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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの年度評価(平成17年4月)
成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明プロジェクト

  • 更新日:2005年6月30日

1)研究の概要

環境省が開発した人工衛星搭載オゾン層観測センサー「改良型大気周縁赤外分光計Ⅱ型(ILAS−Ⅱ)」(運用期間:平成15年4月−10月)で取得された観測データを処理・検証解析した後、オゾン層研究の科学的利用のためのデータプロダクトとして、国内外に向けて提供する。地上からのオゾン層モニタリングを継続実施し、国際的ネットワーク(NDSC)のデータベースへの登録を通して、データを提供する。観測データの解析や数値モデルを利用して、極域オゾン層変動に係る物理・化学プロセスの解明、オゾン変動要因の割り出しとその寄与の見積もりを行う。オゾン層保護対策の有効性の評価および将来のオゾン層変動の予測を行う。また一層の予測精度の向上を目指す。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)16年度研究成果の概要

  • ILAS−Ⅱデータ処理アルゴリズムの開発・改良を行った。
  • 新たな観測高度決定法に基づいたアルゴリズムによって処理されたILAS−Ⅱデータを検証実験データと比較し、導出された微量気体濃度分布の検証を行った。
  • 検証済みILAS−Ⅱデータ(version1.4)を国内外の登録研究者に提供した。
  • 新たなデータ処理手法の開発として、ガス−エアロゾル同時算出法を開発、ILASデータに適用し、PSCイベント時の解析データの信頼性の向上を確かめた。
  • オゾンレーザーレーダーの再解析データ(1988−2002年分)を、成層圏変化の検出のための国際ネットワーク(NDSC)のデータベースに登録した。
  • 観測高度領域の拡張が図られたミリ波オゾン計(つくば)による下部成層圏から中間圏にかけての試験的オゾンモニタリングを実施、その安定性やデータ質を評価した。
  • トレーサー相関法を適用したILAS−Ⅱのデータ解析からオゾンホール内での化学的なオゾン破壊量の定量化を行った。
  • ILAS−Ⅱのガス状硝酸およびエアロゾルデータの解析を基に、オゾンホール生成初期のガス状硝酸濃度の増加・減少量とエアロゾル量の変化との間の相関関係を明らかにした。
  • 化学気候モデルおよび化学輸送モデルに大気球面効果を導入したオゾンホール生成数値実験を行い、その比較からオゾンホールの回復期における化学−放射過程の相互作用の重要性を明らかにした。
  • CO2漸増下での今後の成層圏オゾン層の応答に関する数値実験に用いた成層圏化学気候モデルに、大気球面効果ならびに臭素化学反応系を導入した。

4)今後の課題、展望

  • ILAS−Ⅱ Version 1.4プロダクトの検証結果を特集論文として公表すると共に、データプロダクトを一般提供する。
  • ILAS−Ⅱデータ処理アルゴリズムの改良を行い、より信頼性の高いデータプロダクトを得る。
  • ガス−エアロゾル同時算出法をILASおよびILAS−Ⅱデータに適用し、特にPSCイベント時のデータ解析を行う。
  • ミリ波オゾン計によるオゾンモニタリングデータを国際的観測ネットワークであるNDSCのデータベースに提供する。
  • ILAS−Ⅱデータをもとに、南極オゾンホール内のオゾン破壊速度の定量的な把握を行う。
  • ILASとILAS−Ⅱデータの比較から、南北両半球極域のオゾン層破壊の類似点と特殊性を明らかにする。
  • 改良を加えた成層圏化学気候モデルのチューニングを行い、新たなオゾン層破壊の将来予測実験を行う。
  • 三次元化学輸送モデルを用いて、北極域でのオゾン破壊が中緯度オゾン濃度に及ぼす影響を評価する。

