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重点特別研究プロジェクトの年度評価(平成16年4月)
内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理に関する研究プロジェクト

  • 更新日:2004年7月22日

1)研究の概要

内分泌かく乱化学物質およびダイオキシン類の総合対策をより高度に実施するため、

  1. 高感度・高精度分析、迅速・簡易分析のため新たな新たな実用試験法の提案を行う。
  2. 内分泌かく乱作用についての生物検定法を確立する。
  3. 環境中での分布、生物濃縮、分解性をグローバルスケールを視野にいれつつ明らかとする。さらに、ヒトや生物への影響について、
  4. 実験動物を用いて、発生・生殖、脳行動、免疫系への影響を調べる。
  5. いくつかの野生生物種について、霞ヶ浦、東京湾等をフィールドとして生物影響の状況を明らかとする。
  6. 未知の関連物質の探索を行うとともに、臭素化ダイオキシン等についても調べ、データベース化を進める。
  7. 統合情報システムのもとに、情報管理・予測システムの確立を目指す。
  8. 処理技術として生物浄化技術等の開発により、効果的な対策に資する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成15年度研究成果の概要

  1. 分析・評価技術については、女性ホルモン作用を有する物質の高感度分析法を開発し、霞ヶ浦や東京湾流入河川など水域のエストロゲン活性および化合物の測定を行ない、環境中の動態を明らかとした。酵母ツーハイブリッド法をはじめとする各種のバイオアッセイ系のラインアップをそろえ、女性ホルモン作用、男性ホルモン作用、甲状腺ホルモン作用の評価システムを構築した。これらを用いて実際の環境水や化学品等の評価に着手した。
  2. 野生生物については、巻貝についての調査を行うとともに、新たにアワビ類の内分泌かく乱に関する全国規模の実態調査を実施し、神経節を含む頭部への有機スズの高濃縮と雌の卵巣内での精子形成を観察した。巻貝のインポセックスの生成機序として、核内リセプターRXRの関与を明らかとした。また霞ヶ浦のヒメタニシと東京湾のコノシロ等の雌化の現状についての知見を得た。 東京湾については、更に大規模な調査を開始した。
  3. ヒト用超高磁場MRIにより機能MRIの測定を可能とした。動物を用いる脳代謝試験法、甲状腺ホルモン阻害剤や環境ホルモンを投与した実験動物の行動試験、神経細胞死及び再生に関する研究を実施し、脳神経系への影響評価法を準備した。 これらを用いて、ビスフェノールAやジフェニルヒ素化合物についてその作用を調べた。
  4. ダイオキシン曝露の生体影響指標(例えばCIP1A1)について、ヒト血液サンプルでの測定法を確立し、またダイオキシンによって鋭敏に動く遺伝子の探索をDNAマイクロアレイを用いて開始した。また10ml血液の超微量の測定法を確立した。臭素化ダイオキシンについて、分析法を確立し、底質コアの分析を行うと共に人体脂肪組織中或いは野鳥に存在することを初めて明らかとした。
  5. 内分泌撹乱化学物質のリスク評価と管理のための統合情報システムをGIS上に構築し、内分泌かく乱化学物質の高詳細環境動態解析を可能にした。また内分泌かく乱物質の作用データベースを作成した。
  6. 熱水による土壌中ダイオキシン類の抽出・分解についてその有効性を確認した。植物はビスフェノールAをよく吸収し、不活性化させることを見いだし、各種植物の比較検討を行った。また、微生物によるフタル酸エステルの分解能を検討した。

4)今後の課題、展望

内分泌撹乱作用に基づくとされる現象と原因物質との因果関係が明確になっている事例は少なく、科学的に解明されなければならない点が数多く残されている。このため、環境ホルモンの実態を解明するには、何万もある化学物質のスクリーニングという発生源側からの有害性の評価とともに、影響を受ける人や野生生物側でどのような活性が認められるのかを明らかとすること、その原因物質と思われる物質の同定・定量技術の開発を進めていく。

環境ホルモンの作用として生殖への影響が危惧されており、それについての現象解明を進めるとともに、ヒトについては脳・神経系への影響、発達への影響についての研究を強化し、また免疫影響等についても注目していく。中でもダイオキシン類については超微量分析法、簡易迅速分析法を開発してその対策に資するとともに、今後の国際的なリスク再評価に貢献するものとしたい。

また、発生抑制からグローバルな監視技術の開発と適用を通じて、国際条約であるPOPs対策に資するものとする。

土壌汚染対策に対応するような処理技術の開発も要素技術として開発を進めていく。

また、化学物質リスク全体の管理を見据えた統合情報システムの完成をめざす。併せて、環境ホルモン関連情報を広く国内外に発信していくデータベースを整備していく。

5)研究予算額

  • 平成13年度:288,000,000円
  • 平成14年度:291,000,000円
  • 平成15年度:295,000,000円

6)評価者意見の概要

環境中にごく微量で存在する内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理について、総合的に研究を行う研究フレームは適切に設定されている。研究成果も数多く論文等で公表されており、社会への還元や科学の進展にも寄与しているとの評価を受けた。他方、以下のように、疫学的研究が弱いこと、生態リスク評価の手法が未発達であり努力されたいとの指摘があった。

  1. 人の疫学的研究を拡充すべき。
  2. 人工化学物質とヒト由来の物質のレスポンスを評価する上で、相加性、相乗性、減毒性について結論が必要
  3. 毒性学に基づくリスクアセスメントと自然での生態学のリスクアセスメントを結びつける方法論が必要

7)意見の反映

指摘された点について、以下のような観点から今後の研究計画に反映させ、研究目標が達成できるよう努力していきたい。

  1. 人の疫学的研究として、生殖や脳神経系発達への悪影響という観点について医学研究者との連携のもとでの研究展開を行う。
  2. 水域環境において、下水道水をはじめとしてヒト由来のエストロゲンと人工物質であるフェノール類の作用の組み合わせをどう考えるかは重要と認識している。相加作用、相乗作用、減毒作用についての知見を実験的に充実していきたい。
  3. 自然生態系のリスクアセスメントの方法論の開拓はチャレンジングな課題と考えており、新しい概念の展開をすすめたい。