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特別研究平成14年度終了課題の事後評価(平成15年11月)
環境ホルモンの分解処理要素技術に関する研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

本研究では、環境ホルモンと推測されている物質群の中でも広範な環境汚染を引き起こしているダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ビスフェノールA(BPA)に着目して、これらの物質で汚染された水、底質、土壌を浄化するための物理的方法、化学的方法、生物的方法について、新しいシーズ発掘のための基礎的検討を行った。物理的方法としてはダイオキシン類を高濃度に含有する排水が環境中に排出された場合に活性炭吸着法で除去する技術の有効性を検証した。化学的方法としてはダイオキシン類を含有する水に超音波を照射してダイオキシン類を完全分解する技術の有用性の検証、高温の水蒸気態から亜臨界状態の水で土壌中のダイオキシン類を抽出して分解する技術の基礎的検討、底質中のPCB をイソプロパノールで抽出分離した後カリウムーナトリウム合金で脱塩素化する技術開発を行った。生物的方法としてはベラドンナによる土壌中のダイオキシン類・PCB を吸収濃縮する技術の開発ならびにタバコ(植物)による土壌中BPA の吸収・無害化する技術の開発を行った。

2)研究期間

平成11〜14年度(4年間)

3)研究成果

  1. ダイオキシン類で汚染された水に活性炭混和凝集剤を添加してダイオキシン類の除去効率を調べた結果、活性炭添加量と除去率の間に相関関係が成立した。汚染水1リットル当たり1mg以上の活性炭を添加すれば、ダイオキシン類のほぼ全量を除去できることがわかった。
  2. 200 キロヘルツの超音波をダイオキシンで汚染された水に照射したところ、照射時間とダイオキシンの分解量の間に直線関係が認められた。また、超音波の照射ではダイオキシン類の骨格が壊されることも明らかになった。
  3. 水蒸気態から亜臨界状態の熱水をダイオキシン類で汚染された土壌中に通してダイオキシン類を抽出する方法の実験条件(温度、圧力、時間)を詳細に検討した結果、最も重要な因子は温度で、温度を高くすると土壌中のダイオキシン類は速く減少していき、特にポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)で顕著であることがわかった。また、抽出過程でダイオキシン類の一部が分解することも明らかとなった。高圧は土壌中のダイオキシン類を抽出するための必須条件ではなかったが、圧力が高いほど土壌中のダイオキシン類の減少は大きかった。抽出時間については、最初の30分間でダイオキシン類の大半が抽出され、30分以降は抽出速度が遅くなった。八塩化ジベンゾ-p-ジオキシンを添加した土壌を使って抽出過程での分解機構を調べた結果、逐次的脱塩素化で低塩素数のダイオキシン類に変化していくことがわかった。
  4. PCB で汚染された底質をイソプロパノールでソックスレー抽出(抽出率99%以上)して得られたPCBにアルゴン気流中でカリウム−ナトリウム合金(室温で液状)を作用させると、室温でも迅速かつほぼ定量的に脱塩素化されることがわかった。
  5. ベラドンナ毛状根を使った実験では、3週間で約50%のカネクロール300が除去された。次にベラドンナ実生を汚染土壌で1年間栽培した結果、PCB の26 %とダイオキシン類の17 %が除去された。
  6. タバコ(植物)の培養細胞および実生を使って土壌中のBPAの浄化実験を行った結果、BPAは植物に吸収され、少なくとも4つの代謝産物に変化することがわかった。代謝産物はBPAにグルコースなどが結合した配糖体であった。これらの配糖体のエストロゲン活性はBPAより著しく低かった。またBPA配糖体に代謝する酵素はタバコだけではなく、多くの植物体に存在することを明らかにした。この酵素活性をスクリーニングすることにより、土壌中のBPA を浄化できる植物を探すことが可能となった。

5)研究予算額

  • 総額 23,000,000円

4)研究実施の背景

環境ホルモンによるヒトおよび野生生物の生殖系に異常が発生することが危惧されており、これらの環境ホルモンで汚染された環境媒体(水、底質、土壌)を浄化する技術の開発が求められている。ダイオキシンおよびPCBに関する対策は環境行政の最重要課題のひとつであり、すでにいくつかの除去対策が実用化されてい7るが、さらに新しい除去技術の開発が求められている。一方、BPAによる汚染は広範囲に広がっており、場合によってはppm レベルにまで達している現状において、低コストの浄化技術が求められている。

6)評価結果の概要

シーズ発掘としての環境ホルモンの分解処理要素技術の基礎的研究においていくつかの興味ある結果を得ていると評価された。特に熱水による抽出分解と植物による汚染除去に関しては分解機構を詳細に解明し、今後の方向性を示し得たことなどが評価された。一方で、いくつかの研究テーマを平行して進めたために深く掘り下げた研究が少ないことや実用化への具体的な展開が不十分であるとも評価された。また、個別技術の開発はあり得ても、環境ホルモンの一般的な処理法という考え方が理解しにくいとの指摘もあった。

7)対処方針

本研究で得られた成果の中で、効率やコストの点から有望な技術に的をしぼり、実用化に向けた研究を民間との協力のもとで進めていきたい。物理的方法や化学的方法については、既存技術との比較検討が必要であり、また反応条件などの詳細な詰めも必要である。生物的方法は新しい技術であり、さらなる研究を重ねた上で、実用化を目指していきたい。評価で出された多くの意見は重点特別研究プロジェクト「環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクト」の中で生かしていきたい。