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特別研究平成14年度終了課題の事後評価(平成15年11月)
大気汚染・温暖化関連物質監視のためのフーリエ変換赤外分光計測技術の開発に関する研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

本研究では、国立環境研究所地球温暖化研究棟3階に設けられた大気微量成分スペクトル観測室内及び屋上に設置された「衛星センサー分光パラメータ評価実験システム」を使用し、太陽及び人工光源を用いて、光源と上記システムを構成する高分解能フーリエ変換赤外分光計(Fourier Transform InfraRed spectrometer;FTIR)装置の間に存在する温室効果ガスあるいは大気汚染物質の吸収スペクトルを観測した。太陽光源の場合には、太陽を自動追尾して太陽光をFTIR装置に導入して大気微量成分の高分解能吸収スペクトルを測定し、吸収スペクトルの幅を利用してその高度分布を測定した。

また、人工光源の場合には、別の建物の屋上あるいはベランダに置いた送信望遠鏡により、光源からの光を平行光線にして太陽追尾装置に送ってFTIR装置に導入し、光源とFTIR装置の間の大気微量成分の吸収スペクトルからその平均濃度を測定した。

2)研究期間

平成12〜14年度(3年間)

3)研究成果

太陽を光源として地上から赤外吸収スペクトルを測定した場合、吸収スペクトルの形は圧力で変わるため、高高度の吸収スペクトルの幅は狭く、低高度のスペクトルの幅は広い。この効果を用いると大気微量成分濃度(体積混合比)の鉛直分布を測定することができる。本研究では、CO2、CH4、O3、CO 及びN2O の鉛直分布を観測した。まず、CO2 については、波数分解能0.03cm-1 で波長1.581m(波数6330cm-1)付近の短波長赤外域の吸収スペクトルを測定し、大気微量成分の鉛直分布を計算した。この場合、高度1〜2kmの高度で精度が良く、1%より良い精度で観測できる見通しが得られた。地上から大気上端までの平均濃度についても1%より良い精度で測定できることが明らかになった。CH4、O3、CO 及びN2O については、波数分解能0.0035cm-1 という高分解能で太陽を光源として吸収スペクトルを測定した。いずれについても鉛直分布の測定が可能であることを示した。O3 については、FTIR による観測結果とオゾンレーザーレーダー(オゾンライダー)の観測結果を比較したところ、高度20-30km において7 %以内で一致していた。地上に光源を置いた場合には、CO2 、CO、CH4、N2O の光路上の平均濃度が1 − 4 %の精度で測定が行われていることが分かった。測定誤差としては、信号雑音による誤差の他に、気温の誤差の影響、水蒸気の影響が重要であるのでこれらの誤差について順次解析した。その結果、信号雑音による誤差は、信号強度と雑音の比(SN比)が100 以上では無視できること、気温の影響はCO、CH4、については実質的に問題がないが、2240cm1(4.51m)付近の中赤外域を用いる場合はCO2 については無視できないことが明らかになった。また、妥当な波長域を選びかつ水蒸気の濃度を求めてその影響を補正するならば、他の成分への影響を十分抑えられることが分かった。

4)研究予算額

  • 総額:59,000,000円

5)研究実施の背景、

近年、対流圏大気微量成分の衛星観測またはその計画が急速に立ち上がってきた。これまで、一酸化炭素、メタン、対流圏オゾンが主な観測対象であったが、最近、米国において二酸化炭素のカラム濃度を衛星から観測する提案がなされている。二酸化炭素の排出量・吸収量の分布推定がその目的である。日本においても、二酸化炭素等を観測する衛星センサーの搭載が検討されている。衛星観測については検証が不可欠であるため、衛星観測と同一の物理量を地上からあるいは航空機や気球からより高い精度で測定することが求められる。太陽を光源とする地上からのFTIR 観測は、低いコストで、多くの地点で時間を追って検証を行う手法として優れている。そこで、本研究では、この手法により、大気微量成分の高度分布あるいはカラム濃度の測定を行うことに重点を置いて研究を行った。

6)評価結果の概要

地上から大気成分の鉛直分布を測定しようとする意欲的な研究において有用な成果が得られたことが評価された。更に、衛星観測の検証や衛星センサーのアルゴリズム開発への利用を行うことについての期待が示された。同時に、より精度を高めること、他の手法による観測との比較を行うこと、長期間継続した観測を行うこと、国際的な協調体制を構築する上でのイニシアティブが必要であることが指摘された。

7)対処方針

今後、航空機による直接測定との比較、解析アルゴリズムや誤差評価の高度化を行いつつ、長期的に観測を継続できる体制を作って行きたい。また、二酸化炭素やメタンを中心に、衛星観測の検証、国際的ネットワークの強化に向けた努力を行いたい。同時に、赤外吸収スペクトルの線強度や線幅等の分光パラメータの精度を向上させるための分光実験室の整備等を行う計画である。