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重点特別研究プロジェクトの年度評価(平成16年4月)
大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト

  • 更新日:2004年7月22日

1)研究の概要

国際的に関心が高まっているDEP等を含むPM2.5を中心とした大気中粒子状物質の発生源特性や環境動態を明らかにし、発生源と環境濃度との関連性を把握する。これとともに大気中粒子状物質の一般住民への曝露量を推計し、さらに全国民の曝露量ランク別人口数の推計を行い、リスク評価に資するデータを蓄積する。また、影響評価に資するため、動物実験を中心とした毒性評価研究を行い知見の集積を図る。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成15年度研究成果の概要

1. 排出実態と環境動態の把握及び計測法に関する研究

排出実態に関しては、シャシーダイナモ実験、車載計測、トンネル・沿道調査などの手法を組み合わせ、主にディーゼル車からの排出特性を調べた。特に、沿道・都市地域における大気微小粒子データを蓄積し、発生源との関連性を検討した。これと共に、リアルワールドの排出係数を与える事が出来る車載型計測システムを開発利用し、様々な走行状態でのデータを取得した。環境動態把握に関しては、都市・広域における粒子状物質の立体分布観測採取試料を基に、粒子の化学組成分析、数値モデル解析を実施した。

また、風洞実験手法を精緻化し、この手法を駆使して、複雑な構造の沿道内における渦の挙動と大気汚染の立体分布の関連性を明らかにした。この知見を基に高濃度が発生する沿道大気汚染の状況を改善する為にどのような対策が考えられるかを詳細に検討し、特に高架道路が沿道の大気汚染分布に及ぼす影響を明らかにした。計測法の検討に関する研究では、炭素成分の分析方法を検討した。研究の結果、EC+OCの総炭素成分量は測定方法や分析条件で異なることは少ないが、従来の解析方法を用いた場合、一般環境ではOCを沿道ではECを過小評価する事が明らかとなった。

また、環境試料の採取方法による違いを明らかにした。モニタリングのためのPM2.5の自動計測機器の精度を並行評価試験により検討した。測定の結果、季節的な影響として湿度影響が示唆され、我が国のような夏季の高湿度地域でのモニタリングの課題が明らかとなった。

2. 曝露量に基づく対策評価モデル等に関する研究

DEP曝露量モデルの構成要素となるサブモデルとして、交通システム対策評価モデル、DEP排出量の詳細推計・地域分布予測モデル、交通流モデルを構築し、上記の排出実態研究の成果も反映させて、精度の向上を図った。曝露量推計の為に当該地域に居住する人に対する全生活時間帯の曝露量評価システムを独自に開発した。更に、各種の対策を実施した時の環境DEP濃度分布を推計した。

一方、二次粒子も含めた大気中粒子状物質の発生源・環境の動態を把握し、発生源との因果関係を明らかにする為には、高濃度発生地域における情報のみならず、広域的な挙動の解明が必要である。平成15年度には日本全国の大気汚染モニタリングデータの解析や大陸方面からの流入大気汚染の寄与解析を実施し、その情報を都市域における大気汚染のベースとして評価した。

またアジアスケールから都市スケールまでの広い範囲の大気汚染現象を、黄砂の影響も含めて総合的に解析・評価出来るモデルシステムの基本構築を終えた。

3. 健康影響の評価に関する研究

疫学研究としては、我が国における日死亡と粒子状物質の関連性を調べる為に、ある一日における、特定の地域の死亡数、大気汚染濃度、気象データを含めたデータベースを構築した。このデータベースを基に死亡リスク比を日本の代表的な都市について求め、アメリカの解析結果と比較評価し、単位濃度当たりの急性死亡の増加割合に関してほぼ同等の結果を得た。毒性評価に関しては、主にディーゼルからの排気の影響を調べた。微小粒子に対する高感受性群として呼吸器や循環器に疾患を持った人々や老人が挙げられているので、高感受性である事の科学的根拠や量―反応関係を把握する為に、病態モデル動物を用いた実験など、呼吸器のみならず循環器系に対する影響について検討した。これと共に毒性スクリーニング手法の開発および毒性物質の解析に関する研究を実施した。

平成15年度には、ナノ粒子の影響評価研究を開始し、毒性スクリーニングや、人体沈着モデルを用いた、沈着部位の検討を実施した。

4)今後の課題、展望

1. 排出実態と環境動態の把握及び計測法に関する研究

これまでは主にディーゼル車からの排出特性を調べて来たが、直噴車をはじめとするガソリン車についても調査を開始している。沿道で観測された粒径分布は過渡運転に由来する可能性が大きいが、シャシーダイナモ試験でいかにリアルな発生状態を再現出来るかが課題である。定常走行や従来のモード走行のみならず車載計測で得られた現実的な過渡運転の検討を行っている。排ガス希釈チャンバーを用いて粒子の成長プロセスの把握についての更なる検討を行いたい。超微小粒子の組成が大きな関心事であり、ディーゼルの排気由来の20〜30ナノメートルにピークを持つ粒子の同定が課題である。今後更に、沿道・都市における微小粒子の継続的な測定を実施し、発生源の変化との関連性を解析して行く必要があると考える。

