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Ⅴ 平成17年度新規特別研究の事前評価(平成17年4月)
鳥類体細胞を用いた子孫個体の創出

  • 更新日:2005年6月30日

1)研究の概要

本研究では体細胞核を持った始原生殖細胞(PGC;将来の精子、卵のもとになる細胞)を創り出す。加えて、異種間生殖巣キメラ個体作出法を開発・確立することによって、体細胞核を持ったPGC由来の子孫個体を異種間生殖巣キメラ個体から得る手法を開発する。これに関して、既に本研究所では「環境試料タイムカプセル化事業」を推進しており、保存する体細胞を用いた個体再生技術を開発することは、体細胞を保存する意義・価値を高めることともなる。

2)事業期間

平成17〜19年度

3)16年度研究成果の概要

  • 平成17年度:
    異種間生殖巣キメラ個体からの子孫作出をはかり、ドナー体細胞への標識遺伝子導入を行い、始原生殖細胞(PGC)核を不活化し、両細胞の融合法を開発する。
  • 平成18年度:
    モデル鳥類種のPGCによる生殖巣キメラ個体の性成熟後の後代検定を開始。また、標識遺伝子を持つ体細胞と不活化PGCを融合して得た「融合PGC」をホスト胚に移植して生体内の細胞運命を組織学的に解析するとともに、融合PGCによる生殖巣キメラ個体を飼育・性成熟させる。
  • 平成19年度:
    異種間生殖巣キメラ個体の子孫の遺伝子解析を行い、子孫の正常性を確認する。加えて、融合PGC作出の効率化を図ると共に、その増殖培養条件を検討する。また、融合PGCによる生殖巣キメラ個体とドナー種の個体との戻し交配を行ってキメラ個体の評価・検定を行う。

4)今後の課題、展望

急速に発展する人間活動によって野生鳥類を含む野生動物の生活域との重なり、隣接化と生息域の分断化が問題となっている現状から、野生鳥類の生息域内保全は益々困難となることは明らかであり、将来起こり得る希少野生鳥類の絶滅を想定し、絶滅希少鳥類の復元技術の基盤研究を行う必要性のあることは明白である。

近年、哺乳類においては体細胞を用いたクローン作成法が開発され、希少哺乳類増殖の試みが海外では進行している。その反面、卵に大量の卵黄顆粒を持つ鳥類のような動物種は、卵の保存や卵に対する核移植自体ができないことで、クローン技術の応用や、受精卵や卵の凍結保存さえも不可能である。この様な状況を解決するためには鳥類の個体発生初期に出現する始原生殖細胞(PGC)への体細胞核の導入法を開発する必要がある。

5)評価結果の概要

環境問題、とりわけ絶滅危惧鳥類種の個体創出をはかり、個体群の回復ポテンシャルを上げるプロジェクトであり、興味ある研究であるとの評価を受けた。一方、本研究の成果が一般の人に与えるインパクトが大きいと考えられるので、研究の意義を社会に対してどの様に説明していくかという点で、誤解や混乱を起こさないようにして欲しいとの助言を受けた。

6)対処方針

本研究がハビタットの整備が整った際に本来の意義を発揮していく技術であり、必要と判断される場合に種の復元を可能とするための研究技術開発として位置付けている一方、事故死亡に伴う集団内の遺伝的多様性の回復手段としては有効であると考えられる。これらの点を踏まえて、研究進捗の各段階で社会的な理解と賛同が得られるように情報の発信を段階的かつ積極的に行い、必要に応じて研究の方向性を修正するなどの慎重な姿勢で臨むように留意する。