ホーム > 研究紹介 > 研究計画・研究評価 > 外部研究評価 > 平成15年4月外部評価実施報告 > 内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクト

ここからページ本文です

重点特別研究プロジェクトの中間評価(平成15年4月)
内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理プロジェクト

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

内分泌かく乱化学物質およびダイオキシン類の総合対策をより高度に実施するため、

  1. 高感度・高精度分析、迅速・簡易分析の新規の実用試験法の提案を行う。
  2. 内分泌かく乱作用についての生物検定法を確立する。
  3. 環境中での分布、生物濃縮、分解性をグローバルスケールを視野にいれつつ明らかとする。さらに、ヒトや生物への影響について、
  4. 実験動物を用いて、発生・生殖、脳行動、免疫系への影響を調べる。
  5. いくつかの野生生物種について、霞ヶ浦、東京湾等をフィールドとして生物影響の状況を明らかとする。
  6. 未知の関連物質の探索を行うとともに、臭素化ダイオキシン等についても調べ、データベース化を進める。
  7. 統合情報システムのもとに、情報管理・予測システムの確立を目指す。
  8. 処理技術として生物浄化技術等の開発により、効果的な対策に資する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)今までの研究成果の概要

  1. 分析・評価技術については、女性ホルモン作用を有する物質の高感度分析法を開発し、霞ヶ浦や東京湾流入河川など水域のエストロゲン活性および化合物の測定を行ない、環境中の動態を明らかとした。酵母ツーハイブリッド法をはじめとする各種のバイオアッセイ系のラインアップをそろえ、女性ホルモン作用、男性ホルモン作用、甲状腺ホルモン作用の評価システムを構築した。これらを用いて実際の環境水や化学品等の評価に着手した。
  2. 野生生物については、巻貝についての調査を行うとともに、新たにアワビ類の内分泌かく乱に関する全国規模の実態調査を実施し、神経節を含む頭部への有機スズの高濃縮と雌の卵巣内での精子形成を観察した。また霞ヶ浦のヒメタニシと東京湾のコノシロ等の雌化の現状についての知見を得た。
  3. ヒト用超高磁場MRIにより機能MRIの測定を可能とした。動物を用いる脳代謝試験法、甲状腺ホルモン阻害剤や環境ホルモンを投与した実験動物の行動試験、神経細胞死及び再生に関する研究を実施し、脳神経系への影響評価法を準備した。
  4. ダイオキシン曝露の生体影響指標(例えばCIP1A1)について、ヒト血液サンプルでの測定法を確立し、またダイオキシンによって鋭敏に動く遺伝子の探索をDNAマイクロアレイを用いて開始した。また10ml血液の超微量の測定法を確立した。臭素化ダイオキシンについて、分析法を確立し、底質コアの分析を行うと共に人体脂肪組織中或いは野鳥に存在することを初めて明らかとした。
  5. 内分泌撹乱化学物質のリスク評価と管理のための統合情報システムをGIS上に構築し、内分泌かく乱化学物質の高詳細環境動態解析を可能にした。また内分泌かく乱物質の作用データベースを作成した。
  6. 熱水による土壌中ダイオキシン類の抽出・分解についてその有効性を確認した。一方、植物はビスフェノールAをよく吸収し、不活性化させることを見いだした。

4)今後の課題、展望

内分泌撹乱作用に基づくとされる現象と原因物質との因果関係が明確になっている事例は少なく、科学的に解明されなければならない点が数多く残されている。このため、環境ホルモンの実態を解明するには、何万もある化学物質のスクリーニングという発生源側からの有害性の評価とともに、影響を受ける人や野生生物側でどのような活性が認められるのかを明らかとすること、その原因物質と思われる物質の同定・定量技術の開発を進めていく。

環境ホルモンの作用として生殖への影響が危惧されており、それについての現象解明を進めるとともに、ヒトについては脳・神経系への影響、発達への影響についての研究を強化し、また免疫影響等についても注目していく。中でもダイオキシン類については超微量分析法、簡易迅速分析法を開発してその対策に資するとともに、今後の国際的なリスク再評価に貢献するものとしたい。

また、発生抑制からグローバルな監視技術の開発と適用を通じて、国際条約であるPOPs対策に資するものとする。

土壌汚染対策に対応するような処理技術の開発も要素技術として開発を進めていく。

また、化学物質リスク全体の管理を見据えた統合情報システムの完成をめざす。併せて、環境ホルモン関連情報を広く国内外に発信していくデータベースを整備していく。

5)研究予算額

  • 平成13年度:約288,000,000円
  • 平成14年度:約291,000,000円

6)評価結果の概要

環境中にごく微量で存在する内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理について、総合的に研究を行う研究フレームは適切に設定されている。研究成果も数多く論文等で公表されており、社会への還元や科学の進展にも寄与しているとの評価を受けた一方、研究期間の中間であるためか、各テーマの進捗が一様でなく、成果に格差が感じられるので、研究目標が達成できるよう、努力されたいとの指摘があった。また、個別に以下の点が指摘された。

  1. 成体にとどまらず生活史で耐久性の無い世代からの曝露影響評価も試みるべき。多量生産される工業化学品の不純物、有機リン系の農薬等についても評価を行うべき。脳機能に関わるMRI測定技術は広く共同利用を目指すべきではないか。
  2. 環境動態の研究も進んできている。ダイオキシン類について、臭素化ダイオキシンを含めデータの蓄積を期待したい。
  3. 生物影響についていくつかの事象がみいだされ、そのメカニズムについて興味深い仮説をだしている。その妥当性の検証はこれからの課題として重点を置くべき。
  4. 統合情報システムはそれなりの研究成果が得られているが、実用化への進展を期待する。環境汚染の防止(対策技術、分解処理技術)についてはまだ初歩段階のようである、目標を明確にたてて実施すべきである。
  5. 化学物質の環境存在をリスクとして表現できる指標の提案を期待したい。

7)対処方針

指摘された点について、以下のような観点から今後の研究計画に反映させ、研究目標が達成できるよう努力していきたい。

  1. 計測法、評価法について新たな手法、例えばリアルタイムモニタリングやDNAマイクロアレーの応用を強化するとともに、これらの手法の体系化に向けて努力していく。また、卵およびアーリーステージでの曝露影響評価を拡充していく。地球規模の汚染については、POPsグローバルモニタリングとの連携をはかりつつ実施していく。
  2. 脳への影響研究の拡大を目指していく。MRIについては共同利用を視野にいれたい。
  3. 化学品の評価について、プライオリティの高いものから順次検定を進めるとともに、大量化学品の不純物、有機リン系農薬等にも拡大していく。
  4. 現象の解明をフィールド観察及び動物実験を通じて拡大していく。メカニズム解明で大きな進展を期待している。
  5. 統合情報システムについては、実際の汚染データ等の入力を通じて実用的な応用や有用性を示していきたい。
  6. 対策処理技術については、先進的な要素技術に絞り込んで開発を進めたい。
  7. 総体としてのリスク低減にむけて、総合的なリスク指標について提案を用意したい。また研究全体を通じて、国民の安全・安心にむけての考え方を整理していきたい。