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政策対応型調査研究の年度評価(平成16年4月)
化学物質環境リスクに関する調査・研究

  • 更新日:2004年7月22日

1)研究の概要

化学物質環境リスクの適正管理を目指して、現行のリスク管理政策からの要請を受けた課題とリスク管理政策のさらなる展開を目指して解決すべき課題の2つの観点から曝露評価、健康リスク評価及び生態リスク評価について評価手法の高精度化を図るとともに、簡易なリスク評価手法の開発を行う。また、リスクコミュニケーションを支援する手法の開発を行う。曝露評価については、時・空間的変動を考慮した曝露評価や少ない情報に基づく曝露評価手法を開発する。健康リスク評価については、化学物質に対する高感受性集団に配慮した健康リスク管理手法や、複合曝露による健康リスク評価手法を開発するとともに、バイオアッセイ法の実用化に向けた研究を行う。生態リスク評価については、生態毒性試験法の開発と生物種別の毒性に基づく生態リスク評価手法の高度化を目指す。リスクコミュニケーションについては、情報加工・提供方法について研究する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成15年度研究成果の概要

  1. 少ない情報による曝露評価手法については、河川モデル及び内湾モデルに関する研究を進めるとともに、新たに3次元湖沼モデルについて設計を開始した。河川モデルでは計算誤差の解消と河川構造データベースとの統合を行い実環境に対応できるようにした。内湾モデルでは実測値を用いたモデルの検証を東京湾において引き続いて行った。
  2. 変動を考慮した曝露評価手法については、地理情報諸要素をデータ構造単位上に規格化し、規格化データ間の相互変換を行ってモデル計算に利用可能なデータに加工するとともに、河道構造及び気象情報をデータベースとして整備し空間的変動解析を実施するためのシステム化を完了した。
  3. 感受性を考慮した健康リスク評価については、ヒ素メチル化代謝酵素の蛋白をコードしている領域でジーンバンクに異なる遺伝子配列が登録されている部位について検討を行った結果日本人の砒素代謝酵素の遺伝多型は認められなかったが、砒素の代謝について試験管内で試験系を確立することができた。
  4. 複合曝露のリスク評価では、単純な相加性が仮定でき複合曝露の可能性の高い発がん性物質の大気からの暴露に着目し、ベンゼンの発がん性に対するトルエン等のベンゼン誘導体の修飾の程度を、薬物代謝酵素の誘導能の比較データより推定した。
  5. バイオアッセイ手法の実用化では、ベンゾ(a)ピレンを対象として、エームス法による変異原性試験結果や遺伝子導入動物のin vivo試験と発がん試験結果の比較を行い、測定値の換算を試みた。
  6. 魚類に対する毒性に関する構造活性相関手法の開発を試みた。化学物質の構造によるクラス分けによる方法とともに、化学物質の特性を表すデータを加えた分類にニューラルネットワーク構造を構築し、対象物質の毒性値を予測する新たな手法を開発した。
  7. 化学物質の分析法を収録した環境測定法データベース(EnvMethod)を公開し、環境モニタリングの分析法についての情報提供を行うとともに、化審法関連物質のデータベース化を進めた。
  8. セスジユスリカを用いた底質毒性試験、藻類成長阻害試験と新規ウキクサ生長阻害試験についてOECDテストガイドラインで提案されている試験法のわが国での適用可能性の検証を行いガイドラインに反映させた。

4)今後の課題、展望

曝露評価については、モデル等の改良を進めるとともに物性や排出量などの基礎情報を収録したデータベースの作成を進め、大気・河川・土壌の各空間上の濃度変動の定量的検討及び全国的規模の曝露分布の推定精度をたかめる。完成させたシステムを、政策的に取り上げられている物質群(化審法の指定化学物質、PRTR法の第一種指定化学物質、環境測定データのあるものなど)に適用し、優先的に評価すべき物質の選定などに活用する。また、化学物質の経年的インベントリの作成を行い、曝露の時間的変動の評価手法に発展させていく。

健康リスク評価については、作用機構に着目した複合曝露評価手法の開発を引き続き試みる。変異原性試験から発ガン性への定量的関連を求めるための実験を行う。感受性を決める遺伝的要因を同定するための研究基盤を整備するとともに、子供のリスクについて感受性要因とともに曝露要因から検討する。

生態リスク評価については、化審法の審査等における生態毒性のリスク評価のための各種試験法の確立を進めるとともに、魚類を対象として開発した構造活性相関式の構築手法を、藻類、甲殻類に拡大する。また、生物種別の毒性試験から個体群や生態系に及ぼす化学物質の影響を評価するための方法論の開発や基礎データの収集を行う。

リスクセンターのホームページ上で化学物質環境リスクに関する研究成果を提示するとともに内外の関連情報を掲載することにより、幅広い情報、データ等を参照できる総合的なシステムを構築する。

5)研究予算額

  • 平成13年度:93,000,000円
  • 平成14年度:115,000,000円
  • 平成15年度:168,000,000円

6)評価者意見の概要

曝露評価手法、生態リスク評価手法、健康リスク評価手法等に関する重要なテーマについて着実に研究が進んでおり、種々の成果を高く評価するが、高精度リスク評価手法の開発というゴールにはまだなすべきことがある。人手も充分とは言えない状態でプロジェクトに取り組んでおり、進捗が遅れ気味の課題も見受けられる。現実の政策と密接に関係するので、現在の研究ペースを維持するとともに、研究の優先度を再点検して重点化を計る必要があるとの評価を受けた。さらに、以下のようなコメントを頂いた。

  • 研究範囲の広さや委託・請負研究の負担に対して人的資源のバランスが取れていない。
  • 高感受性を考慮した健康リスク評価は視点を変えた取組や子供のリスクが重要である。
  • 生態リスク評価手法は始まったばかりの段階である。政策的にも成果が待たれるものであるので優先度を再点検して重点化を計る必要がある。
  • リスクコミュニケーションの一環としてのホームページの管理運営はこれからも重要である。

7)意見の反映

指摘された点について、以下のように反映させ研究目標が達成できるように努力していきたい。

  • センターとして研究業務と委託業務の両立を図れるように、業務体制を強化する。また、化学物質が関連する他のプロジェクトなどとの連携をさらに深めて、効率的な研究を進める。
  • 収集したヒト遺伝子試料を、将来、感受性要因を探る上で必要となる遺伝多型情報の基盤とする観点から研究を再構築する。また、子供へのリスクについては暴露量に関する基礎的な知見の集積を進め、さらに研究を充実させることを検討する。
  • 環境基準等の政策の検討に対して的確な科学的知見を提供していくことを含め、生態影響について政策で活用できる研究成果が出せるよう、本分野の研究の加速化を図る。
  • 研究の進展にあわせてホームページの充実を図る。