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Ⅲ 知的研究基盤の年度評価(平成17年4月)
環境研究基盤技術ラボラトリー

  • 更新日:2005年6月30日

1)事業の概要

環境研究者の研究開発活動を安定的かつ効果的に支える知的基盤として、

  1. 環境標準試料の作製と分譲、
  2. 分析の精度管理、
  3. 環境試料の収集・作成と長期保存、
  4. 絶滅危惧生物の細胞・遺伝子保存、
  5. 環境微生物の収集・保存と分譲、及び
  6. 生物資源情報の整備を行い、

環境分野における物質及び生物関連のレファレンスラボラトリー(RL:環境質の測定において標準となる物質・資料や生物および手法を具備している機関)としての機能の整備と強化を図る。

2)事業期間

平成13年度〜

3)16年度研究成果の概要

  1. 環境標準試料:
    環境標準試料に関する地方環境研等からのニーズが高いことや、国際的連携も必要とされることから、環境研究基盤技術ラボラトリー運営委員会に環境標準試料作製検討小委員会を設置し、標準試料作製・提供に係る体制の強化を目指した運営をおこなった。16年度は標準試料の国際的保証ルールにしたがって、有毒アオコ標準試料保証値を含めて、世界にさきがけて作製した。平成16年度の提供数は119と例年どおりであった。
  2. 分析の精度管理:
    MMPBを用いたアオコ毒素ミクロシスチン総量の分析法は、環境省の要調査項目等調査マニュアルの試験方法の中でミクロシスチン類の分析法として採用された。また、分子鋳型を用いたダイオキシンの選択的濃縮法に関する研究を進展させた。依頼分析をうける9機種の基盤計測機器の管理を重点的に行ったことで、より効果的・効率的な利用がなされた。
  3. 環境試料:
    対象地域での環境試料の採取・試料の処理、凍結粉砕処理、情報の整備が順調に進み、16年度の課題であった大気捕集の高頻度化、環境省のいわゆる黒本調査との連携、絶滅危惧種の試料収集・保存への取り組み強化、保存処理環境の監視法の確立が確実に実行された。16年度は200の環境試料が収集・保存され、14−16年度で収集・保存された試料は約580となった。
  4. 絶滅危惧種の遺伝資源保存:
    絶滅危惧野生動物の細胞等の確保のための地域ネットワークが稼働したこと、環境試料タイムカプセル化事業における検疫作業マニュアルをつくったことで、安全性を確認しつつ作業が展開できるようになったこと、海獣類の細胞培養技術を確立したこと、により16年度だけで226系統の細胞・遺伝子を保存し、15年度までのものとあわせて333系統となり、中期計画目標の200系統を超えた。また、絶滅危惧藻類についても、210系統を保存しており、目標の50系統を大幅に超えた。
  5. 環境微生物の系統保存:
    当初の目標数値であった1500株は、16年度で達成した(16年度末現在で1704株)。14年度より文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクトで藻類資源の中核的拠点として、我が国の藻類資源の整備をおこなっているが、16年度は藻類資源260株の収集整備をおこない、これまでとあわせて我が国の保存株総数は3040株となった。さらにつくば市で開催された国際微生物株保存会議において大会長及び大会事務局として機能し、我が国の微生物資源分野における国際貢献に寄与した。また、微生物株の収集・分類・特性把握、凍結保存、毒性、遺伝子等、品質向上・管理にかかわる研究業務から先端科学へのブレークスルーとなるような成果も得られている。特にデイーゼル油を大量に細胞内に蓄積する新属新種の緑藻類が分離培養され、今後の活用が期待される。
  6. 生物資源情報:
    国立環境研究所基盤ラボに国内の藻類資源の情報及び提供を一元化することができ、国立遺伝研に設けられた生物資源情報にも組み入れた。さらに、藻類資源のアジア・オセアニア地域ネットワーク構築を目指し、アジア・オセアニア地域藻類資源情報データベース作成のための活動を開始した。また、絶滅危惧野生動物細胞・遺伝子試料に関する情報の整備も進めた。

