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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの事後評価
1.地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクト

  • 更新日:2006年9月25日

1)研究の概要

経済発展・気候変動及びそれらの影響を統合的に評価するモデルを開発し、温暖化対策が地球規模の気候変動及びその地域的影響を緩和する効果を推計し、中・長期的な対応方策のあり方を経済社会の発展の道筋との関係で明らかにする。炭素循環のメカニズムと変動要因を大気・陸域・海洋の観測から解明する。

2)研究期間

平成13年度〜17年度

3)平成17年度研究成果の概要

(1) 炭素循環と吸収源変動要因の解明

・ 温室効果ガスの変動要因の一つである陸域生態系や海洋による二酸化炭素の吸収・放出を推定するとともに、それら吸収源の増強や排出抑制に関する研究を行った。具体的には、

  1. グローバルな陸域・海洋吸収の評価を目的として大気中の酸素/窒素比や炭素同位体比を波照間・落石の定点、日豪の定期船舶、航空機などにより観測した。
  2. 西シベリアで地域(Regional)規模での二酸化炭素吸収を評価することを目的とし、多点での大気中二酸化炭素やメタンの連続観測を行った。また、航空機やタワーでの炭素収支の直接観測を行った。
  3. 森林におけるフラックス測定や遠隔計測による炭素貯留量の測定を行い、森林の炭素吸収量を評価した。また、チベット高原において、寒冷で日射の大きい草原生態系で炭素収支を評価する観測研究を行った。
  4. 日米の定期船舶によるΔCO2の測定や、EUとの共同観測により、海洋吸収量変動の年々・偏差・地域的特性の要因解明を行った。また新たに日豪の路線において海洋吸収量測定システムを設置した。
  5. 運輸部門について、交通需要の地域特性や燃料供給のライフサイクルを考慮した対策効果の評価手法と有効な対策の普及促進策に関する研究を行った。
  6. 建築物における空調・照明等自動コントロールシステムに関する技術開発を行った。
(2) 統合評価モデルを用いた地球温暖化のシナリオ分析とアジアを中心とした総合的対策研究

・ 世界規模の経済発展や温暖化の緩和・適応対策が、地球規模の気候変動及びその社会・経済的影響をどの程度軽減できるかを排出モデル、気候モデル、影響モデルを統合して評価した。排出モデルでは、環境要素モデル、世界エンドユースモデル、環境政策評価モデル、戦略的データベースの開発・拡張を行い、日本およびアジア主要国における長期的な温暖化対策と短期的な国内環境問題や経済発展を両立させるための政策評価を行った。また、世界の気候安定化を目標に、2050年を対象に日本の温室効果ガス排出量を大幅に削減するための対策について、シナリオアプローチやモデル分析を用いた検討を行った。気候モデルについては、20世紀の気候再現実験および将来の温暖化予測実験結果を解析するとともに、補足的な実験を行った。温暖化予測実験については、高解像度気候モデル等の結果を用いて、豪雨などの極端な気象現象に関する将来予測とメカニズムの解明を行った。影響モデルでは、給水・衛生設備導入にかかる費用とその効果に関する分析をアジア全域を対象として行った。適応評価に関連しては、予測される温暖化影響を低減するための適応対策の評価に関する既存情報のデータベース化を行った。さらに、影響知見の統合化による影響閾値検討のためのツール開発と、それを用いた閾値検討と気候抑制目標提案を行った。

・ 2012年以降の地球温暖化対策のあり方を検証した。現在の京都議定書の排出量抑制義務に続く2012年以降の新たな義務に関して、過去の年度において実施した研究を元に作成された3つの将来シナリオを対象として、各シナリオにそれぞれ最も適合すると考えられる国際制度を作成した。

4)外部研究評価委員会の見解

  1. 地球温暖化の影響評価と対策を検討するプロジェクトとしては、世界的なこの分野の流れの中で一定の役割を果たし、モデル構築を初めとする個別のテーマには期待された以上の優れた研究が多数みられるところである。
  2. 種々の要素を含み、それらの統合を図ることによって、社会的貢献に結びつくプロジェクトであり、その骨格が形成されたのは高く評価できる。この分野の一層のインテグリティを強化し、長期予測に基づく統合的な政策提示につないでいくことが今後も重要である。
  3. さらに、国立環境研究所として、国内あるいはアジア地域における研究中心としての機能の果たし方には今後の一層の展開に向けた期待がある。

5)今後の展望等

第二期中期計画においては、長期予測に基づく総合的な政策提示を指向して、第一期で蓄積された成果と研究ポテンシャルを最大限に活かした研究運営を行うこととしている。また、我が国のみならずアジア・太平洋地域における地球温暖化研究分野の研究中心としての機能を果たすべく一層の努力を払いたい。