5)評価結果の概要

「ILAS、ILAS−Ⅱをサポートする研究として大きな意味を持ち、貢献した点も多としたい」、「ILAS/ILAS−Ⅱに関する成果は、それなりに成就されたと思う。このプロジェクトが、日本の極域の大気化学を推進したことは事実であり、評価されることと思う」、「得られたデータを解析し、モデリングに使う研究は着実に進み、成果も上がり、目標はほぼ達成したものと認められる」、「順調に推進している、特にオゾン層の変動機構は独創性が高いと評価できる」「衛星が運用中止というハンディにもかかわらず、限られたデータを用いて、アルゴリズムの改良を行い、かなりの精度で、特に下層成層圏でのオゾン濃度動態を把握できる見通しを付けたことは高く評価されるべき。成層圏モデリングについても着実に進展していると評価します」といった肯定的な評価を頂いた。

その一方で、「衛星計画も別の課題に移ることもあり、今後の環境研としての研究をどうするか、日本の大気化学をどうするか、という点を考慮して、次期の中期計画に、あるいは、次期のプロジェクトに反映してもらいたい」、「大気化学グループの今後の方向を明示しておいて欲しい」、「人為起源の塩素化合物(フロン)の供給が減少し、オゾン層破壊のドライビングフォースが減少するなかで、極域のオゾンホールの形成をエンドポイントとする研究としては成熟してきている。それだけに、ILAS/ILAS−Ⅱで得られたものから次に何に向かってゆくのかの「大気化学」としてのまとめをしておくことが大事」といった(中期計画期間に止まらず)今後のオゾン層研究の方向性を議論し、示していく事の大切さの指摘を受けた。

また同時に、今後のオゾン層研究について「プロセス解明研究は引き続き必要でしょう」、「温暖化とオゾン層問題のリンクは、環境研として強みのある場所であり、今後とも、積極的に進めていく方針は妥当である」、「回復の時間スケールについての判断が科学的におこなえることがアウトプットという点に焦点をあてることと、中緯度成層圏のオゾン層破壊が将来生じうるという点への科学的見通しにより強く言及することが望まれる」などの助言を頂いた。またプレゼンテーションに関して、「モデル計算など、膨大な数値実験による結果と実測の比較を示されることが多いが、どのような仮説をおいて何がわかったのかという基本的なところを明確に示していただく方が、理解しやすいのではないか」、「検討項目とされた脱窒、力学効果、プラネタリー波の下降、などなどの要因について結局オゾン層への影響、温暖化との相互作用への効果などの面でどう影響したのか、パラメトリックセンシティビティーも含め説明があるとわかりやすい」、「NDSCへの提供には言及しているが、そこから得たデータを使っての研究の報告は聞かなかった」、「化学気候モデル、化学輸送モデルという用語は紛らわしい」などの指摘も受けた。

6)対処方針

  1. ILAS/ILAS−Ⅱデータに関しては、より信頼性の高いデータの提供をしたい。地上モニタリングデータについても積極的に検証済みデータの提供に努めたい。
  2. 今後とも観測データの解析を中心に物理・化学的なプロセスの解明に努めたい。また化学気候モデルの改良を進めると共に、改良を加えた数値モデルを用いたオゾン層の将来予測実験を行いたい。
  3. 助言を頂いた「温暖化とオゾン層問題のリンク」は重要な問題だと考えており、またオゾン層研究に閉じる事の無い対応が必要と考えている。例えば、数値モデルにおける気候予測モデルとの連携など、所内外の関連する研究グループとの連携をこれまで以上に強めながら研究を推進していきたい。
  4. プロジェクト最終年度に向け、プロジェクトとして何が分かったのかを明らかにすると共に、成層圏大気化学を研究しているグループとして、(本中期計画期間後の)研究の方向性や科学的な課題の明示も行いたい。また助言を頂いた問題、例えば「気候変動(成層圏寒冷化)に伴う北半球オゾン層破壊の長期化」や「中緯度オゾン層の今後の変動」をはじめ、フロン減少後の(50−100年後の)成層圏オゾン層の問題についても、(重点プロジェクト期間に拘ること無く)取り組んでいきたい。
  5. 今後のプレゼンテーションでは、用語の違いのポイント部分は何か、如何なる仮説に基づいてモデリングを行っているのか、力学過程と化学過程とはどの様に相互に影響しあっているのかなどを、簡潔かつ丁寧に説明したい。