ホーム > 研究紹介 > 研究計画・研究評価 > 外部研究評価 > 平成16年4月外部評価実施報告 > 地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクト

ここからページ本文です

重点特別研究プロジェクトの年度評価(平成16年4月)
地球温暖化の影響評価と対策効果プロジェクト

  • 更新日:2004年7月22日

1)研究の概要

経済発展・気候変動及びそれらの影響を統合的に評価するモデルを開発・適用して、温暖化対策が地球規模の気候変動及びその地域的影響を緩和する効果を推計し、中・長期的な対応方策のあり方を経済社会の発展の道筋との関係で明らかにする。炭素循環のメカニズムと変動要因を大気・陸域・海洋の観測から解明するとともに、地球規模の温室効果気体の変化を早期に検知する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)15年度研究成果の概要

(1)炭素循環と吸収源変動要因の解明
  • グローバルな陸域・海洋吸収の評価:
    波照間・落石のO2/N2比およびCO2の平均経年変化率から陸上生物圏/海洋の過去5年間の吸収量は0.7±0.4GtC/yr/2.5±0.7GtC/yrと推定。
  • 森林の炭素循環陸域炭素収支の管理に関する研究:
    生態学的なアプローチによる森林炭素吸収量を推定するモデルの開発を進め、わが国の森林吸収量推定に適用した。
  • 海洋のCO2吸収:
    ドイツとの共同研究による北大西洋の海洋表層CO2観測データの解析、太平洋との比較を行った。
(2)統合評価モデルを用いた地球温暖化のナリオ分析とアジアを中心とした総合的対策研究
  • 社会経済モデル及び温室効果ガス排出モデルを開発・統合:
    AIM/技術選択モデルの分析対象を二酸化炭素以外のガスに拡張。AIM/技術選択モデルと応用一般均衡モデルを適用して、日本の炭素税の影響について分析した。
  • 過去100年の気候の再現実験:
    様々な外的気候影響のデータ整備おこない、大気モデルおよび大気海洋結合モデルによる予備実験で概ね良好な結果を得た。
  • 温暖化の水資源影響モデル:
    水資源影響モデルをアジア地域に適用して、温暖化及び水需要を考慮した評価を行った。

4)今後の課題、展望

前回の外部評価委員会でも指摘されたとおり、今後の大きな課題は、炭素循環モニタリング、気候モデル、統合評価モデルの3つをどのようにつないでいくかという点である。気候モデルをインハウス・モデルとして用いる強み(CCSR−NIESモデル)は、炭素循環に深く関係する陸域生態系と大気圏の相互作用を詳細に再現し、気候変化の生態系への影響が気候にフィードバックを起こす過程を再現するシミュレーションを可能にする点である。プロジェクト開始当初から、GDVMの導入を検討してきたが、現状の研究スタッフではGDVMの世界のフロンティアに追いついていくことは難しく、東大の気候システムセンターや地球フロンティア・システムなどCCSR−NIESモデルにGDVMを組み込む努力をしている研究グループとの提携を強化することにより、目的を達成することが適切である。

個々の炭素循環に関する観測は炭素循環モデルの開発と検証に必要な信頼性の高い定量的データを提供する役割を担っている。炭素循環を地球規模、地域規模、森林内部の3つのスケールで大気観測から推定する研究と、樹木の土壌・根・幹・葉の要素ごとの炭素収支観測と遠隔計測からモデルを介してスケールアップする研究とを組み合わせる構想で進んでいる。また、本年度から新たに衛星による温室効果ガス観測の検討を開始したことに伴い、従来の計画の大幅な見直し、新たなセンサの概念設計、想定されるデータ解析による濃度推定精度評価などを実施した。このセンサは従来の観測研究にあったグローバルな展開の欠如を補い、グローバルなモデルとリンクした観測を可能とする。すなわち、高精度で多くの要素をカバーする大気・地上・海洋での観測に、若干精度は劣るが全球をくまなく測定する相補的な衛星観測が加わることにより、GDVMの検証データを提供する役割を果たせる。

5)研究予算額

  • 平成13年度:371,000,000円
  • 平成14年度:430,000,000円
  • 平成15年度:528,000,000円

6)評価者意見の概要

研究成果が上がり始めていることに、概ね肯定的な評価であった。炭素循環研究については高いレベルの観測研究が行われているという評価であるが、国内の他の研究成果も含めてデータベースとしモデル化に生かすこと、対策につなげることなど、リーダー的な機能を強化するようにという指摘があった。気候予測モデルについては、20世紀の気候再現実験などについて高い評価を得た。影響・対策のモデルも高い評価を得たが、温暖化政策の実現を直接支援するモデル研究をはじめとして一層の役割を期待する指摘が多かった。

全体としては、テーマの大きさ複雑さに対し研究者数や予算が少ないこと、ヒトや生態系に対する影響を直接調査研究する必要性、温暖化のリスクを示すこと、地球環境の変化の兆候を把握するシステムを検討することなどのご指摘をいただいた。

7)意見の反映

現在実施中の研究については高い評価を得たが、ご指摘を踏まえ、地球環境研究センターにおいて必要な対応をとることを含め、一層の努力を積み、着実に成果を出していく方針である。

  • 炭素循環に関する研究成果・データの収集取りまとめは、国内の他の研究との連携の仕組みが整いつつあることから、その中心となって取り組みたい。
  • 世界の協力体制は、地球環境研究センターに開設された国際炭素プロジェクトの国際事務局や、総合科学技術会議などとも共同し、その強化に努める。
  • 20世紀の気候を更に高い精度で再現実験しIPCC第4次報告などに反映できるよう努力する。
  • 統合評価モデルの研究では途上国の共同研究者が4名IPCCの執筆者に選ばれており、今後ともアジア太平洋地域のネットワークを生かした研究を推進していきたい。
  • わが国の温暖化対策評価についても引き続きモデルの精緻化に努め、政策立案に有益な情報を提供していきたい。
  • 地球環境の変化の兆候全般については、本研究の枠を超えた取り組みが必要であるが、炭素循環の変化の兆候については、本研究において検出システムの検討を行いたい。