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Ⅴ 中核研究プロジェクトの事前説明
1. 地球温暖化研究プログラム

1.1 温室効果ガスの長期的濃度変動メカニズムとその地域特性の解明

  • 更新日:2006年9月25日

1) 研究の概要

地球温暖化の抑制のために、二酸化炭素を始めとする大気中の温室効果ガスの発生量をおさえることが必要であるが、その目標設定に科学的な根拠を与えるためには、将来の大気中濃度の変化をより正確に予測しなければならない。そのためには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素等の温室効果ガスの、大気と陸域及び海洋の各圏の間での生物的過程あるいは物理的過程による循環や移動の実態を解明し、地球規模での収支を定量化する必要がある。本プロジェクトでは、温室効果ガスの各圏間の循環や移動、蓄積等のメカニズムとその地域特性に関して研究を行う。特に今後大きな経済成長を遂げると見込まれるアジアーオセアニア域に着目し、これらの地域での大気、海洋、陸域の濃度やフラックス観測に基づき、1990年代以降に見られる世界的な温暖化傾向による濃度増加、物質循環過程に対する影響を解明する。その方法として、酸素濃度や同位体濃度などを含め新たな指標成分の活用方法を検討し、大気中の温室効果ガスの収支、またその変動を引き起こす人為的寄与や自然における変動メカニズムを長期的見地から明らかにする。同時にそれらの地域的な分布や特徴を捉え、アジアーオセアニアにおける将来の人為的な発生源抑制に係る目標設定のための情報を与える。

2) 研究期間

平成18〜22年度(5年間)

3) 研究計画

(1) アジア−オセアニアを中心とした大気中の温室効果ガス及び指標成分の分布及び長期的変動観測

JALなどの民間航空機や太平洋に定期航路をもつ民間の定期貨物船を用いて、温室効果ガス(CO、CH、NO、フッ素系炭化水素、オゾン)や酸素、同位体比その他関連物質の緯度分布及び水平・垂直分布を長期的に観測する。またCGER(地球環境研究センター)が運営する波照間(沖縄)や落石(北海道)のモニタリングステーションを利用して、各種関連物質の高頻度の時系列観測を行う。これらにより、グローバルな温室効果ガスの分布状況や濃度変化の緯度別傾向、二酸化炭素の陸域・海洋の発生吸収源の分離、温室効果ガスの収支の長期変動の原因、シベリアなどを含むアジア−オセアニアの地域的発生源の特徴などを解明する。

(2) 海洋と陸域生態系のCOフラックス観測の高度化と変動特性の評価

ここでは、主に二酸化炭素のフラックスについて研究を展開する。北太平洋や西太平洋において海洋と大気間の二酸化炭素分圧差を観測し海洋への二酸化炭素吸収フラックスを求め、地域的分布や季節変化、年変化という側面から環境因子との関係を定量的に解明する。また陸域での炭素循環のメカニズムをプロセス毎に分離して測定するために、新たな手法の開発を行う。これにより、より現実に近い陸域炭素循環変動のパラメータを見つける。また、実際のアジア域での陸域生態系による二酸化炭素吸収量の長期的変動とその原因を明らかにするため、中国、東南アジアの熱帯域から、シベリア等の寒帯域までの代表的な植生での種々の吸収量観測を行い、大気中に現われる濃度増加の変動と各圏におけるフラックスの変化等、人間活動や気候変動などの環境因子との関係を解析する。

(3) 濃度予測のためのモデル検証

広域大気観測で得られたデータを基に、地域的なフォワードモデルやインバースモデル解析を行い、分布や時系列変動観測とモデルとの整合性を検証する。この結果を基にチューニングしたモデルを用いて本観測データからアジア地域の地域的フラックスの特徴を解析する。それを基礎にして、温室効果ガスの大気中での増加量変化を地域的発生量変化やグローバルな気候変動によって合理的に説明できるように、これまでの物質循環モデルに関するパラメータを吟味する。

