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政策対応型調査研究の年度評価(平成16年4月)
循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究

  • 更新日:2004年7月22日

1)研究の概要

生産から流通、消費、廃棄の過程に至るまで物質の効率的な利用やリサイクルを進めるための戦略的な物質循環政策、循環型社会の基盤を支える資源化・処理処分技術システム、検知・監視システムに関する研究・開発を推進する。1.循環システム解析手法の確立、2.循環・廃棄物技術の高度化、3.循環・廃棄物モニタリング手法の確立という3つの研究アプローチを基軸に、以下の課題に取り組む。

テーマ1:
循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

物質のフローを経済統計と整合的に記述・分析し、循環の度合いを表現する手法、資源の循環利用促進による環境負荷の低減効果を総合的に評価する手法、地域特性にあった循環システムの構築を支援する手法、及び循環資源利用製品の安全性を評価する手法を開発し、これらを諸施策の立案・実施・達成状況評価の場に提供することにより、さまざまな主体による効果的な「循環」の実践の促進に貢献することを目指す。

テーマ2−1:
廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究

循環型社会の基盤となる技術・システムの確立に資することを目的として、熱的処理システムの循環型社会への適合性評価手法の開発、有機性廃棄物の資源化技術の開発及びシステム評価、最終処分場の容量増加技術・システムの開発、最終処分場の安定度や環境影響を適切に評価し、それらを促進又は改善する手法の開発を行う。

テーマ2−2:
液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

し尿や生活雑排水等の液状廃棄物に対して、地域におけるエネルギー消費の低減及び物質循環の効率化を図るため、窒素、リン除去・回収型高度処理浄化槽システムの開発、浄化システム管理技術の簡易容易化手法の開発、開発途上国の国情に適した浄化システム技術の開発、バイオ・エコエンジニアリングと物理化学処理を組み合わせた技術システムと地域特性に応じた環境改善システムの最適整備手法の開発を行う。

テーマ3:
資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究

循環資源や廃棄物に含有される有害化学物質によるリスクを総合的に管理する手法として、不揮発性物質を系統的に把握する検出手法、およびバイオアッセイ手法を用いた包括的検出手法を開発する。これらの手法も利用して、臭素化ダイオキシン類に関連する有機臭素系難燃剤の挙動と制御手法、有機塩素系化合物を含有する廃棄物の分解手法に関する研究を推進する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成15年度研究成果の概要

テーマ1:
循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究
  • 業種別・種類別の廃棄物の排出・処理・処分量の複数時点のデータを推計し、産業連関表と組み合わせて利用可能なデータベースの構築を進めた。
  • プラスチックのリサイクルによる環境負荷低減効果のLCAによる評価、耐久消費財の買い替え・廃棄に関する意識・行動調査結果の解析を行った。
  • 埼玉県内外における廃棄物・循環資源の移動を地理的な需給関係によりモデル化し、整合性・効率性・公平性という地域循環度指標の3評価軸を提案した。
  • ごみ溶融スラグ骨材のJIS作成に資する具体的安全管理プログラムの作成、木材系廃棄物の利用時の安全性評価・確保に係る分析法検討、物質の挙動解明を行った。
テーマ2−1:
廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究
  • 灰加熱による微量有害物質生成特性と影響因子、排ガス高度処理における吸着能決定因子、有機臭素化合物の挙動パラメータを精密に求め、データ基盤を拡大した。
  • 有機資源特性化データベース及びGISを活用した有機資源発生データベースの作成を進めるとともに、乳酸の効率的な発酵条件・収率の把握及び品質条件の解明、水素発酵の基礎的特性の把握及び連続水素回収実験を行った。
  • 処分場再生の問題点、容量増加手法の適用性・安全性の検討を行うとともに、広域処分場のLCCとLCIから工法の違いがコストには影響しないが環境負荷に影響すること、数値解析により暗渠排水が海面処分場の安定化促進に効果があることを示した。
  • 安定型廃棄物の硫化水素発生ポテンシャル評価手法を構築し廃石膏ボードによる発生を実証的に示すとともに、通気・浸出水循環による処分場安定化促進法の埋立層内環境の改善効果等を見出したほか、埋立処分場安定化過程の評価手法の構築を進めた。
テーマ2−2:
液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究
  • 高度処理浄化槽の窒素除去機能の向上化とともに、コスト、維持管理の削減化を踏まえた吸着脱リン法及びリン回収型のシステム導入の確立化を進めた。
  • 硝化反応を制御するamoA遺伝子に着目した分子生物学的迅速検出手法及び汚泥の減量化、処理水の透明化に資する微小動物のバイオリアクターへの定着化手法の開発を進めた。
  • 温暖地域の開発途上国を視野に入れた熱帯シミュレーターを構築するとともに、嫌気、好気導入ラグーンシステムの有効性についてシミューレーション解析による評価を行った。
  • ディスポーザ破砕物や畜産廃液の処理システムの高効率化技術の開発及び藻類増殖潜在能力(AGP)試験方法の高精度化測定装置の開発と数理モデルの基盤構築を進めた。
テーマ3:
資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究
  • 酸耐性画分のAhレセプター結合細胞系アッセイの毒性等価換算値はWHO−TEQの数倍程度の範囲になり、両者には相関が認められた。浸出水評価のための試験法の組み合わせ(バイオアッセイバッテリー)を選択する手法を提示した。
  • ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)の水溶解度、オクタノール/水分配係数は、塩素化ダイオキシン(PCDDs)と比較した場合、同じハロゲン化数でほぼ等しいことが分かった。
  • 有機塩素化合物をppmレベルで迅速に判定する金属Na/エタノールによる判定試験などを含めた包括的検査法及び有機スズ化合物13成分のGC/MS一斉分析法を開発した。
  • 残留性有機塩素化合物の加熱水反応、紫外線照射及び電解還元による脱塩素化の効率やメカニズムを解明した。

