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知的研究基盤の中間評価(平成15年4月)
地球環境研究センター

  • 更新日:2003年6月30日

1)事業の概要

地球環境研究センターは、知的研究基盤の整備の一環として、地球環境に関する最新の研究動向や社会情勢を踏まえて、国際的な連携の下で先端的な地球環境モニタリング事業を実施し、その観測データや地球環境研究の成果を地球環境に係わる基盤データとして整備、広く提供・発信している。また、多様なモニタリングプラットフォームやスーパーコンピュータにより地球環境研究を支援している。アジアでの森林吸収観測のネットワークである『アジアフラックス』の事務局や、IGBP、WCRP、IHDPの炭素循環にかかわる国際共同プロジェクトである『地球炭素プロジェクト』の事務局設立準備、国内の温室効果ガス排出インベントリーを取りまとめ解析し報告する業務(インベントリーオフィス)を実施している。

2)事業期間

平成13〜17年度(5年間)

3)今までの成果の概要

  1. 温室効果ガスのモニタリング:
    地球温暖化にかかわる二酸化炭素の循環について、地上ステーションでの温室効果ガス等の長期連続観測、航空機によるシベリアや日本での温室効果ガスの高度分布観測、商用船舶による二酸化炭素の大気海洋分圧差の高頻度観測、森林の二酸化炭素フラックスなど、基本的な観測と独創的なモニタリングを組み合わせた観測を実施した。その中でも商船利用や航空機によるモニタリングは、世界に先駆けて実施してきている。
  2. 成層圏オゾン・有害紫外線のモニタリング:
    成層圏オゾン破壊のミリ波分光、有害紫外線観測の実施とネットワーク組織化、衛星観測データの解析・提供を実施した。
  3. 水環境:
    GEMS/Waterと連携した摩周湖・霞ヶ浦・全国河川の水質モニタリングとデータ提供を実施した。
  4. 国際協力:
    国際共同炭素循環研究プロジェクトである『地球炭素プロジェクト』や、アジアでの森林吸収観測のネットワークである『アジアフラックス』の国際事務局、UNEPの Global Environment Outlookの編纂に参加、国際WSの開催などを行った。
  5. 行政への直接貢献:
    国内の温室効果ガス排出インベントリーを取りまとめ解析し報告するインベントリーオフィスを運営した。
  6. 地球環境研究支援:
    モニタリングプラットフォームやスーパーコンピュータ利用・データベース提供による地球環境研究の支援を行った。地上観測ステーションや航空機・船舶などモニタリングのプラットフォームは、酸素/窒素比や同位体などの新たな高度な観測の場としての利用に供しており、逆に研究開発された成果をモニタリングに取り込んでいる。また、森林フラックス観測サイトのように多くの研究者が様々な観測研究を行う総合研究の場としても利用されている。
  7. 地球環境研究成果の一般への普及:
    All Japanの立場での地球環境研究センターニュース(月刊)の発行、環境教育や地球環境関連報道への協力等を行った。
  8. All Japanの研究体制確立への努力:
    総合科学技術会議温暖化イニシャティブの強化に協力した。

4)今後の課題、展望

1. 地球環境モニタリング:

地球環境モニタリングは長期継続的に実施することが重要であり、同時に、その質や内容が地球環境研究を通じて問題解決に貢献するものでなくてはならない。そのため研究動向や社会的な要請を踏まえると、温室効果ガスに関連したモニタリングを最重点の課題として位置づける。
とりわけ

  1. 長期継続的に実施するための体制整備、
  2. 信頼できるデータをできるだけ早く提供するシステムの整備、
  3. データの質を高めるための標準ガスや測定方法の高度化、
  4. 高い有効性(費用対効果)が認められたモニタリングの世界への普及、
  5. 研究観測として実施し、その成果が大きく、長期継続的に観測することが重要と認められるものをモニタリングに取り込むこと、
  6. 衛星によるグローバルな二酸化炭素観測

など新たなモニタリングの実現が今後の課題である。

また、人口増加や生活水準の向上、森林の減少などに加え、将来的には気候変化により水資源の枯渇が重大な問題となることが懸念され、国際河川の水質のモニタリングが重要な課題となる。また、種の多様性の喪失が問題となっており、これらに対応した長期的な展望の検討を行う。