局所高濃度大気汚染に関しては地域密着的研究を深め、風洞実験や数値モデルで得られた知見の適用可能性をフィールド調査結果の解析等を基に検討する事が課題である。沿道局地汚染の評価に当たっては、車載型計測システムにより新たに得られる微細な排出分布データを活用できる見込みである。大気中浮遊粒子状物質の計測法に関わる部分は本プロジェクトに共通の課題であり、極めて重要である。発生源、環境、動物曝露評価等の研究において共通の測定システムを用いる事によってのみ、発生源から健康影響までを統一的に定量的に評価する事が可能となるからである。動物曝露実験での曝露条件を更に精査することが肝要である。

環境大気の炭素成分に関しては、これまで多くの測定結果が蓄積されて来たが、試料採取の方法や条件、分析の方法や測定条件、データ解析の方法などが異なっていたため統一的な評価は出来なかった。これらの情報を活かす意味もあり、各種の方法による比較観測が必要である。

常時監視モニタリングに関しては、SPM、PM10、PM2.5の相互比較調査を継続させる必要がある。測定機器それ自身の比較評価は勿論の事、我が国の気象条件を踏まえた、サンプリング条件や測定室の温度条件などに関する通年評価が課題である。超微粒子(ナノ粒子)の計測が重要な課題となっている。捕集装置を試作し、分析法を確立することが、排出実態把握、環境動態、毒性評価の各分野の研究進展につながる。

2. 曝露量に基づく対策評価モデル等に関する研究

交通システム対策評価モデル、DEP排出量の詳細推計・地域分布予測モデル、交通流モデル等のサブモデルを基に沿道周辺の大気汚染濃度の推計計算を実施しているが、実際の環境濃度は広域スケールの大気汚染の影響が複合する為、次の段階では広域モデルとのリンクが必要となる。これに関しては、別途、固定発生源・移動発生源、自然発生源のメッシュ排出量推計モデルの開発も実施しており、並行して進行中の広域数値予測モデルとの結合を行いたい。

一方、今回開発したDEPへの曝露量推計モデルは大気環境での寄与を推計することを主な目的として、通勤通学による移動や移動先での曝露を重視したものになっているが、今後はモデルの感度分析を進めながら、推計精度に大きく影響を与える可能性があるパラメータについては、本研究プロジェクトにおける他の研究課題との連携を深めると共に室内環境研究分野の最新の研究知見を参照しつつ精度の向上を図りたい。

3. 健康影響の評価に関する研究

疫学研究では、大気汚染の急性影響評価が課題となっている。我が国では時間単位の常時監視モニタリングデータが得られるため、より詳細な解析が可能である。気象や共存大気汚染物質の時間値データを利用する事により疫学解析結果の評価に当たって課題となっているリスク評価モデルの検討・評価も可能となろう。

毒性評価研究においては、ディーゼル排気の循環機能に及ぼす影響研究に関しては生活習慣病、心筋炎などの病態モデル動物を使い、ディーゼル排気が循環機能におよぼす影響と機構について検討する事、ディーゼル排気曝露の影響とガス状成分のみの曝露の影響を比較し粒子状成分の影響を推定する事、曝露濃度−影響関係を検討し閾値を推定する事が課題である。

ディーゼル排気が呼吸器の感染による傷害や機能に及ぼす影響の研究に関しては易感染者の急性増悪に関わる因子による傷害にディーゼル排気曝露が及ぼす影響について検討する事、アレルギー関連疾患の増悪機構の解析を行う事、曝露濃度−影響関係を検討し閾値を推定する事が課題である。

毒性スクリーニング手法の開発および毒性物質の解析研究では、運転条件等を変えた場合の粒子状物質や粒径別粒子状物質の毒性スクリーニングを行う事、摘出心筋や心臓を用いDEPおよび成分の毒性のスクリーニング手法および毒性物質の解析が課題である。

5)研究予算額

  • 平成13年度:120,000,000円
  • 平成14年度:190,000,000円
  • 平成15年度:210,000,000円

6)評価者意見の概要

1. 研究の進め方に関しては、
  1. ナノ粒子の正確なサンプリングやその物性、化学性状などの解明、暴露量や影響評価については、集中的に研究を進めるべきではないか。
  2. 微小粒子物質中の多くの化学組成の解明や環境変動など、明らかにすべき点が残っている。
  3. 東京都のディーゼル車規制が研究成果を検証する一つの場を提供しており、いくつかの仮説を確認することが望まれる。

