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政策対応型調査研究の中間評価(平成15年4月)
循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

生産から流通、消費、廃棄の過程に至るまで物質の効率的な利用やリサイクルを進めるための戦略的な物質循環政策、循環型社会の基盤を支える資源化・処理処分技術システム、検知・監視システムに関する研究・開発を推進する。具体的なテーマとしては、以下の4課題に取り組む。

サブテーマ1:
循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

物質のフローを経済統計と整合的に記述・分析し、循環の度合いを表現する手法、資源の循環利用促進による環境負荷の低減効果を総合的に評価する手法、地域特性にあった循環システムの構築を支援する手法、及び循環資源利用製品の安全性を評価する手法を開発し、これらを諸施策の立案・実施・達成状況評価の場に提供することにより、さまざまな主体による効果的な「循環」の実践の促進に貢献することを目指す。

サブテーマ2:
廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究

循環型社会の基盤となる技術・システムの確立に資することを目的として、熱的処理システムの循環型社会への適合性評価手法の開発、有機性廃棄物の資源化技術の開発及びシステム評価、最終処分場の容量増加技術・システムの開発、最終処分場の安定度や環境影響を適切に評価し、それらを促進又は改善する手法の開発を行う。

サブテーマ3:
資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究

循環資源や廃棄物に含有される有害化学物質によるリスクを総合的に管理する手法として、不揮発性物質を系統的に把握する検出手法、およびバイオアッセイ手法を用いた包括的検出手法を開発する。これらの手法も利用して、臭素化ダイオキシン類に関連する有機臭素系難燃剤の挙動と制御手法、有機塩素系化合物を含有する廃棄物の分解手法に関する研究を推進する。

サブテーマ4:
液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

し尿や生活雑排水等の液状廃棄物に対して、地域におけるエネルギー消費の低減及び物質循環の効率化を図るため、窒素、リン除去・回収型高度処理浄化槽システムの開発、浄化システム管理技術の簡易容易化手法の開発、開発途上国の国情に適した浄化システム技術の開発、バイオ・エコエンジニアリングと物理化学処理を組み合わせた技術システムと地域特性に応じた環境改善システムの最適整備手法の開発を行う。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)今までの研究成果の概要

サブテーマ1:
循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

産業連関表の部門別に廃棄物発生・処理・処分・再利用量の推計を行うとともに、最終需要と廃棄物発生との関係に関する実証分析を行った。一方、こうしたマテリアルフローの体系的把握に基づく「循環の指標」を提案した。また、資源循環促進策の評価のため、廃棄物・リサイクル分野のLCA手法の再検討、容器包装プラスチックのリサイクル技術に関する技術動向、プロセスツリー、インベントリデータに関する情報収集を行うとともに、耐久消費財に関する買い替え・廃棄に関する意識・行動調査を行った。これら全国スケールの研究に加え、資源循環の国際的側面に関する研究に着手する一方、事例調査対象地域(埼玉県)について、産業・経済構造、循環資源の需給・中間処理施設等に関する地理情報の収集、資源の移動と需給の適合に係わる要因の整理、評価を行い、資源循環システムの地域適合性を診断する手法の開発を進めた。リサイクル製品の安全性評価について、スラグ再生製品等からの有害金属類の溶出挙動を特性化し、用途に応じた環境安全管理方法を設計し提案した。また、木材系廃棄物を原料としたボード利用などを検討し、室内空気汚染物質の吸着性能と炭化条件との関係などを把握した。

サブテーマ2:
廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究

飛灰加熱過程からのダイオキシン類生成特性とその排出低減モニタリング手法を提示し、高度分離(吸着)技術の性能評価因子を示すと共に、重金属の固液平衡に関する活量係数式の提案を行った。また、生ごみを基質に用いた乳酸発酵における最適条件の検討や物質収支の試算を行うとともに、熱処理MAPとMHPのアンモニア吸収特性等を把握し、実用化に向けての検討を進めた。一方、最終処分場の容量増加技術に関する技術レビューを行うとともに、海面最終処分場における水分の挙動や環境負荷の評価を行った。また、最終処分場の安定化評価法ツールとして覆土表面からのメタンフラックスの迅速測定評価法を開発し、その他のツールとの総合評価法の構築を進めるとともに、安定化促進技術開発のためにフルスケールのテストセルを建設し、実験を開始した。さらに、廃石膏ボードの硫化水素発生のメカニズムと制御方法を明らかにするため、大型ライシメータを用いた実証実験に着手した。

