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特別研究平成15年度新規提案課題の事前評価
湿地生態系の自然再生技術評価に関する研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

開発等によって劣化した湿地生態系の機能を再生させ、より良い環境を取り戻すには、人工湿地を含めた湿地の再生・創造が不可欠である。そのため、より自然に近い湿地生態系の自然再生実験等によって自然の節理を学び、湿地生態系の再生及び管理・事業評価を実施する必要がある。本研究は自然再生事業に先立つ理念・シナリオの形成を行い、野外調査及び再生実験等から基礎的知見を得て、持続可能な湿地生態系の再生技術の検討を行うと同時に、再生評価手法を開発することを目的とする。

2)研究期間

平成15〜17年度(3年間)

3)研究計画

  • 平成15年度
    霞ヶ浦の水草帯において過去の植生変遷や動物の分布について整理し、それらのデータを低湿地データベース化する。モデル低湿地の水草帯の機能(水循環機能、生物生産機能等)について調査・実験を行う。
  • 平成16年度
    自然再生技術に関する研究では実際の再生事業を検証するため、国立環境研究所の臨湖実験施設に霞ヶ浦の湖水を導入した人工湿地を造成し、水位・傾斜・底質等を変化させて湿地植物の定着過程や主な湿地植物と自然環境との対応関係を明らかにする。
  • 平成17年度
    モデル地域を選定し複数の再生シナリオを考案し、解析を進める。再生目標、再生後の評価に加え、遺伝的多様性を維持するためのコスト、行政区画と生物分布の不一致、継続的人的管理の有無などの再生に関する課題を解決する手法を検討し事業評価を実施し、評価技術の開発を行う。「自然再生事業評価検討委員会」を設置して事業評価を実施し、第三者機関として実際の自然再生事業の評価を実施する。

4)研究予算額

  • 総額 60,000,000円

5)研究実施の背景

「21世紀『環の国』づくり会議」で提唱され、「新・生物多様性国家戦略」に盛り込まれた自然再生事業では湿地の再生が重要な課題の一つとなっている。しかしながら、一般に最良の事業計画かどうか判断する事が困難であり、実際に湿地を再生できるかは現実に事業として実施後にはじめて自然再生の成功度を確認する状況にある。しかも湿地を生物多様性の高い状態で維持できる手法も確立しておらず、自然再生事業の事前段階として湿地再生実験さえ十分に実施されていない現状である。かつて低湿地は生物が生息する重要な生態系であるばかりでなく、都市域のヒートアイランド現象を緩和するサービス機能・洪水防止機能等を持っていた。これらの湿地生態系の機能を再生させ、より良い環境を取り戻すには、人工湿地を含めた湿地の再生・創造が不可欠であるが、自然の節理を無視した再生・創造では持続可能な生態系を確保できない。

6)評価結果の概要

この研究主題は、生物圏と人間の社会技術システムが交錯する領域を正面から取り上げる極めて重要なテーマであり、地味ではあるが、意義や必要性は高いので評価系の構築等を精力的に進められたいとの評価を受けた。

  • 説明について
    霞ヶ浦をモデルにする事が適切か、また、過去30年間の湿地減少要因の解明、自然再生の目標や湿地機能の根拠、自然と人工湿地との根本的な差異の定義等の哲学、実行の具体性や生態系の評価の方法について説明が不十分との指摘を受けた。
  • 予算、期間、人員について
    予算や年数の制約があるので、総花的で中途半端にせず、後の時代になって生きてくるデータ等をきっちりとっておくことが重要であるとの指摘を受けた。提案者のリーダーシップを願い、国交省との相互の研究者間の連携が大切との指摘を受けた。
  • 研究方法について
    湿地生態系の実態・機能・再生などを定量化し、記述という根本課題を常に念頭に置いて研究を進め、適切な合意形成の手法開発も必要であるとの指摘を受けた。明確な評価指標、シナリオ誘導型のフレームを評価するアプローチとの連携、湿地生態系の破壊の背景、技術を選択、長期の過程に則した技術と評価、判断条件や指針を明らかにして進めていく必要があるとの指摘を受けた。復元の可能性、人間を含めたあるべき湿地の姿とは何か、という新しいビジョンを出し、骨太の研究計画をたてて「特別研究」以降の発展に備えるべきであるとの指摘を受けた。
  • 発展性について
    長年の霞ヶ浦研究の成果を活用し、当研究をエンドレスにしないようにすること。霞ヶ浦を再生のモデルにするだけにとどまらず、一般性、普遍性を念頭に、湿地、マングローブ、干潟などへの拡張性、全国の湿地における状態の違いを考慮して総合的評価を構築するようにとの指摘を受けた。国全体での明確な湿地の保全目標にとりかかるべきではないかとの指摘を受けた。

7)対処方針

  • 予算、期間、人員について
    研究期間が3年という制約からサブテーマを同時並行的に進め、霞ヶ浦の実績と近所である利点を生かし、関係する予算(GEMS/WATERモニタリング等)や国土交通省の事務所、研究者などと連携して進める。研究計画や実施、予算執行について提案者はリーダシップを発揮し、プロジェクトチーム内でコミュニケーションを十分取り、安易な予算配分はしない。
  • 研究方法について
    自然再生事業が実施されている場所はいくつかあるが、緊急に自然再生を必要とし、当研究所での長期にわたる知的基盤が揃っている霞ヶ浦をモデル候補にし、近隣の湿地を比較対照とした。これまでの実績を生かして、自然再生のリーダーシップを取るよう心がける。霞ヶ浦において詳細な湿地消失の歴史を把握し、その減少の原因を場所別に詳細な検討を実施する。湿地生態系の諸プロセスの解明は大変重要である。適用事例として霞ヶ浦を扱い一般的な総合的評価を行う。湿地生態系の再生などの定量化、理念の構築等について基本的な問題から取り組む。大変重要である合意形成の手法も研究するが研究期間等の制限から、その一般化及び手法確立は次期プロジュクトとする。「自然再生事業評価委員会」において湿地生態系の自然再生の哲学を明瞭にしてゆく。時代変化による価値観の変化に対応できるような評価に心がけ、基盤作りをすることで後世にも役立つデータベースを構築する。効果的な事例研究を霞ヶ浦で展開し、安易な経済評価はしない。
  • 発展性について
    霞ヶ浦は実行上の事例研究の一つで、対象として他の湿地生態系についても適宜比較を行う。釧路湿原や東京湾の干潟再生などの情報を収集して他の湿地についても評価手法の改変をすれば適用できる様に評価手法の開発を行う。外部評価での指摘を受けて、全国の各タイプの湿地については「湿地GIS化プログラム」として過去の変遷を把握することにより、湿地再生の基礎作りを実施することを追加した。「湿地の保全目標」については、環境省等の行政の仕事とも関係深いため、成果を関係機関の行政に反映させられる様にしていく。各サブテーマの研究目的を完結させて総括し、必要に応じて次世代の研究に発展させる。プロジェクトとしてメリハリを付けて実行し、人間との関係を含めたこれからのあるべき湿地の理想についても検討する。