等の指摘を受けた。

2. 曝露評価モデル、粒子の発生機構、環境動態研究に関しては、
  1. 曝露評価では粒子状物質全体の総量評価にとどまっている。マクロな曝露評価をどこまでミクロな要素・要因に分解して分析していけるか、影響評価のために本当に使える曝露評価の実現が課題と考える。また、モデルが曝露実態とどの程度合致するのか、広範な個人曝露調査を行い検証してほしい。
  2. 風洞実験まで行ってあらためて沿道の大気汚染濃度分布に関する研究をしている意図が読みきれなかった。
  3. 微小粒子の化学反応、凝集等が重要になってくると考えられるので、湿度、紫外線強度などを設定できる実験室的研究を組み合わせて挙動解析をするべきではないだろうか。
  4. 自動車排ガスに比べて飛行機によるものはどのくらいの割合を占めるのか。また、その影響はどうか。

等の指摘を受けた。

3. 影響評価研究に関しては、
  1. ナノ粒子発生実験に際して各粒度のカーボンブラックを共存させ、得られたものについて毒性を評価するといことは無意味であろうか?
  2. 粒子状物質の人体影響はリアルワールドでの疫学調査が最終評価点endpointである。したがって、ここをもっと強化し、永年かけて気永にコーホート調査も含めてやる必要がある。
  3. ナノ粒子の人体影響は疑問の多いところであり、肺での沈着部位同定は不可能と思われる。等の指摘を受けた。

その他、地方自治体の試験研究機関と実施している共同研究を評価し、さらに連携を強化することを望む、等の指摘を受けた。

7)意見の反映

1. 研究の進め方に関しては、
  1. 本プロジェクトでの目標はDEPとPM2.5にあると考えているが、潜在的な問題の大きさを考慮してこれまでの道路沿道等での観測や計測法の検討等は継続したい。ナノ粒子の健康影響については平成15年度から環境省で予算化し、本プロジェクトのサブプロジェクトとして別途取り組みを開始しており、本重点プロジェクト終了後も引き続き重点的に検討を進める予定である。
  2. 粒子状物質汚染の実態や毒性を考えるために、各種組成分析を行っている。ナノ粒子は個数濃度は高いが重量が少ないため、超微量分析法を検討している。
  3. 東京都のディーゼル車規制の前後で行った調査結果を比較することにより、規制によって沿道環境中の粒子の物理特性や化学組成に生じた変化を明らかにし、その情報から実験研究の方向の妥当性を再検討したい。
2. 曝露評価モデル、粒子の発生機構、環境動態研究に関しては、
  1. 現在は対策効果の評価ためのマクロな曝露評価モデルの開発を行っている。影響評価のためのミクロな曝露評価については環境省が実施している疫学調査と連携を取りながら、実測値との比較検証を行う予定である。
  2. 減速時には燃料供給がカットされるため、シリンダー内は酸素不足の状態とはならないものの、通常の燃焼時とは大きく異なる状態となる。これがナノ粒子の発生に、どのように関係しているかも含め、ナノ粒子の発生機構解明に引き続き取り組む予定である。たま、減速時に発生する粒子の化学成分の同定を行うとともに、その粒子の持つ生体影響についても酸化活性等の測定を行う予定である。
  3. 大気汚染濃度モデル研究では、自動車発生源の1次粒子を主対象とはしているが、固定発生源の1次粒子、2次粒子や越境汚染による影響に関する研究も進めている。今後、これらの多様な粒子を対象とした統合モデル研究を強化していく予定である。
3. 評価研究に関しては、
  1. ディーゼル排気中のナノ粒子の化学組成の解析と解析に基づいたナノ粒子を用い毒性評価を行う予定である。粒径の異なるカーボン粒子を共存させ曝露実験を行うことは毒性評価の面で意味があると考えている。気道の沈着部位、気道を構成する細胞の認識の違い、細胞内に入ってからの挙動の違いなどが報告されていることから個々の影響を検討した後に、具体的な課題としたい。
  2. 疫学コホート調査の重要性については十分に認識している。他の研究機関と連携しながら、環境省が計画している道路沿道の局地的大気汚染疫学研究の中で実現できるように努力していきたい。
  3. 放射活性のあるナノ粒子を発生させ曝露するなどすれば沈着部位の同定は実験的に必ずしも不可能ではないが、設備等の面で現状では実施は困難であり、理論的に推定することで対応する予定である。