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特別研究平成14年度終了課題の事後評価及び平成16年度特別研究新規提案事前評価(平成15年11月)
トキシコゲノミクスを利用した環境汚染物質の健康生物影響評価法の開発に関する研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

ゲノミクスは生命現象の基本となっている多種多様の遺伝子の構造や働きに関する網羅的な研究であり、トキシコゲノミクスはゲノミクスの方法論を用いた毒性影響研究である。近年ゲノミクス関連の技術がめざましく進歩し、これまで不可能であった生体反応の網羅的な解析が容易に行えるようになっている。この技術を用いることによって、多種多様な環境汚染物質の健康・生物影響評価の飛躍的な効率化の可能性が期待される。本研究では、トキシコゲノミクス技術を利用し、環境研の複数の領域の研究者が連携して、それぞれヒトや生物に対する新しい環境汚染物質の影響評価・予測法の開発をめざした基礎研究を行う。また、この研究によって得られるデータを核として、環境汚染物質のヒト・生物に対する総合的な影響評価のための環境トキシコゲ9ノミクスデータベースを立ち上げる。

2)研究期間

平成16〜18年度(3年間)

3)研究成果

1. トキシコゲノミクスを利用した環境汚染物質の健康影響の実験的予測法
  • 平成16 年度: 実験動物の、特に免疫細胞において、ダイオキシン応答性遺伝子の網羅的解析を行う。
  • 平成17 年度: ダイオキシン応答性遺伝子群からの影響経路の予測、生体影響との対応の検討、影響関連遺伝子の選択を行う。
  • 平成18 年度: ヒトと実験動物の免疫細胞におけるダイオキシン応答性遺伝子の定性的定量的発現比較を行い、ヒトへの影響を予測する。
2. トキシコゲノミクスによる生物影響の検出に基づく環境影響評価法
  • 平成16年度: 環境汚染物質によるシロイヌナズナ、メダカ、微生物群集の遺伝子発現変化やポピュレーション変化の解析を行う。
  • 平成17年度: 影響検出遺伝子の選択、簡易DNA アレイの作成、遺伝子組換え生物の作成、指標微生物の特定を行う。
  • 平成18年度: DNA アレイや遺伝子組換え生物、指標微生物の利用方法を検討し、環境影響評価法を確立する。
3. 環境研トキシコゲノミクスデータベースの立ち上げ
  • 平成16 年度: 遺伝子発現データベースに関する基本システムを構築する。
  • 平成17、18 年度: データの蓄積、運用と改良を行う。

4)研究予算額

  • 総額 75,000,000円

5)研究実施の背景

近年のアレルギー増加の例にみられるように、ヒトの健康は明らかに環境の影響を受けて変化している。その主たる原因は明らかにされていないが、環境中の有害化学物質や大気汚染物質の関与が強く示唆されている。そこで環境汚染物質からヒトの健康を守るために、汚染物質の毒性評価を早急に行い、対策を立てることが必要である。しかしながら、これまで多種類の環境汚染物質の影響を、生体の多種多様な機能に関して個々に評価するためには莫大な労力が必要であり、実際には影響評価が行われていない多くの化学物質や環境汚染物質が存在する。同じく多種類の汚染物質は大気や水、土壌を汚染し、生態系にも深刻な影響を及ぼすことが考えられる。本研究は、環境汚染物質のヒトや生物への総合的体系的な影響評価法の確立をめざすものであり、環境がヒトや生物に及ぼす影響評価研究に新たな展開をもたらすことが期待される。

6)評価結果の概要

国際的にも発展が期待される新しい分野であり、国研が取り組むにふさわしい重要な課題であるとの評価を受けた。また、目標を広げずに環境研の得意とするテーマを重点的に深く研究し、このような方法の有効性を10少数の例でもいいので早く示すこと、遺伝子-細胞-個体レベルの関連性や測定のタイミング等に留意すること、先行研究を凌駕する方法を検討すること、ヒトの遺伝子を扱う際に倫理性に留意することという点について、助言を受けた。

7)対処方針

計画を見直し、サブテーマ1では生体影響は免疫系への影響に絞り、またヒトの健康影響へのリスク評価を念頭におきながらも、まず実験動物で遺伝子変化と動物個体への影響(健康影響)との関係を明らかにするという点に重点を置くこととした。この目標について、早期にトキシコゲノミクスの有効性を示したい。遺伝子-細胞-個体レベルの影響の関連性や測定のタイミング等は、本研究を成功させるための重要なポイントであり、十分に検討したい。また先行研究を凌駕するためには、これまでの研究の蓄積を生かして研究を進めることが重要と考えている。現在のトキシコゲノミクスでは、毒性影響とは対応させずに遺伝子発現変化のデータを蓄積する方法が主に行われており、両者の関係は明らかにならない。これに対して、環境研ではダイオキシンの生体影響・メカニズム研究を集中的に行っており、これまでに明らかにした影響を遺伝子変化と対応させる研究を行う計画である。ヒトの遺伝子を扱う際には、研究所の医学研究倫理審査委員会と連絡を取り、適正な方法で進めていくよう留意する。