ホーム > 研究紹介 > 研究計画・研究評価 > 外部研究評価 > 平成17年4月外部評価実施報告 > 化学物質環境リスクに関する調査・研究

ここからページ本文です

Ⅱ 政策対応型調査・研究の年度評価(平成17年4月)
化学物質環境リスクに関する調査・研究

  • 更新日:2005年6月30日

1)研究の概要

化学物質環境リスクの適正管理を目指して、現行のリスク管理政策からの要請を受けた課題とリスク管理政策のさらなる展開を目指して解決すべき課題の2つの観点から曝露評価、健康リスク評価及び生態リスク評価について評価手法の高精度化を図るとともに、簡易なリスク評価手法の開発を行う。また、リスクコミュニケーションを支援する手法の開発を行う。曝露評価については、時・空間的変動を考慮した曝露評価や少ない情報に基づく曝露評価手法を開発する。健康リスク評価については、化学物質に対する高感受性集団に配慮した健康リスク管理手法や、複合曝露による健康リスク評価手法を開発するとともに、バイオアッセイ法の実用化に向けた研究を行う。生態リスク評価については、生態毒性試験法の開発と生物種別の毒性に基づく生態リスク評価手法の高度化を目指す。リスクコミュニケーションについては、情報加工・提供方法について研究する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)16年度研究成果の概要

曝露評価、健康リスク評価、生態リスク評価のそれぞれについて評価手法の高精度化、効率化を進めるとともに、効果的なリスク情報伝達手法の開発を進めた。

曝露評価については、GIS統合システム(G−CIEMS)、マルチメディアモデル(MUSEM)、河川モデル、東京湾三次元モデルについて環境濃度による検証を実施した。また、モンテカルロシミュレーションを用いて、不検出値を含むモニタリングデータセットから母集団の代表統計量の信頼区間を予測する手法を開発した。健康リスク評価については、感受性要因を考慮した健康リスク評価手法の開発に向けて、ヒ素の感受性要因について、ヒ素メチル化酵素とともにヒ素グルタチオン転移酵素などの酵素の遺伝的多型も重要な要因であることを示した。また、第Ⅱ相薬物代謝酵素の欠損によりB[a]Pへの感受性が2倍上昇することをNrf2−KOマウスを用いて示した。生態リスク評価については、既存の構造活性相関式の適用性の検討、昨年度検討したニューラルネットワーク法による魚類の構造活性相関式の信頼性の向上、多変量解析手法による構造活性相関式の導出を行なった。藻類生長阻害試験改定案及びウキクサ生長阻害試験新規提案について、わが国における適用可能性の検討を行うとともに、海生生物等を用いた試験法に関する検討に着手した。リスク情報伝達手法については、化学物質の一般的情報、水生生物に対する生態毒性試験結果、予測モデルや農薬に関するデータベースを作成・改良し、検索しやすい形で公開するとともに、環境測定法データベース(EnvMethod)の更新、農薬データベースの出荷量データの収集範囲の拡大、農薬等のADI、化審法関連の既存化学物質、第二種監視化学物質(旧指定化学物質)などの名称と化学構造式の入力を進めた。

4)今後の課題、展望

数理モデルについては、当初より予定していたモデルが構築され環境リスク評価においての活用が期待される。各々のモデルのバリデーションを進めると共に、リスク評価のツールとして利用しやすい形で公開していくことが課題である。また、排出量データの推計や整備が課題である。健康リスク評価については、作用機構に着目した複合曝露評価手法の開発を引き続き試みる。変異原性試験から発ガン性への定量的関連を求めるための実験を行う。感受性を決める遺伝的要因を同定するための研究基盤を整備するとともに、小児のリスクについては、感受性要因とともに曝露要因からの解析が必要である。生態リスク評価では、魚類の構造活性相関手法の開発に進展がみられ、藻類や甲殻類への拡大などを通じさらなる発展が期待できる。また、生態毒性試験法については、海生生物、ウキクサ等の生物を用いた試験法の検討、難水溶性化学物質、高分子など試験の実施が困難な物質に対する生態毒性試験法の確立により、化学物質の審査・規制の場面で課題に研究面から貢献することが期待できる。国民のリスクコミュニケーションに貢献する観点からは、今後、環境リスク評価結果のわかりやすい解説や、ホットスポットに関する情報、環境モニタリングやPRTRデータなどの地理情報を有するデータの提供が課題である。

5)評価結果の概要

相対的に少ないマンパワーで行政的ニーズにも対応しながら、リスク評価の高精度化と効率化を目指した研究として成果があがったと評価された。曝露評価やリスク評価手法の確立につての個別の成果やこれまでに指摘された項目について着実に研究項目に入れられている事が評価された。

  1. 政策提案を最終的に目指すとすれば、種々のオプションによってどのような改善が可能であるのかを示す必要性を指摘され、政策的に利用可能な成果となるよう期待された。
  2. さらに、農薬やHot Spotについての研究も必要であるとの指摘を受けた。
  3. 化学物質のデータベースについて、持続可能な体制や一般市民に対してのサービスについての検討が必要であり、
  4. 化学物質一般については、プロジェクトというよりも、もう少し長期的な視点をもった取り組みを研究所としても考えるべきであると指摘された。

6)対処方針

  1. 政策対応型調査・研究センターとして、早期に意志決定場面で活用できる成果を挙げるよう努める。
  2. 高暴露状況に対応したリスク評価手法に関する研究を進めていく。農薬については16年度より関連研究を実施しており、17年度には生態系保全の観点から農取法の下での審査を支援していく予定であり、環境保全の観点からさらに研究を進めていく。
  3. 当センターでは高効率リスク評価手法の開発と併せて、データベースを整備しつつ環境政策に対応して化学物質の環境リスク評価を進めており、環境リスクの評価に不可欠な情報に焦点を当てたデータベースの構築を目指し、データベースの構築を進める中で、市民にも使いやすいものに改良していく。
  4. また、これらを長期的視点で継続的に進めることのできる体制の構築を目指す。