サブテーマ3:
資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究

検出手法研究として、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)のイオン化法を工夫することにより、従来測定が困難であったニトロナフタレンなどの物質の検出感度を上昇させることができた。また、バイオアッセイ法としてAhレセプター結合アッセイであるCALUX法を、都市ごみ焼却飛灰に適用する研究を推進した結果、毒性等量(TEQ)として、pg/gレベルの高感度検出が可能となった。脱塩素化飛灰について、化学分析TEQが低い場合にはバイオTEQも低いことが確認でき、脱塩素化過程で新たなダイオキシン様物質の生成はまずはないとみていいことが確認された。有機臭素化合物については、埋立処分場浸出水から、ポリ臭素化ジフェニルエーテルが検出された。同物質はテレビケーシング材の細破砕物からの溶出が確認され、実験的に求めた水溶解度からも説明される一方、凝集沈殿や生物処理による浸出水処理で除去が可能であることも確認された。廃PCBの分解技術として、パラジウム・カーボン触媒及び光照射分解のメカニズムを実験的に検討した結果、触媒法ではオルト位が脱離しにくく、光分解ではオルト位が脱離しやすい等、両分解法による反応機構の違いについて説明できた。

サブテーマ4:
液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

生活排水対策としての浄化槽に吸着脱リンシステムを導入した実証研究により、リン吸着担体のリン除去における持続性と、リンの脱着及びリンの吸着担体再生特性に関する基盤データを取得することができた。また、浄化槽の高度化に必要とされる有用硝化細菌の認識可能なモノクローナル抗体の生成とその抗体を用いたELISA法による短時間での硝化細菌の簡易かつ迅速な定量方法を開発できた。同時に、生態工学手法としてタイ王国における一般的な食用野菜のクウシンサイとクレソンを用いた浄化法は、COD、SS、T−P除去率が高く、かつ、収穫した植物中の重金属は国内の野菜と同程度であり、食物植物を活用した浄化が可能であることを明らかにした。更に、生物学的・生態学的処理と物理化学処理を組み合わせたシステム開発を行う上では糸状性、非糸状性のアオコ増殖抑制が年間を通して必要であることを踏まえた窒素、リン除去方式導入による負荷削減対策が必要不可欠であることを明らかにすることができた。

4)今後の課題、展望

サブテーマ1:
循環型社会への転換策の支援のための評価手法開発と基盤システム整備に関する研究

循環資源の発生・処理・処分・再利用に関するマテリアルフローの体系的把握をさらに進め、これと経済活動の動脈部分についての物量産業連関表との結合に着手するとともに、マテリアルフローの把握に基づく「循環の指標」について、適用対象の拡大、質的側面の評価を視野に入れた改良を進める。また、プラスチックなど代表的な物質のリサイクル技術にLCAを適用するとともに、LCAにおける「配分問題」の扱いや、廃棄物処理・処分に伴う環境影響評価手法の枠組みを構築する。また、資源循環の促進策に係る多様な政策手段の効果の評価手法について検討を進める。地域に適合した資源循環システムの高度化を図るため、事例研究対象地域における資源循環に関連する地理情報の整備を進め、この情報基盤を用いた循環資源の輸送モデルや品質的な需給マッチングモデルの開発、物流拠点の計画法の検討に着手する。リサイクル製品の用途を踏まえた安全性試験法に関して、長期的安全性の視点から促進劣化試験について検討するとともに、国際的調和を念頭におきつつ、リサイクル製品中の有害物質試験方法のJIS化に向けての基礎情報を提供する。

サブテーマ2:
廃棄物の循環資源化技術、適正処理・処分技術及びシステムに関する研究

飛灰等からのダイオキシン類等生成能解析、熱処理プロセスからの排出物質のデータベース化、高疎水性物質の物性データの整備、微量物質の高度分離技術のシステム化、超臨界流体技術を資源回収等へ応用するための基礎的検討を行い、これらを物質挙動解析や資源回収技術の開発に応用する。また、有機性廃棄物の資源化技術として、乳酸、メタン、水素などの炭素・水素回収技術、アンモニア回収技術を開発するとともに、これらの資源化システムを地域における廃棄物の排出構造やリサイクル製品の需要構造にを踏まえて最適化する手法を提案する。一方、既存処分場の再生等の埋立地容量の増加が可能な新しいシステムを提案するとともに、海面最終処分場の適正立地のための環境負荷とその低減技術に関して評価を行う。また、硫化水素発生対策手法をはじめ新たな処分基準の提案、既存最終処分場の安定化促進技術の開発として最適配管設計法や最適通水・通気量および分解量評価法の開発、廃棄物最終処分場の安定化度を地温、内部貯留水、埋立地ガス、浸出水等より非破壊で診断する指標と現場での緊急点検や長期監視に対応した計測法を開発する。

サブテーマ3:
資源循環・廃棄物管理システムに対応した総合リスク制御手法の開発に関する研究

液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)においては、新しいイオン化法の循環資源等への応用を試みると共に、未知物質の検索・同定システムの構築をめざし、バイオアッセイ研究については、廃PCBモニタリングへの適用を成功させることに、当面は全力を注ぐ。Ahレセプター結合アッセイは、他の廃棄物や汚染土壌、底質などの媒体別に、段階的な分画を行って幅広いデータ蓄積を図り、未知活性物質検索を継続するともに、前処理を含めた簡易モニタリング手法として、洗練させていく。

