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重点特別研究プロジェクトの中間評価(平成15年4月)
大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価プロジェクト

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

国際的に関心が高まっているDEP等を含むPM2.5を中心とした大気中粒子状物質の発生源特性や環境動態を明らかにし、発生源と環境濃度との関連性を把握する。これとともに大気中粒子状物質の一般住民への曝露量を推計し、さらに全国民の曝露量ランク別人口数の推計を行い、リスク評価に資するデータを蓄積する。また、影響評価に資するため、動物実験を中心とした毒性評価研究を行い知見の集積を図る。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)今までの研究成果の概要

ディーゼル自動車をはじめとする都市大気汚染の発生源の実態解明、測定方法、特に微小粒子の物理・化学的性状の測定方法の開発、排出後のガス・粒子の環境大気中での挙動の解明、動物曝露実験による毒性評価研究を実施した。特にDEPに着目して、フィールド調査を重視した測定方法の高度化を進めるとともに、発生から人への曝露までを総合した評価モデルの構築に関する研究を実施した。

1. 発生源および環境動態把握に関する研究に関しては、
  • シャシーダイナモ実験、車載計測技術などを組み合わせて、実走行状態での発生源特性が試験モードとはかなり異なることを明らかにした。
  • 都市SPM・沿道大気汚染の動態把握調査と解析を実施し、超微小粒子などディーゼル排気由来の成分に焦点をあてて、沿道と非沿道との特徴を明らかにした。
  • 複雑な道路構造地域における風洞実験解析を実施した。
  • 大気汚染のトレンド解析、広域・都市数値モデル解析を行った。
  • 車種別排出量・地域分布推計手法を構築してDEPに適用するとともに、対策シナリオごとの効果予測を行うシステムを設計し、その重要な要素となる動的交通流モデルの開発を進めた。
2. 測定法の確立とモニタリングに関する研究に関しては、
  • 有機炭素成分と元素状炭素成分の測定方法・データ解析方法の検討を行い、データ補正のめのアルゴリズムを構築した。
  • PM2.5の自動計測機器精度の検討を行い測定方法や機種による違いを把握した。
3. 疫学・曝露評価に関する研究に関しては、
  • 地理情報システムを基に、人の行動を加味した曝露評価モデルを試作し、大都市圏では通勤・通学等による移動先での曝露が無視できないことを示した。
  • 呼吸器・循環器系に対する影響を病態モデル動物を用いて検討し、ディーゼル排気曝露により異常心電図の頻度が増加すること、肺高血圧傾向になり右心室壁が厚くなること、ディーゼル粒子に細菌毒素による肺炎を悪化させる作用のあることやその機構を見いだした。
  • 毒性スクリーニング手法の開発および毒性物質の解析に関する研究を実施し、DEPが細胞に及ぼす酸化的ストレスに鋭敏に応答する遺伝子を見いだし、DEP中の血管弛緩作用のある物質の同定に成功した。また、血管の透過性を亢進させる作用のあることも見いだした。

4)今後の課題、展望

平成15年度以降は、シャシーダイナモ実験、車載計測技術、トンネル・沿道調査などを組み合わせ、自動車等の発生源把握、ならびに固定発生源からの発生源把握に関する研究を継続し、精度を高めたい。超微小粒子の組成が大きな関心事であり、ディーゼル自動車の排気由来の20〜30ナノメートルにピークを持つ超微小粒子の同定が必要である。特に粒径ごとの個数濃度や組成に関する計測法を検討したい。

交通流モデルと曝露評価モデルを統合して、人への曝露に基づく対策シナリオの効果予測が可能となる統合システムの開発を行いたい。

疫学研究では、大気汚染の急性影響評価が課題となっている。我が国では時間単位の常時監視モニタリングデータが得られるため、より詳細な解析が可能である。

毒性評価研究においては、ディーゼル排気が循環機能に及ぼす影響について、生活習慣病、心筋炎などの病態モデル動物を使い実験すること、アレルギー関連疾患の増悪機構の解析を行うこと、粒子状物質の毒性スクリーニングを行うこと、DEP成分の毒性物質の解析を行うこと等が課題である。また、環境中ナノ粒子が健康に及ぼす影響評価研究のための基礎的な検討を行う予定である。研究推進に当たっては環境省、産業界、地方自治体、大学、外部関連研究プロジェクト等と連携、協力して今後の研究を実施していきたい。

5)研究予算額

  • 平成13年度:約124,000,000円
  • 平成14年度:約188,000,000円

6)評価結果の概要

1. 研究の進め方に関しては、
  1. 動態解明と影響評価の関連性について緻密な連係を保つべき、発生源や動態解明で調査しているような成分・組成の研究とどのように関係づけるのかを明確にすべき。また、環境中の現存状態からスタートした研究の進め方とディーゼル排気ガスを原因とした影響のメカニズムと評価に関する研究の進め方と重ねあわせる、あるいは区別することが必要である。動態解明より影響評価に力点を置いてもらいたい。問題を絞り込むべき。
  2. ナノ粒子への関心の傾斜がみられるが、これがSPM一般への関心や規制から、ディーゼル排ガスを対象とした発生源規制へと進んだあとの第三段階と考えるのか、それともナノ粒子そのものが、PM2.5やDEPの影響の中核的存在であると仮説をたてるかで、進め方がやや変わってくるのではないか。