4)今後の課題、展望

テーマ1:
循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究
  • 循環資源のマテリアルフローを体系的に示した数表を複数時点構築し、動脈部門を含めた経済活動全体についての物量産業連関表との結合を進める。これらをもとに、資源の循環的利用促進の影響分析、「循環の指標」の改良、実証研究を進める。
  • リサイクル技術を対象としたLCAの事例分析、廃棄物処理・処分に伴う環境影響評価手法の検討を進める。容器包装、耐久消費財等について、循環促進策のシナリオを構築し、ライフサイクルでの環境影響低減効果の評価を行う。
  • 地域の廃棄物・循環資源の移動と循環の範囲について、埼玉県において構築した地理情報システム、輸送モデル・需給適合モデルを用いて、成因の解析と地理的なフロー変化の予測を進め、拠点計画法として提示するとともに、地域循環度指標を提示する。
  • リサイクル製品の長期的安全性の視点から促進劣化試験などについて検討するとともに、リサイクル製品中の有害物質試験方法のJIS化に向けての基礎情報を提供する。
テーマ2−1:
廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究
  • 循環型社会への適合の観点から熱処理プロセスの詳細評価を行う。吸着法・超臨界流体抽出法等の高度分離技術の開発・改良を進める。高疎水性有機臭素化合物の物性パラメータを蓄積し、負荷物質の挙動解析及び処理・資源回収の技術開発へ応用する。
  • 乳酸回収及びアンモニア回収装置による実証実験による回収プロセスの特性を評価し、また有機性循環資源の安全性評価を行う。さらに、いくつかの都道府県において有機性循環資源の排出、需要特性を地域レベルで明らかにする。
  • 埋立地容量増加の各技術の評価、既存処分場の再生に向けた処分場の分類と埋立内容物の現場調査及び再生のための前処理技術の選定手法の提案を行うとともに、海面埋立における環境負荷評価及びその低減技術の評価手法を検討する。
  • 安定型処分場における硫化水素発生防止対策の提示・適用性確認、及び安定化指標や現場での点検・長期監視計測法の開発並びにテストセルによる最終処分場の安定化促進技術の実証実験を進める。
テーマ2−2:
液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究
  • 窒素、リン除去機能を有さない合併処理浄化槽等に吸着脱リンシステムを導入して、処理性能やリン吸着担体の持続性の評価を行い、リン除去・回収型高度処理システム開発のための基盤データの蓄積を図るとともに、効率的なリン回収方法の検討を行う。
  • 分子生物学的手法を活用した浄化システムの迅速性能評価方法の熟成度を高めるとともに、浄化システム診断の各手法を総合した解析・評価方法等の検討を行う。生物処理システムの性能低下時に生物活性化手法等が適用可能となるよう実証検討を行う。
  • 食料生産も考慮したフロート式水耕栽培浄化法を組み込んだラグーンにおける有毒アオコ発生ポテンシャル評価や毒性の安全性評価等の進展を図る。また、土壌処理システムに関して、微生物の分子生物学的手法等を用いて窒素除去プロセス解析を行う。
  • 機械的破砕、オゾン、電気分解などと生物処理との適正組合せに係る研究開発を加速する。また、各種バイオ・エコエンジニアリング技法による生活排水処理水の有毒藻類増殖能(AGP)試験を実施するとともに、各処理システムの面的整備の評価を行う。
テーマ3:
資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究
  • 液体クロマトグラフィー(HPLC)やゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)等を用いた化学分画手法を導入して、複合試料中の活性物質の同定、活性寄与率評価を進め、POPs代謝物の毒性評価まで踏み込んだin vitroアッセイ評価系の構築を試みる。
  • 有機臭素化合物や有機臭素系難燃剤の物性推算やバイオアッセイ評価について基礎的に検討を進めつつ、非制御燃焼過程や高度分解処理過程などからの大気系と水系への排出係数把握を行う。物質フローモデル/環境動態モデルは、未知の発生源からの進入を盛り込み、近年の環境測定値からの検証を行う。
  • LC/MSによる同定手法と新イオン化法の高感度化の改良開発研究を行い、また、従来LC/MSで感度が乏しかった難揮発性臭素化合物の高感度検出法を開発する。浸出水中の有機成分の特性化から、LC/MSの包括分析としての位置づけを行う。
  • 分解技術研究として、金属Na分解法、電解還元法、加圧熱水反応による分解機構を解明する。PCN等の有機塩素化合物を熱分解や光分解で無害化する技術を開発する。

