シナリオを構築する。

統合評価モデルに組み込まれているトップダウン型の土地利用モデル(4)と、本プロジェクトのボトムアップ型土地利用モデル(3)の間で基本データ等を共有し、整合性を取る。また、バイオマス資源量の推定(3)をシナリオ研究(4)へ提供する。