等の指摘を受けた。

2. 広域的な影響と地域的な影響の関連性ならびに調査・研究手法に関しては、
  1. 大域的、地域的な影響全体の中でディーゼル排気のPM2.5をどのように位置づけているのかがよく理解できない。固定発生源についても影響評価を試みる必要がないか。
  2. 風洞実験まで行ってあらためて沿道の大気汚染濃度分布に関する研究をしている意図が読みきれなかった。
  3. 微小粒子の化学反応、凝集等が重要になってくると考えられるので、湿度、紫外線強度などを設定できる実験室的研究を組み合わせて挙動解析をするべきではないだろうか。
  4. 自動車排ガスに比べて飛行機によるものはどのくらいの割合を占めるのか。また、その影響はどうか。

等の指摘を受けた。

3. 影響評価研究に関しては、
  1. 健康影響評価において影響があると判定されているが、肺胞マクロファージにおける抗酸化酵素の誘導以外は量一効果関係が確認できていないのが気にかかる。
  2. 動物実験は今後の詳細は疫学調査での指標を探る上で役立つものであるべきであろうが、ここで行われた実験からどのような示唆が得られるのか判然としない。
  3. 室内でのSPM曝露は健康影響評価において無視してよいのか。戸外濃度と室内濃度の関係についての測定を行うべきではないか。
  4. 健康影響について、自動車排ガスだけでよいのか。複合影響はどう考えるか?疫学調査とどのように関連づけていくのか。
  5. 動物の循環系器官への影響評価にほぼ限定されているが、植生など生態系評価への試みがあっても良いのではないか。

等の指摘を受けた。

7)対処方針

1. 研究の進め方に関しては、
  1. 成分・組成に関する知見と健康影響に関する知見を結びつけることは、今後の削減技術の方向性を定める上でも重要と考えており、毒性のスクリーニング手法の開発や疫学調査結果の解釈などに関しての研究を深めたい。また、DEPおよびPM2.5の動態解明と影響評価が混在した形で研究が進められて来た面があるが、研究計画を整理して、それぞれの位置づけを明確にして研究を進めたい。
  2. 本プロジェクトでの目標はDEPとPM2.5にあると考えており、ナノ粒子の問題は将来的な課題と位置づけている。現時点では、ナノ粒子がSPMないしPM2.5の健康影響の中核をなすものかどうか明確ではないが、潜在的な問題の大きさを考慮してこれまでの道路沿道等での観測や計測法の検討等は継続したい。ナノ粒子の健康影響については平成15年度から環境省で予算化し、本プロジェクトのサブプロジェクトとして別途取り組む予定である。
2. 広域的な影響と地域的な影響の関連性ならびに調査・研究手法に関しては、
  1. 日本国内にこだわらず、PM2.5の位置づけを東アジアの範囲で明確にしていきたい。固定発生源を含めた包括的な発生源インベントリづくりを計画中である。
  2. 各種対策効果を検討することを目的に風洞実験を実施したい。実験結果を用いて数値計算モデルの検証も行う。
  3. 自動車排ガスの排出直後の挙動については、拡散チャンバーによる研究を継続する。光化学エアロゾルチャンバーによる研究も今後の重要な課題と認識している。
  4. 飛行機の排ガス中のPMやVOCを本研究で扱うことは困難であるが、文献調査、行政における検討への参加、フィールド観測データの解析等により知見を深めたい。
3. 影響評価研究に関しては、
  1. 細菌毒素に続いて、気管支喘息やアレルギーに関する研究、血管作用についての検討を現在進めており、早急に検討結果をとりまとめたい。
  2. 疫学研究で示されている循環器や呼吸器系への影響に対応する知見として、DEPが異常心電図の頻度上昇や細菌毒素による肺炎の増悪作用を持つ可能性が動物実験により示唆された。動物実験の成果は、疫学調査の結果に実験的な根拠を与え、増悪機構を明らかにするという側面と今後の疫学調査の指標を探るという二つの点から疫学研究に寄与すると考えており、今後さらに検討を加えていきたい。
  3. 室内曝露については、環境省が実施しているPM2.5の疫学研究において、対象世帯の一部で屋内外の測定を行っており、これらの知見を一般人口集団の曝露量マクロ推計モデルの中に取り入れていきたい。
  4. PM2.5自身が種々の物質の混合体であり、複合曝露についても考えていきたい。また、直接的に疫学調査は実施しないが、環境省の調査研究にメンバーが多数参画しており、連携して研究を進めたい。本プロジェクトでは二次資料に基づく疫学的解析を引き続き行う予定である。
  5. 植物影響は、数値モデル研究を進める中で、検討項目の一つとして取り組んでいきたい。