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Ⅳ 平成15年度終了特別研究事後評価(平成17年4月)
湖沼における有機炭素の物質吸収および機能・影響の評価に関する研究

  • 更新日:2005年6月30日

1)研究の概要

我々は、代表的な難分解性の溶存有機物(DOM)であるフミン物質の分離に基づいてDOMを分画する手法や3次元流動モデル等を霞ヶ浦に適用して、湖水中の難分解性DOMがどんな性質で、どこから来て、どんな影響を及ぼすかについて調査・研究した。

結果、霞ヶ浦における難分解性DOM全量に対する、河川水、底泥溶出、下水処理水等の寄与率の場所的・季節的変動を明らかにした。特に、下水処理水の寄与率が、局所的に、特に冬季に大きくなることがわかった。DOMに関する多くの新しい知見も得られた。水田は難分解性DOMの排出源であるが、排出されるのはフミン物質ではなく親水性酸であった。霞ヶ浦湖水を原水とする浄水処理場の処理プロセスではDOMの除去は困難であった。藻類の増殖に必須な鉄は、湖水中では99.9%が有機態(利用できない形)であり、アオコの増殖・優占には鉄の存在形態が重要であることがわかった。

2)事業期間

平成13〜15年度(3年間)

3)16年度研究成果の概要

本研究では、フミン物質の分離に基づいてDOMを分画する手法を駆使して、多くのフィールド調査等を行うと共に、3次元流動モデル、鉄の存在形態を分析する電気化学的手法(ボルタンメトリー法)により、霞ヶ浦における難分解性DOMの特性・動態および機能・影響について検討した。結果として、霞ヶ浦における難分解性DOMの場所的・季節的な変動やその起源を数値的に評価することが可能となった。一方、新しい知見として、水田、底泥、藻類から排出される難分解性DOMの特性が得られ、湖水中の鉄の存在形態やアオコを形成するらん藻類への鉄を介したDOMの影響が具体的な形で明らかとなった。
成果を具体的に以下に記述する。

  1. 霞ヶ浦において、下水処理水由来の難分解性DOMの寄与が、局所的に、特に冬季にとても大きくなる(処理水放流先の土浦入りでは、年平均値で下水処理水由来38%、河川水由来37%)、
  2. 難分解性DOMの負荷発生源としては生活系よりも面源系の寄与が大きい、
  3. 湖水中の溶存鉄の99.9%以上が有機態であり、アオコを形成する藍藻類ミクロキスティスの増殖・優占には、鉄の存在形態が重要な因子である、
  4. 底泥からのDOM溶出フラックスは、経年的かつ季節的に大きく変動し、春季のほうが夏季よりも大きい、
  5. 水田から排出される難分解性DOMとしては、親水性酸が最も多く、フミン物質は排出されない、
  6. 長期的モニタリングデータの比較検討により、COD(過マンガン酸カリウム法)は、湖水DOMの質が変化すると酸化収率が顕著に変動するため、DOMの長期的な指標として不適切である。

4)今後の課題、展望

近年、琵琶湖、霞ヶ浦、十和田湖等の多くの湖沼において、流域発生源対策が精力的に行われているにもかかわらず、湖内の溶存有機物濃度(化学的酸素要求量、COD)が徐々に増大している。何らかの難分解性で溶存態の有機物(溶存有機物、DOM)による新しいタイプの水質汚濁が進行している。この難分解性DOMの増大は、湖沼環境基準の達成を困難なものとし、植物プランクトンを中心とした湖沼生態系に大きな影響を及ぼし、重金属や農薬等の有害物質の能動化も促進していると指摘されてきた。さらに水道水源としての湖沼に着目すれば、浄水処理殺菌プロセスで生成される発ガン物質トリハロメタン等による健康リスクの懸念を増大させている。湖沼環境を保全・再生するために、湖水中でなぜ難分解性DOMが漸増するのか、その漸増メカニズムを物質収支的観点から、具体的に早急に明らかにする必要があった。

5)評価結果の概要

当初設定された研究目的は達成され多くの成果が得られたとの評価を受けた。一方、その目的・目標自体を深める必要があり、難分解性有機物の生成・反応等に係るメカニズム解明を含んだ難分解性DOMの評価等について、さらなる研究が必要との指摘を受けた。また、霞ヶ浦に対して得られた研究成果を、どのように一般化するのか(他の湖沼に適用するのか)、どのように実際の対策・管理や政策提言に活用するかが不明瞭との指摘を受けた。COD表示の問題点を明確に提示するためにも、溶存有機炭素(DOC)を用いる場合の有用性を示す必要があると指摘された。さらに、本研究の成果の活用に関し、国立環境研究所としての成果として、社会や行政に対しより大きな貢献を検討すべきとの指摘を受けた。

6)対処方針

当初の目的は達成したが、その目的自体を深めるべきとの評価を受けた。今後は、現在実施中の関連する特別研究の中で、ご指摘を受けたDOMの難分解性化メカニズムを含んだ研究を進展させ、難分解性DOMのみならずDOMの物質収支的な研究を発展させる計画である。

本研究では霞ヶ浦における難分解性DOMの物質収支が定量的に求められた。適用された方法論やアプローチ自体は一般性がある。従って、本研究で利用された測定項目のデータが十分にあり適切な流動モデルが利用できれば、他の湖沼についても難分解性DOMの収支算定は可能である。今後は、本研究の方法論とアプローチの普及を図りたい。

本研究の成果をどのような形で有機汚濁対策や行政施策に活用するかについては、時間の制約もあり、評価ヒアリング時の説明が不十分であった事を反省する。この点について補足すると、本研究の成果と具体的な湖沼管理に係る提言は、総務省「湖沼の水環境の保全に関する政策評価」、環境省の湖沼保全対策委員会報告、同省湖沼水質保全総合レビューの提言、同省第6次総量規制、茨城県霞ヶ浦第5期湖沼水質保全計画策定、同県霞ヶ浦環境科学センターの研究・運営方針等に大きく寄与している。今後は、プレゼンテーションでの説明方法に工夫を図り、成果の貢献を伝えるよう努力したい。