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知的研究基盤の年度評価(平成16年4月)
環境研究基盤技術ラボラトリー

  • 更新日:2004年7月22日

1)事業の概要

環境研究者の研究開発活動を安定的かつ効果的に支える知的基盤として、

  1. 環境標準試料の作製と分譲、
  2. 分析の精度管理、
  3. 環境試料の収集・作成と長期保存、
  4. 絶滅危惧生物の細胞・遺伝子保存、
  5. 環境微生物の収集・保存と分譲、及び
  6. 生物資源情報の整備を行い、

環境分野における物質及び生物関連のレファレンスラボラトリー(RL:環境質の測定において標準となる物質・資料や生物および手法を具備している機関)としての機能の整備と強化を図る。

2)事業期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成15年度研究成果の概要

  1. 環境標準試料:
    有毒アオコ及び大気粉塵の標準試料を作製中。有償提供数は155試料で13,14年度実績の倍増となった。フライアッシュ標準試料でのダイオキシン分析値の誤差が化学種により大きいものがあるが、これは分析のための前処理過程でおこるものと考えられる。
  2. 分析の精度管理:
    標準試料のダイオキシンの経時変化をチェックするための簡便な分析法を開発。さらにビスフェノールAやアオコ毒素ミクロシスチンの分子鋳型を用いた選択的吸着分析法を開発。これにより前処理過程が大幅に短縮。基盤計測機器の利用状況はこれまでと変わるところはなかったが、砒素分析に係わる行政調査に大きく貢献した。
  3. 環境試料:
    14年度に継続し、日本周辺の環境質を代表する環境試料として、二枚貝、大気粉塵、東京湾底質、アカエイ及び母乳の試料を採取・保存した。二枚貝・アカエイの生物試料は凍結粉砕したものの粒径、元素等の均質性テストを行い、良好な結果を得た。また、保存試料及び付随する情報管理のためのデータベースシステムを作製した。
  4. 絶滅危惧種の遺伝資源保存:
    絶滅危惧鳥類の細胞培養法を確立し、トキ(キン)、ライチョウ、クマタカ、オオワシ、オジロワシ、ワシミミズクの細胞を凍結保存した。また、イタセンバラ、オガサワラヨシノボリ、イトウの精子の凍結保存条件を確立した。現在まで約100系統の絶滅危惧動物の細胞の凍結保存に成功した。絶滅危惧藻類として、新たに車軸藻類6系統、淡水紅藻類30系統が保存され、14年度とあわせて合計54系統の絶滅危惧藻類が保存された。絶滅とされていたテガヌマフラスコモが培養保存された。
  5. 環境微生物の系統保存:
    15年度は301株の寄託があり、あわせて1450株となり中期計画の数値目標を十分達成できる状態となった。分譲株数は645株であり、昨年度の1.5倍の利用数であった。572株について遺伝子データが得られており、そのデータから有毒アオコの毒生成遺伝子が自然界で組み換えを起こしていることが判明した。タイプ株やリファレンス株も53株に上る。ナショナルバイオリソースプロジェクトで藻類資源の中核機関として藻類株情報の一元化を目指して、株データシステムの共通フォーマットを作成した。保存株リスト第7版が出版された。
  6. 生物資源情報:
    つくば市国際コンベンションセンターで世界生物多様性情報機構の会議を開催し、世界分類学イニシャテイブに関して微生物資源及び分類に関する我が国の見解を提言した。

4)今後の課題、展望

  1. 環境標準試料:
    標準試料作製、分析クロスチェック及び分析値評価に関する体制とインフラの整備を行い、質の高い標準試料を提供する。
  2. 分析精度管理:
    分子鋳型分析法の高度化を図るとともに、基盤計測機器のよりよい利用体制を整備する。
  3. 環境試料:
    試料採取・処理・保存までのマニュアルを作成するとともに、凍結粉砕試料における有機化合物の均質性のチェック、作業環境の管理システム構築、絶滅危惧生物の重要生息地環境試料の抽出、環境試料データベースの発信等を実現する。
  4. 絶滅危惧種の遺伝資源保存:
    動物園とのネットワーク体制の構築、検疫システムの構築、始原生殖細胞の培養技術の開発、絶滅危惧藻類の凍結保存技術の開発等を重要課題として推進する。
  5. 環境微生物の収集・保存・提供:
    我が国における藻類資源の中核機関として、情報の一元化を実現させ、藻類資源の共有システムを構築しつつ、分譲の一元化にむけての調整を行う。
  6. 生物資源情報:
    絶滅危惧種の生態・分類等重要な生物学的情報の整備を図る。

5)研究予算額

  • 平成13年度:70,000,000円
  • 平成14年度:279,000,000円
  • 平成15年度:296,000,000円

6)評価者意見の概要

環境研究基盤技術ラボラトリーの事業に対して、「本事業は非常に重要な業務であり、研究的技術的問題を克服しながら、順調に進んでいる」等、高い評価を受けた。一方、「重要な試料の他のバンクへの分散を図る必要がないか」「ニーズと仕事の範囲をどう定義するか」「環境標準試料の作製に関して国際的共同体制が必要であり、数も増加させてほしい」「熱意のもった人材の育成を期待」「絶滅危惧種の生息地の重要な環境試料をどう抽出するか検討が必要」等の指摘あるいは要望を受けた。

7)意見の反映

本事業において、不慮の事故に備え、保存された試料の信頼できる他機関へのセイフテイーデポジットは必要であるとの認識から、新しくできた環境試料タイムカプセル棟における業務が軌道にのった段階で、絶滅危惧種の細胞・遺伝子については理研バイオリソースセンターや米国サンデイゴ動物学会の絶滅危惧種繁殖センター等と、環境試料については、米国国立標準技術研究所やドイツのユークリッヒ中央研究所等と連携をとり、互いに重要な試料について共有していくことを検討していきたい。

本事業では、環境試料と絶滅危惧種の遺伝資源の保存事業は環境試料タイムカプセル事業検討委員会で、環境微生物は微生物系統保存評価委員会で外部有識者を含め、事業計画、事業成果評価をニーズも考慮して検討し、研究資源の制約内で実行可能な範囲で実施しているが、環境標準試料についてはそのような体制が整備されておらず、かつインフラ及び予算等の研究資源が不十分なので、16年度は標準試料事業の実施体制・予算・インフラの強化・充実を図りたい。

平成15年度で、当該ラボラトリーの2つの研究室の室長が新たに決まり、研究室の基本的体制ができあがり、ポストドク等も増えたことで、次代を担う人材育成にも力を注いでいきたい。

絶滅危惧種の生息環境因子の保存をどのようにするかについては、研究資源的制約があるので、とりあえず、本年度はタンチョウヅルをモデルケースとし、タンチョウヅルの専門家の意見・協力をいただき、適切な環境因子を選択し、保存することを検討していきたい。