ホーム > 研究紹介 > 研究計画・研究評価 > 外部研究評価 > 平成18年5月外部評価実施報告 > 衛星による全球二酸化炭素等の観測に基づく炭素収支の高精度推定

ここからページ本文です

Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
1. 地球温暖化研究プログラム

1.2 衛星による全球二酸化炭素等の観測に基づく炭素収支の高精度推定

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)プロジェクトは、環境省・国立環境研究所(NIES)・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の三者共同プロジェクトである。京都議定書の第一約束期間(2008年〜2012年)に、衛星で太陽光の地表面反射光を分光測定してSN比300以上を達成し(JAXA目標)、二酸化炭素とメタンのカラム濃度を雲・エアロゾルのない条件下で1%の精度で観測する。これら全球の観測結果と地上での直接観測データを用いることにより、インバースモデル解析に基づく全球の炭素収支分布の算出誤差を地上データのみを用いた場合と比較して半減すること(NIES目標)を目標にしている。

本研究ではこの目標達成に向けて、種々な観測条件下において取得されたデータに対して、雲・エアロゾル・地表面高度などの誤差要因を補正し、高精度で二酸化炭素・メタンのカラム濃度を導出することを目的に、衛星観測データの定常処理アルゴリズムを開発する。衛星打ち上げ前には、数値シミュレーションに基づいてデータ処理アルゴリズムを開発し、航空機や地上で取得する擬似データや直接観測データによりアルゴリズムの精度を評価し改良する。また、衛星打ち上げ後は、データ処理の結果を直接測定・遠隔計測データにより検証し、データ処理アルゴリズムの更なる改良を行う。また、この衛星観測データと地上での各種の直接測定データとを利用して、全球の炭素収支推定分布の時空間分解能と推定精度を向上することを目的にインバースモデルを開発し、データ解析を行う。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

温室効果ガスの観測を目的として日本が打ち上げを予定している温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の取得データから、二酸化炭素・メタン等のカラム濃度の全球分布を高精度に導出する。そのため、データ処理手法の開発・改良とデータ質の評価・検証を行う。さらに、衛星観測データと地上で取得される測定データとを併せてインバースモデルに適用し、地域別炭素フラックスの推定誤差の低減と時間・空間分解能の向上を図るとともに、炭素収支の全球分布を求める。具体的には、

  1. 短波長赤外波長域での測定に関して、様々な大気条件下での取得データに対応可能なデータ処理手法を確立するとともに、データ質の評価・検証を行う。衛星打ち上げ(2008年度予定)の前は、計算機シミュレーションと地上・航空機観測により手法開発を行い、衛星打ち上げ後は、実際の観測データの解析と検証により手法の改良を行う。
  2. インバースモデルの時間・空間分解能を月別・全球64分割等に向上したうえで、衛星データ等を利用してより高精度の全球炭素収支分布を推定する。衛星打ち上げ前は、モデル計算のためのデータベース等の整備を行い、打ち上げ後は衛星データを利用した手法の出力を吟味することにより研究を進める。
  3. 上記の研究の総合的な成果として、全球を対象にして炭素収支の地域間の差や季節変動等を明らかにする。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

二酸化炭素およびメタンの濃度分布を、衛星観測により、全地球レベルで明らかにしようとするもので、温暖化研究における国立環境研究所の一つの柱となる事業・研究課題といえる。

全地球レベルで炭素収支評価の精度を向上させる意味は大きく、国際的な貢献度も高い。また、共通の物差しで二酸化炭素・メタンの発生源・吸収源の分布を明らかにすることは社会・行政にとって大きなインパクトがある。さらに、地球観測が目に見える形で社会的貢献として現れることになるので、このプロジェクトの成否は研究コミュニティ全体としても重要である。一方で、観測の精度が飛躍的に上がるなどの学術的な斬新さは必ずしも明確とは言えず、得られる知見の有用性の社会的意味を十分に説明することが必要であろう。

2.研究の進め方、組み立て

目的が明瞭であり、着実な研究といえる。研究の進め方・組み立て方も手堅い。ただ、GOSAT事業そのものに大きな費用がかかりそうなこと、また、事業が環境研、環境省、JAXAの共同事業であること、からその推進には十分な連携体制を組むこととともに、役割分担を明確にすることが必要である。このためには、GOSATの事業全体の中での、本研究プロジェクトの位置づけを明確することが必要であろう。例えば、GOSATには熱赤外線センサが搭載され、そのデータ解析アルゴリズム開発自身はJAXAが担当することとなっているが、その課題に関してはJAXAとの連携を十分に検討することが望ましい。

さらに、GOSAT事業は、温暖化観測の大きな柱となることから、本研究プロジェクトから、GOSATからのデータを最大限に活用するような、陸・海洋・大気の観測のグランドデザインを示すことが望ましい。また、GOSAT観測により全地球レベルでの炭素収支の誤差を下げることができるのか、その道筋を明確にすることが必要であろう。

なお、温暖化中核プロジェクト1.(温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明)の研究成果は本プロジェクトにとって有用なものとなることが予想されるため、十分な連携を取って進めることが必要である。

5) 対処方針

学術的には、温室効果ガス分布の観測に関してこれまで地上局、航空機・船舶などを用いて点あるいは線上でのみ行われてきたのに対して、個々の測定値の観測精度はその原理的制約から劣るとは言え、全球にわたる空間分布の時間変動の把握を衛星観測により世界で初めて実現する点において、並びに、衛星観測データを用いて全球規模での二酸化炭素の正味収支分布の導出誤差を半減させる点において、それぞれ斬新性を有していると考えている。また、大気境界層内の濃度を高精度で測定する必要性から、世界で初めての新たな試みとして、地表面による太陽反射光を光源とする短波長赤外域でのフーリエ変換分光器(従来は主に熱赤外の分光装置として使われてきた)を利用することとしており、今後の発展性など測定技術の観点からも学術的価値が高い。このように京都議定書をリードする日本が率先して、衛星利用による全球の二酸化炭素濃度観測に取り組み、炭素収支推定の精度向上に役立てようとすることに国際的、社会的に大きな意味があると考えている。なお、一般国民に対する説明責任について十分に自覚し、当研究の意義について解りやすく説明することに努めたい。

三者共同のGOSAT事業は三者間で締結された協定書により役割の分担が明確化されており、更に事業推進上新たに生じた問題については、三者で協議の上、分担について臨機応変に対処するなどの対応が図られている。例えば熱赤外センサのデータ処理については、データ解析アルゴリズム開発担当研究者とは、地球環境研究推進費の課題における分担研究者として情報を密に交換しており、事業面では、熱赤外データの一部をJAXAで処理を行うことによって、事業全体としてより効率性が向上することを期待して、両者間で調整を行っている。

GOSATからのデータを最大限に活用するような、陸・海洋・大気の観測のグランドデザインについては、インバースモデルへのインプットデータとしての利用や、衛星データ検証サイト設定の観点から構想を立てていきたい。

炭素収支の評価誤差低減に向けての道筋については、サブテーマ3の研究において、既にシミュレーションレベルで有用性を示しているが、平成19年度以降、より具体的な道筋を明らかにする予定である。中核研究プロジェクト1との連携については、特にサブテーマ3の研究上必須であるが、サブテーマ1,2においても、観測データの検証比較などに利用するために、中核研究プロジェクト1の成果を利用するなど、必要な連携をとりつつ研究を進める予定である。