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重点特別研究プロジェクトの年度評価(平成16年4月)
成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明プロジェクト

  • 更新日:2004年7月22日

1)研究の概要

環境省が開発した人工衛星搭載オゾン層観測センサー「改良型大気周縁赤外分光計Ⅱ型(ILAS−Ⅱ)」(みどりⅡ衛星に搭載され、平成14年12月に打ち上げ。運用期間:平成15年4月−10月)で取得された観測データを処理し、オゾン層研究の科学的利用のためのデータプロダクトとして、国内外に向けて提供する。地上からのオゾン層モニタリングを継続実施し、国際的ネットワークであるNDSCデータベースにデータを提供するとともに、国内外に向けてデータの提供を行う。極域オゾン層変動に係る物理・化学的に重要な要素プロセスについて、その機構及びオゾン変動に対する寄与の解明を行う。また、オゾン層保護対策の根拠となったオゾン層変動予測、及び最新のオゾン層変動予測の検証を行い、オゾン層保護対策の有効性評価に係る知見を提供する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成15年度研究成果の概要

  • ILAS−Ⅱデータ処理アルゴリズムを開発・改良を行った。
  • ILAS−Ⅱデータを検証実験データと比較し、導出された微量気体濃度の検証を行った。
  • 検証済みILAS−Ⅱデータ(version1.3)を国内外の登録研究者に提供した。
  • オゾンレーザーレーダーの再解析データ(1988−2002年分)を、SAGE Ⅱデータと比較検証する事により、17−40kmの高度領域で両者が5%以内の精度で一致する事を確認した。
  • ミリ波オゾン計(つくば)の観測高度領域の拡張(測定下限:38km→15km)のための広帯域化と光学系の改良ならびに高度分布導出のための新たなアルゴリズムの開発を行った。
  • ILAS−Ⅱのデータ解析からオゾンホール内でのオゾン分解に対して「極域成層圏雲(PSC)の生成→PSCによる窒素酸化物の除去(脱窒)やPSC上での不均一反応の継続→大きなオゾン分解速度」という機構が実際に働いている事を定性的に示した。
  • 将来予測に用いた化学気候モデルが抱えるオゾンホール生成時期の遅れや低温バイアス問題の解決に向けて、大気球面効果の組み込みなどの改良を行った。
  • 化学輸送モデルへの臭素化学系の導入を行い、そのオゾン層破壊に対する影響を評価した。
  • 化学輸送モデルを用いて、亜熱帯西太平洋域に存在する低濃度オゾン領域の年々変動の解析を行った。

4)今後の課題、展望

  • ILAS−Ⅱデータ処理アルゴリズムの改良を行うと共に、検証データが不足している化学種のデータに対する新たな検証手法の開発を行う。
  • ILAS−Ⅱデータをもとに、南極オゾンホール内のオゾン破壊速度などオゾン破壊機構の定量的な把握を行う。
  • ILASとILAS−Ⅱデータの比較から、南北両半球極域のオゾン層破壊の類似点と特殊性を明らかにする。
  • 地上モニタリングデータを国際的観測ネットワークであるNDSCのデータベースに提供する。
  • 3次元化学輸送モデルを用いて、これまでの北半球オゾンの長期変動の分類化を行う。
  • オゾン層の将来予測に用いた3次元化学気候モデルの改良を行い、南極オゾンホール出現時期の遅れや低温バイアスなどの問題点の解決を図る。

5)研究予算額

  • 平成13年度:843,000,000円
  • 平成14年度:731,000,000円
  • 平成15年度:639,000,000円

6)評価者意見の概要

「「(みどりⅡ衛星のトラブルによる)ILAS−Ⅱ観測の中断にも拘らず、かなりの成果を収めている;データの精度向上をはかり、有効な結論を導いている;データを用いて(目標達成のために)最大限の努力がなされている」、「世界のトップレベルにある研究である」、「問題が明瞭であり、結果・成果も分かりやすい」といった肯定的な評価を頂いた。

その一方で、「(衛星のトラブルによる)ILAS−Ⅱ観測の中断は目標達成度にマイナス要因となっている」といった現状認識にかかわる指摘を受けた。また諸外国研究のテーマやレベルの紹介とその中での本研究の位置づけを明確に」、「オゾンに関する環境研の役割を明示すべき」といったプロジェクトの役割に関する指摘や、「未知な機構を見つけ出しモデリングをする事が必要」、「生態系の研究者との交流など、影響評価に関する取り組みも検討すべき」、「影響評価モデルを目指した努力を」と言ったプロジェクトのカバーすべきテーマや領域についての指摘を受けた。また、「ILAS/ILAS−Ⅱ Science Teamの貢献を明記すべき」、「発表や質疑応答で多くの問題(メンバー数、モニタリング体制などなど)に答えていない」などの指摘も受けた。

7)意見の反映

  1. オゾン層研究に関する環境研の役割の明確化に関しては、衛星観測データや地上観測データ提供の必要性、オゾン層変動モデリングにおける役割などを明確に示していきたい。
  2. 世界の研究の中での本プロジェクト研究の位置付けに関しては、一層の明確化を図っていきたい。
  3. ILAS−Ⅱ観測の断念に関しては、その事実を厳粛に受け止めると同時に、今後は運用期間中に入手出来たデータに関しデータの処理・解析・検証を進め、信頼性が確保されたデータとしてオゾン層研究者に提供すると共に、南極オゾンホールを中心にオゾン層破壊機構の解明に向けたデータの最大限の活用に努めていきいきたい。
  4. オゾン層機構解明に関しては、現時点での未解決な問題や提唱されている仮説の実証に止まらず、新たな機構の提案とその評価などの研究にも取り組んでいきたい。
  5. オゾン層破壊の生態系や人の健康への影響に関しては、予算面や人的資源の面から本プロジェクトの目標からは外している。しかし影響評価に関する研究の重要性はご指摘の通りであり、今後は関連研究者との連携をより一層密にとり、プロジェクト期間にとらわれる事無く、オゾン層破壊の影響やその対策・予防などにも現象解明・将来変動予測の観点からの貢献とオゾン層研究全体の推進に心がけたい。
  6. 成果プロジェクトの運営方針・成果・自己評価に関しては、その根拠を示し、論理立てたアピールに努めたい。