4) 外部評価委員会の見解

1.研究内容

温室効果ガスの循環・収支メカニズムを解明することを目的とした研究で、地球温暖化問題に取り組む上で、基本的かつ重要な課題である。本プロジェクトでは、“温室効果ガスがどこにどれだけ吸収、蓄積され、かつ、それは温暖化により今後どう変動するか”に答えるために、地域レベルから大陸・地球レベルまでの観測を核として循環の現状と変動を捉え、さらに、モデルの改良を通じて観測とモデルの相互検証を行うことを研究内容としている。川上(観測)から川下(モデル)までをつなぐ研究課題といえる。

観測においては、同位体を用いた観測システムの構築や、定期航路を利用したグローバルな観測など、観測手法としても新たな視点を導入しており、観測プロジェクトとしても成果が期待できる。また、長期的変動と地域的特性に着目して観測システムを構築しようとしている点も評価できる。一方、モデル開発では、フォワードモデル、インバースモデルを使った地域レベルでの検証を行うなど今後の発展性も期待されるが、海洋生物プロセスが取り上げられていないことなど必ずしも全プロセスに対応できる形にはなっていない。他のプロジェクトの成果や、温暖化連携拠点としての機能などを取りこむなど、連携を志向することが望ましい。

また、本プロジェクトは、
      1) 観測とモデルを結合する
      2) 温暖化環境下での外挿的な評価を行う
という点に特徴があるといえるが、いずれも、温暖化研究分野における重要なテーマであると同時に難しいテーマでもあることから、研究を開始するに当たっては、予め、対応方針を明確にすることが必要と考える。

2.研究の進め方、組み立て

前項 1) および 2) に挙げたテーマに取り組むための方針、戦略を各サブ課題の関係者が共有しながら進めることが必要である。

本プロジェクトでは、観測研究とモデル研究が適度に組み合わされているが、サブ課題間の構造が必ずしも明確になっていない部分が見られる。特に観測研究とモデル研究をどうつなげるかは明確にすべきであろう。地点の測定結果と地域・地球的な測定結果をどのように関係づけるかも重要なので、その点も意識して研究を進める必要がある。例えば、中国チベット草原での観測研究の全体の位置づけなどは明確にする必要がある。また、炭素循環メカニズムが気候変動によってどのような影響を受けるかという外挿的な問題については、具体的にどのように研究を進めるのかもう少し明確にしておく必要があろう。現環境での観測データでは十分なモデル化・予測が行えない可能性があるので、温暖化環境下での観測も考慮する必要がある。

さらに、本プロジェクトがカバーする範囲は広く、単独でやるには限界があると考えられるため、外部との連携も視野に入れ、また、既存の成果との関係も明確して進めることが望ましい。

なお、本プロジェクトは、温暖化プログラムにおける他の課題やプロジェクトとも密接に関係していることから、プロジェクト間での連携を念頭において進めることが必要であろう。

5) 対処方針

本プロジェクトの各サブ課題の主題は、サブ課題1で大気成分高精度大規模立体観測、サブ課題2で現場での各プロセス・フラックス変動観測、サブ課題3で大気輸送モデルの開発・検証・応用(フォワード、インバース)となっており、サブ課題間の関係は、次の通りである。サブ課題1で広域観測を展開し、独自の高度観測技術を用い指標化学成分の観測から地域的なフラックスの分布や変動を解釈する。サブ課題3では、サブ課題1から得られた広域濃度データをインバースモデルに組み込むことで、詳細なアジア−太平洋地域の地域的フラックスの分布や時系列を推定する。これらと、サブ課題2での現場におけるフラックス観測結果との整合性を検討する。

観測とモデルの結合については、以下の方針で取り組むこととしている。すなわち、本プロジェクトにおけるモデル研究は当面、インバースモデル(フォワードモデルを含む)の利用を基本として、二酸化炭素濃度分布の時系列観測データからフラックスの空間分布の解析を行うことから始める。この時、人為的発生量は外部から与え、自然起源の二酸化炭素収支としての正味のフラックスを求める。一方、サブ課題1からは、多様な観測をもとに、独立に陸域、海域などに分離した緯度別のフラックス変化を推定した結果が得られることから、両者を比較検討することによって、それぞれの推定方法について検討を加え、互いのフラックス推定方法を改善する。さらにサブ課題2から得られる現場でのフラックスに関する情報を加えることで、これらのフラックス推定の妥当性を検討する。当面の具体的な検討課題は以下の通りである。