2. 研究支援:
  1. 信頼できるモニタリングデータの時宜を得た提供、
  2. モニタリングプラットフォームの研究への提供、
  3. スーパーコンピュータの提供などの従来の研究支援に加え、
  4. 総合科学技術会議温暖化イニシャティブを通じたわが国の研究の組織的系統的な実施・成果の取りまとめ発信への協力、
  5. アジアフラックスや国際炭素プロジェクトなど国際プロジェクトの事務局をつとめ、その活動の強化に貢献する事

などが今後の重点課題である。

3. 研究成果の教育・社会・行政への反映:
  1. 地球環境研究センターニュース・ホームページ・CD出版などによる研究成果や研究を取り巻く情報の提供を行う。
  2. 温室効果ガス排出インベントリーの内容やそのデータ提供システムを充実させる。
  3. 社会・学校教育への素材提供、マスコミの番組作成への協力、見学対応など、

研究成果を分かり易く正確に提供する。

5)平成13、14年度予算額

  • 平成13年度:約673,000,000円
  • 平成14年度:約831,000,000円

6)評価結果の概要

地球環境のモニタリングについては、本研究センターの存在は極めて重要であり、また、十分に機能しなければならない、着実に成果を上げていることを評価する等、高い評価をいただいた。一方、以下の問題点を指摘された。

  1. 研究者に委ねるのではなく、気象観測のように業務的な堅い組織で実施すべき、また、研究ベースと実務ベースの切り分け等についてよく検討し、継続性とサービス性が保たれることを期待するというモニタリングの性格に関する指摘、
  2. モニタリングデータを早急に公開すべきという指摘、
  3. 独自データの調査意義など他のモニタリングとの関連での指摘

など、現在の業務の内容に対する意見があった。

また、

  1. 京都議定書対応としての森林のCO2吸収量評価の観測の不足点、陸域、大気、海洋、極域の地球のすべてを同じ視点で重視すべきなどの具体的な不足点の指摘や、
  2. 本センターが中心となって、日本の研究者の叡智を結集し、世界とも密接な関係を保ちながら、その業務的観測の方法を確立し、試行し、実行すべき

というもっと積極的な役割を期待する意見も数多くあった。

地球環境研究支援の分野では

  1. 真の国際共同研究体制を必要とする分野であり本研究センターが日本の研究者と世界をつなぐ役を果たすべき

という指摘があった。

7)対処方針

  1. 本センターの実施する地球環境モニタリングは、恒常的な行政組織の行う観測業務と、研究プロジェクトなどで期間を限って行う観測研究との中間的な性格の部分を担っている。Research−baseの観測をOperationalなものに移行させることは重要で、国際的にもその方向を目指し、国際的炭素観測プロジェクトであるIntegrated Global Carbon Observing Strategyの研究者グループで議論しているところである。本センターは、今後とも積極的にその検討に参加していく。
  2. しかしながら、観測内容や手法が未だ確立していない現段階では、地球環境モニタリングは今後も研究組織で行う必要があると考える。また、Operationalなモニタリングが確立しても、新たな重要な観測項目が研究側から提案されて行くであろうし、その橋渡しの役割は残るのではないかと考えている。また、モニタリングデータの時宜を得た公表に努めていく。
  3. 「炭素」を見本にして「水」や「種の多様性」などの課題についても順次議論が積み上げられて行くと考えられ、本センターはこうした分野でも役割を果たしていくよう努力していく。
  4. 地球環境研究は、国際的・学際的な研究として推進すべきであり、本センターは今までもAsiaFlaxネットワークの事務局等を務めてきている。また、その実績と課題の重要性から、IGBP(地球圏・生物圏国際共同研究計画)等により提案されている「国際炭素プロジェクト」の国際事務局を引き受ける準備を進めていく。
  5. 地球環境問題の解決は広く国民の理解と協力を必要とし、また、行政においても科学的知見に基づく施策が必要である。そのため科学的成果を広く分かり易く正確に発信する努力をしており、これも研究者が果たすべき役割であると認識している。