5)研究予算額

  • 平成13年度:759,000,000円
  • 平成14年度:822,000,000円
  • 平成15年度:632,000,000円

6)評価者意見の概要

現状の技術システム、及び社会経済システムを追認・前提とする研究からは、循環型社会への転換につながるブレークスルーはできない、エンドオブパイプ(EOP)での対応技術・システムから、より上流の3R対応研究への展開、社会経済システムまでも統合した将来ビジョン等の提示に向けた研究展開が必要との意見をいただいた。また、研究が広範であり統合性に欠けるとの指摘や、循環型社会システムを形成するための経済的側面、政策科学など社会科学面の研究の充実・強化が必要との指摘を受けた。その一方、前年の中間評価時に比べ改善しているとの評価も受け、「循環研究パネル」による「循環ビジョン研究」等の取組みを通じて、個別研究の位置付けや研究のシナリオが明確になった、廃棄物リスク制御と循環システム研究等が統合化して進められるようになったとの評価をいただいた。また、EOP技術は国民生活にとって極めて重要な技術であることも訴えるべきとの指摘もいただいた。

7)意見の反映

より上流側の生産プロセス・製品設計まで踏み込んだ研究や、技術システムを社会に適合させるための社会経済的システムの設計・評価に関する研究、持続的発展可能な社会を標榜し環境問題の根源となっているドライバーズとしての人間活動の是正まで踏み込んだ研究の本格的展開には、基本的には中長期的な体制整備が必要であると認識している。したがって、当面は様々な価値観を包含したいくつかの技術や社会経済シナリオを想定して、それらを包括的な評価指標群により客観的に評価していくような「シナリオ型研究」への展開可能性を模索し、将来ビジョンづくりのための研究に中長期的視野でつなげていきたい。また、経済的側面、社会科学面についても、現在進めている事例研究等の中でこうした側面に着手するとともに、環境行政における検討への有識者としての支援を充実させるなど、短期的に可能な対応から進めていく。また、現在のスタッフの専門性を活かし、循環型社会システム形成のための情報基盤整備、評価手法開発を進めるとともに、前年の中間評価を踏まえて着手した「循環ビジョン研究」において、社会システム形成の前提となる「めざすべき社会像」の基礎的検討を進める。

他方、循環型社会へ移行しても、どうしても使えないものを最後に適正に処理・処分するEOP技術は、今後も経済活動や生活の基盤となるサービス/インフラとして必須であると考えている。こうした技術システムの目標が従前の生活環境の保全や安全の確保から、未知のものや未来を考えた「安心」の確保へと移りつつあることも踏まえ、利用可能な経済資源のなかで未知の危険性に対応できる予防的な技術システムを構築することを今後の鍵として研究展開を図っていきたい。その際、市民生活や処理・処分の「現場」からの問題抽出と市民や自治体への成果のフィードバックという形で、科学的価値だけではなく、社会に訴えかけられるようなリアリティのある研究を心がけたい。

手法・技術の開発については成果があがっているとのコメントや昨年度よりは大きく進歩、発展しているとの労いの評価、そして廃棄物研究への気概を評価頂いたことは本研究に携わる多くの研究員の想いに通じる点で深く感謝している。より統合性を意識した研究展開として、リスク制御とシステム研究の統合展開をより確実なものとすると同時に、技術開発とシステム研究の統合展開も考えていく。