  1. 熱帯アジアにおけるENSOサイクル時の陸域生態系の変化や森林火災によるCO2フラックスの変化の評価。
  2. 同時期の赤道太平洋からのCOフラックス変動の大きさの評価。
  3. 温帯域や寒帯域での陸上生態系の小規模の変動と観測の整合性検討。
  4. 北太平洋のインバースモデルのCOフラックス計算精度の改善とフラックス変動の規模評価
  5. その他のGHGの同様な方法でのフラックス推定可能性検討。

これらの検討から、短期間でのフラックス変動の推定手法を確立した上で、中核研究プロジェクト3(気候・影響・土地利用モデルの統合による地球温暖化リスクの評価)と連携し、フラックスを与える陸面や海面のプロセスモデルとの対応を検討する。この際、現場でのフラックスの要素(呼吸、光合成など)に分けての観測(サブ課題2)はモデル作りに重要な情報を与えるものと考えている。

海洋生物プロセスモデルについては、海洋のモデル開発そのものを本プロジェクトの範囲とはしておらず、必要に応じて外部の研究者などとの連携を考慮する。しかし、海洋のプランクトン分布や、栄養塩、酸素(海洋酸素濃度、大気中酸素濃度)などの観測に基づく生物プロセスの寄与やその変動の研究、海洋におけるインバースモデルの検討については視野に入れている。

地点の測定をいかに地球規模の測定に関係付けるかについては、当面、シベリアでのタワーを用いたフラックス研究からスタートして、地点代表性などの検討を行うこととしている。さらに、大気観測から得られる広域のフラックスデータやインバースモデルから得られる同様のフラックス分布データと、地点のフラックスデータの比較を行い、その結果の合理性、整合性を検討し、地域レベル、地球レベルへのスケールアップを行う。この際、衛星データなどの利用も検討する。本プロジェクトでは、シベリア、温帯林、草原、熱帯林などの植生が異なる場所への観測の展開を考えている。特に、中国草原は土壌への炭素蓄積が大きいとされており、温暖化に対して森林とは異なる応答をする可能性があるため、気候変動の応答特性を調査する。

温暖化環境下での炭素循環メカニズムの変化、あるいは将来への外挿可能性に関する研究については、以下の方針で進める。すなわち、長期間のフラックス観測で得られるさまざまの環境条件下でのデータの解析から、炭素循環に対する環境影響を明らかにする。中核研究プロジェクト3で検討されるプロセスモデル研究と連携し、炭素循環メカニズムの環境影響を評価し、将来の温暖化環境下への外挿を試みる。さらに、プロセスモデルによる将来予測精度を向上させるために、陸域のフラックスの要素別寄与(呼吸、光合成など)を明らかにし、モデルにおけるダイナミクスを再検討する。一方、観測によるフラックスの長期トレンド推定精度を向上させ、それにより捉えられる長期的な変動傾向を将来へ外挿することを試みる。この時、過去と現在の炭素循環の比較研究も視野に入れる。また、チャンバーを用いた人工的な温暖化実験などを通して、温暖化影響の評価を行うことを検討する。ただし、大規模なCO付加実験など当面はできる状況になく、既存の観測の解析や国内外の研究成果の活用、国内での研究協力を通して検討を行う。

プロジェクト間の連携については、特に中核研究プロジェクト2(衛星による全球二酸化炭素等の観測に基づく炭素収支の高精度推定)へのデータ提供や衛星観測データの解析との比較、中核研究プロジェクト3のモデル研究との連携が重要であると認識している。また、本プロジェクトで取得される観測データは、国内外の温暖化研究にとっても貴重であり有用であるという見地から、観測データベースの整備を行い、外部のモデルグループとの共同研究も念頭に入れ研究を行う。また、共同的な観測体制をとることによって、より効率の良いデータの取得などが可能になると考えられるので、他の観測グループとの連携を図る。