4)今後の課題、展望

  1. 環境標準試料:
    平成17年度は、PM2.5等大気微粉塵の元素や土壌中のダイオキシンの測定の分析精度管理へのニーズを考慮して、国際的保証化のルールに基づき、大気粉塵及び土壌の標準試料の作製を目指す。
  2. 分析の精度管理:
    ダイオキシンの分子鋳型分析法の高度化を図るとともに、基盤計測機器のよりよい利用体制を整備する。
  3. 環境試料:
    凍結粉砕法の高度化を行い、凍結粉砕試料の有効性を検証し、環境試料データベースの構築・整備を進める。また、絶滅危惧種の細胞・遺伝子保存の事業と密接な連携をとりながら、希少生物種の汚染状況や生息環境保全に役立つプログラムの立ち上げをはかるとともに、事業に関連する事例についてはできるだけ緊急対応のできる体制を維持、発展させる。
  4. 事故等で死亡した絶滅危惧動物の細胞や動物園等で飼育あるいは傷病個体として保護されている生体からの組織・細胞材料の収集と保存を進めるとともに、絶滅危惧鳥類の余剰受精卵を利用して始原生殖細胞を採取・保存することを検討する。絶滅危惧藻類については、2006年度に予定されている環境省レッドデータブック見直しにむけて、調査を継続する。
  5. 藻類資源においてわが国の中核的拠点とされたことで、拠点にふさわしい品質の藻類資源を確保することとし、我が国の微細藻類ににおける収集・保存・提供の一元化を図る。さらに分類研究、遺伝的多様性研究、凍結保存技術の高度化を推進する。また、国際的な藻類資源保存ネットワークを構築するための活動を活発化する。
  6. GTIやGBIF等の関連するプロジェクトにより得られた生物資源情報を管理する体制をいかに整備していくかを検討する。また、研究所独自の藻類資源情報や絶滅危惧種の細胞・遺伝子情報の整備やそれらを国際的に有用性の高いものとしていく行動を活発化していく。BIOSとTOPの統合化の推進を行う。

5)評価結果の概要

環境研究基盤技術ラボラトリーの事業に対して、「目的は明確であり、着実にクリヤーされ、整備されてきている」等、高い評価を受けた。一方、「予算的・人員的制約、国際的な役割分担や得意とするところ等を考慮した長期的な戦略をたてることが必要」「国際的体制作りにおいてLIFES/NIESが活躍できる場を構築する必要がある」「アウトリーチ活動が必要」等の指摘あるいは要望を受けた。

6)対処方針

現中期計画においては、本事業が将来にわたって着実に成果を上げ得るように、基礎づくりをしっかり行うことが最大の目標であった。独法化4年目において、環境試料タイムカプセル化事業のスタート、環境生物保存棟の建設、環境試料タイムカプセル棟の建設、ナショナルバイリソースプロジェクト藻類資源中核機関認定、及びそれまでの平均的実績をもとに設定した計画の数値目標を大きく上回る成果を得てきているという点からみて、しっかりした基礎作りができてきたと言えることから、今後は体系的かつ戦略的な取り組みをおこなっていくことが必要であると考える。18年度からの次期中期計画にむけて、所内に設置された基盤ラボ運営委員会、外部の有識者が構成メンバーとなっている環境試料タイムカプセル化事業検討委員会や微生物系統保存株評価委員会等でLIFES/NIESの長期的戦略について検討し、研究所の中期計画に反映していくこととする。基本的には名実ともに環境分野の知的基盤分野における我が国の中核機関となることを目指して、戦略及びそれに基づく計画を作成していきたい。

国際ネットワークについては、すでに、環境微生物及び絶滅危惧生物では、16年度から始まったアジア・オセアニア藻類保存ネットワークや17年度に採択された科学技術振興調整費国際リーダーシップで実施段階にある。いずれも基盤ラボが主導となって推進しているものであり、これらの活動の成果があがっていけば、LIFES/NIESが活躍できる国際的場が構築されることとなる。標準試料や環境試料分野においては、関連する主要な外国機関と情報・意見交換をおこないつつ、独自の試料を作製・提供あるいは収集・保存していくことで、特徴を明確にしていくことが重要と考える。

現中期計画においては、LIFES/NIESの組織ができたばかりということもあって、その基礎づくりをしっかり行うことが最大の目標であった。この間、LIFES/NIESのパンフレット、環境試料タイムカプセル化事業のパンフレット(和文・英文)、環境微生物保存株リストの刊行を行った。さらに標準試料及び環境微生物の提供を行い、分析精度のチェックや微生物研究・教育・産業の発展に貢献した。16年10月につくばで開催された国際微生物株保存会議の大会長及び事務局をつとめ、大会運営、内容等で高い評価を受け、国際的にもそのプレゼンスを高めた。また、施設公開も行い、来訪者の関心を高めた。このような必要最低限のレベルでのアウトリーチ活動を行ってはいたが、今後さらに積極的、かつ効果的なアウトリーチ活動を行う。具体的には、技術講習、ホームページの充実やLIFESニュースの刊行等、関係者・関係機関にLIFESの事業・業務内容の周知を徹底させていく方策を検討する。