有機臭素化合物については、これまで十分に研究されてこなかった水系環境侵入の可能性が、中期計画前半の研究成果として見えつつあり、この方向でのフィールド研究、物理化学物性研究に力を注ぐ予定である。同時に、熱操作過程やリサイクル過程の挙動と制御に係る研究も展開していく。また、パラジウム・カーボン触媒分解及び光分解の研究では、PCB異性体混合時の反応性の違いなど、未解決の問題点を解決するとともに、PCNなど他の物質の分解に応用する。新たに金属ナトリウムによる分解機構を解明する。

サブテーマ4:
液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

窒素、リン除去機能を有す浄化槽の技術開発として吸着脱リン回収型システムを導入して、処理機能及びリン吸着担体の破過特性の評価を行い、イニシャルコスト、ランニングコストのミニマム化を踏まえた検討を行う。また、高度浄化槽の維持管理の高度簡易化手法として新たな分子生物学的検出手法を導入した浄化システム管理技術の検討を行う。同時に、水耕栽培浄化システムやラグーンを用いた浄化システムは省コスト、省エネであり、また食料生産などの経済的な付加価値も期待できることから、植栽密度や収穫頻度、魚類などの高次捕食者の窒素、リンなどの物質フローへの影響、汚泥減量化などの諸管理条件適正化に対する検討と食料生産を考慮した場合の安全性評価などの検討を行う。

更に、有毒アオコのミクロキスティスの発生抑制のために、生物学的処理と物理化学的処理の適正な組み合わせによる、ミクロキスティスの増殖に必要な鉄やマンガンとキレート形成をする溶存有機物の負荷削減・安定性向上の検討、藻類増殖能試験等とともに安全性試験を実施し、各処理システムの面的整備における負荷削減効果とともに安全性の解析・評価を行う。

5)研究予算額

  • 平成13年度:約759,000,000円
  • 平成14年度:約822,000,000円

6)評価結果の概要

循環型社会の将来像を描く研究、循環型社会を形成するために必要な社会経済システムのあり方に関する研究等にも取り組むべきとの指摘を受ける一方、これらの研究を今回の中期計画の中で展開することは困難ではないかとの意見をいただいた。また、4つのサブテーマの下に非常に多くの研究テーマが位置付けられており、テーマ選定に当たっての考え方や相互の関連性等が明確でないため、循環型社会形成という基本的課題に大きく答える視点からの再構成が必要であるとの指摘を受けた。さらに、循環の指標の研究に当たって、「大量循環」の落とし穴に導かれることのないよう注意するとともに、エネルギー的側面を含めた考え方への発展を検討してほしいとの指摘を受けた。

7)対処方針

廃棄物処理に係る工学・技術畑の研究者が大多数を占める現在の態勢の下で、循環型社会の理念やそこへ至るロードマップを描く研究を展開することには難しい部分があるが、循環型社会形成推進を標榜する研究センターとして、こうしたビジョン研究を避けて通ることができないことも自明であると考えている。このため、持続可能な社会や統合的な製品政策などに係る研究の現状をレビューしつつ、当センターの研究成果を議論する場を定期的に設けることにより、「持続可能な循環型社会」ビジョンについての研究を推進する。

また、各研究テーマの位置付けや関連性を再整理し、プロジェクトとしての基本的課題を踏まえた研究成果が発信できるよう努力する。具体的には、現在のサブテーマ1「循環型社会の評価手法と基盤整備の研究」を全体のストーリー性を統合していくためのプラットフォームとした上で、サブテーマ2「廃棄物の資源化・処理・処分技術の研究」及びサブテーマ4「液状廃棄物の環境低負荷・循環型技術研究」を、マスとしての大量廃棄物制御に際し低環境負荷・資源化の条件を徹底した技術開発研究として、循環型技術システムへの転換も視野に入れつつ展開していくこととしたい。

さらに、指標開発に当たって「大量循環」の落とし穴に導かないようにとの御指摘については、入口側でのリサイクル率を重視するとともに、資源の投入総量(DMI)に目を向けることで特に注意してきた点であり、13年3月に閣議決定された循環型社会基本計画に盛り込まれた3つの数値目標において、本研究担当者の貢献により、こうした入口側の指標が2つ採用されたことは大きな進歩と自負している。一方、エネルギー的側面の考慮については、マクロなマテリアルフローの指標のみでは捉えきれない問題も多いため、個別のリサイクル技術へのLCAへの適用など、よりミクロな評価手法を適用・併用すべきと考えており、現在の研究計画を着実に実行する中で、ご指摘に応える成果を示したい。