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Ⅰ 重点特別研究プロジェクトの年度評価(平成17年4月)
地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクト

  • 更新日:2005年6月30日

1)研究の概要

経済発展・気候変動及びそれらの影響を統合的に評価するモデルを開発し、温暖化対策が地球規模の気候変動及びその地域的影響を緩和する効果を推計し、中・長期的な対応方策のあり方を経済社会の発展の道筋との関係で明らかにする。炭素循環のメカニズムと変動要因を大気・陸域・海洋の観測から解明する。

2)研究期間

平成13〜17年度

3)16年度研究成果の概要

(1)炭素循環と吸収源変動要因の解明
  1. 波照間・落石のO2/N2比の観測から陸上生物圏/海洋の過去5年間の吸収量は0.7±0.4GtC/yr/2.0±0.7GtC/yrと推定された。同位体の測定から平均2GtC/yr前後の吸収が海洋によって行われていることを明らかにした。
  2. リモートセンシングによる植生群落の分光情報から地域森林レベルでの経時的な炭素吸収量変動の推定・検証を実施した。また、森林生態系炭素吸収量評価モデルと土地利用変化モデルとを統合化し、吸収源対策の進展に伴う陸域炭素収支の変動予測を実施した。
  3. トップダウンアプローチで炭素収支を推定するため、CO2の観測システムを4基設置し観測を開始した。メタンの連続測定器を開発し、一部配備を終えた。
  4. 貨物船を利用したフラスコサンプリングによるO2/N2比の測定から、大気中の酸素濃度の緯度分布が明らかになり、太平洋赤道域から酸素が放出されている可能性を見出した。
(2)統合評価モデルを用いた地球温暖化のシナリオ分析とアジアを中心とした総合的対策研究
  1. 社会経済モデル及び温室効果ガス排出モデルを開発・統合:AIM/技術選択モデルを世界に拡張し、各地域における温室効果ガスの限界削減費用を推計した。全球平均気温を産業革命以前と比較して2℃以下に抑えることを目標として、日本の炭素排出量を大幅に削減するための社会・経済シナリオの検討を開始した。
  2. 各種温室効果気体および各種エアロゾルソース排出データを全球大気海洋結合気候モデルに与えて、過去150年の気候の再現実験を実施し、自然要因や炭素性エアロゾルの役割を示すなど、過去の気候変動の機構の理解に資した。また、高解像度気候モデルの結果を解析し、将来の日本の真夏日や豪雨の増加に関する将来見通しを行った。
  3. 温暖化のコメ・コムギの潜在生産性モデル:コメ・コムギを対象とした潜在生産性モデルの改良を行い、現状の再現性を高めるとともに、2050年における温暖化の適応策について評価を行った。

4)今後の課題、展望

炭素循環の分野では、大気中の酸素や炭素同位体測定からグローバルな把握、陸域の吸収に関する遠隔計測やモデル開発、大気観測ネットワークから地域規模の炭素収支の推定、海洋における炭素吸収などの観測研究が、ほぼ予定通り進んでいる。平成17年度は、炭素循環モデルによる解析を中心に、それらの総合的とりまとめを行う。

気候予測モデルによる長期予測モデルの結果を検討し、地域的な影響を予測する。この成果を使って、アジア地域の水資源影響を評価する。社会経済モデル及び温室効果ガス排出モデルを適用して、日本の炭素税の影響、アジアの経済発展との関連について分析する。炭素循環のモデル化が進みつつあり、気候予測モデルとのリンクが可能になりつつある。また、高分解能の気候予測モデルに基づき、気候変動の影響評価が具体性を帯びつつある。このようにして、社会経済・温室効果ガス排出モデルと気候変動予測のリンクにより、社会選択→気候変動予測(⇔炭素循環)→影響評価の流れができつつある。

5)評価結果の概要

研究成果に対しては概ね肯定的な評価であった。温暖化の研究は多分野の研究者の協力により可能となるので、国内外の研究者との共同研究として実施している。この中で国際協力は評価されているが、全体の中でNIESの役割や特徴点の明確化の必要性、生態系影響などの分野の充実の必要性、モデルの感度解析の必要性などの指摘があった。ミクロのプロセス研究とグローバルな把握についての関連をはじめとして、全体の研究構造が分かりにくい、あるいは、リンクが弱いという指摘があった。また、研究観測とモニタリングの関連に対する指摘もあった。

6)対処方針

地球温暖化の課題は、その原因となる温室効果ガスの排出を伴う人為活動、その大気蓄積や森林・海洋への吸収による緩和、気候変化の予測、予測に基づく影響の評価、対策施策の効果の評価など、多くの学問分野に関わる新しい研究である。それには、それぞれの分野での研究ツール(方法論、モデル化、観測技術、データ解析手法など)の開発が必要である。また、炭素循環や気候変化などの長期のモニタリングが必要である。こうした研究を、流動研究員を含めて40名余、総予算4億円(ほとんど競争的資金)とのリソースの制約の下で行う状況の中では、NIESとして重要と考えかつ得意な分野を中心としつつ、国内外の研究者と連携して研究を推進することが求められる。国内外の研究者による研究連携を実現するため、総合科学技術会議の温暖化イニシャティブや地球観測の戦略作成に積極的に参画し、また、研究の現場では推進費など研究予算の枠組みを利用した研究者の組織化、共同研究の推進に努めている。アジア諸国を中心とする海外の研究者との協力も重要な柱と考えており、成果が生まれつつある。

しかしながら、NIES内でも、わが国全体としても、各分野の研究が強い連携を持って進展している状況には未だ到達しておらず、4年を経てようやくリンクが強まりつつあるというのが現状である。それは、わが国ではこの十数年の経験しかないという、この分野の研究の発展段階を反映した結果に他ならない。現在の路線を強力に推進すれば、今後数年の内に総合的なものに成長・発展すると考えている。