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特別研究平成13年度終了課題の事後評価(平成14年12月)
空中浮遊粒子(PM2.5)の心肺循環器系に及ぼす障害作用の解明に関する研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

日本の大都市部の空中浮遊微粒子(PM2.5)の主要部分を占めるディーゼル排気粒子(DEP)を対象物質として、ディーゼル排気の曝露実験と組織培養を含む実験を組み合わせることにより、そのDEPがどのような機序で心肺循環器系に障害を及ぼしているかを明らかにすることを目的とした。そのため本研究では、DEPの心肺循環器系に及ぼす障害作用を明らかにするために、

1. 循環器に対する影響の解明研究として、
  • DEPの曝露を受けた動物の心電図解析をはじめとする電気生理学的解析
  • 心臓と肺の病理組織学的変化の解析
  • それら組織にとって重要な各種構成細胞に対するDEP影響を解析するとともに
2. 呼吸循環影響に関する免疫学的研究として
  • 肺胞マクロファージの反応
  • 鼻アレルギー反応および
  • 感染性肺傷害の憎悪とメカニズムの解明の実験を行った。

2)研究期間

平成11〜13年度(3年間)

3)研究成果の概要

ディーゼル排気(DE)あるいはDEPの曝露によって、呼吸ガス交換障害を主とする呼吸機能の低下が起こり、それに伴い、動脈血液中の酸素濃度の低下および二酸化炭素濃度の増加が起こることが確認された。また、これらの変化は、心臓負荷を増大させ、循環機能の低下をもたらすことが、右心室壁の肥厚や不整脈の出現によって明らかにされた。さらに、DEP曝露は、生体の免疫力を低下させ、細菌感染を起こりやすくし、細菌の出す毒素を増悪させることが示唆された。細菌毒素による炎症の悪化は肺水腫や肺での循環障害を引き起こすことから、心臓と血管の負荷を大きくする可能性が考えられた。さらに、DEP中に血管弛緩と心筋強縮作用をもつ化学物質が存在することがはじめて確認されたことから、循環器の障害は極めて大きくなることが推察された。なお、DEP中から単離、同定された数種類の化学物質についてはPM2.5・DEP研究プロジェクトの研究の中で詳細に検討される予定である。

4)研究予算額

平成13年度:約124,000,000円

5)研究実施の背景

近年、我が国の大気汚染は従来の硫黄酸化物(SOX)や降下煤塵を中心とした固定発生源型汚染から大都市、幹線道路沿いなどにおける二酸化窒素(NO2)や浮遊粒子状物質(SPM)を主体とした移動発生源型汚染に移りつつある。中でもディーゼル車の増加が著しく、大都市部のSPMと NO2の環境基準の達成率は依然低い状態にある。特に、SPMの汚染は深刻である。例えば東京都内の自動車沿道排気測定局(自排局)では環境基準を満たしているところは少ない(平成8年度から12年度までの達成率は9.3%〜63.4%)。

また、最近になって、粒径が 2.5μm 以下のSPM、すなわちPM2.5と心・肺疾患による死亡率との間に高い相関があることがアメリカやイギリスからの疫学研究によって示され、その健康影響の重大性が認識されてきた。しかし、この両者間の因果関係の実験的証明はまだなされていない。そのため、PM2.5と心肺循環器疾患との間の因果関係を実験的に明らかにすることは大気中の微粒子汚染の健康影響をより明確にすることになり緊急性の高い重要な研究であるといえる。

6)評価結果の概要

DEあるいはDEPへの暴露が心肺循環器への負荷を高めるいくつかのメカニズムが動物実験により明らかにされ、その過程で気体交換の測定に関する新しい技術が開発されたこと、また、DEPの心肺循環器系におよぼす影響を多角的に研究されたことが高く評価され、今後、さらなる研究の展開が期待された。一方、ここで観察された作用がPM2.5の作用であると断定することは出来ない、また、DEPの発生に実機関の定常運転による排ガス粒子発生に依っているため、PM2.5と他の要因(ガス中NOx、PM10等)との分離が出来ていないとの指摘を受けた。さらに、0.3mg/m3より低い濃度で長期間の影響研究の遂行と、予防原則に則って行政的軽減方策(例えばDEPの目標値)を提案してほしいとの意見が出された。

7)対処方針

欧米における疫学での報告では、PM2.5の呼吸・循環器影響は、現実の大気環境で起こったものと理解されている。したがって、そこには粒子状物質(PM2.5)とガス状物質が混在しており、この混在状態での健康影響がいわゆるPM2.5の健康影響と考えられる。今回の報告は、沿道に近い状況でのDE曝露を想定したものであり、正確な意味でのPM2.5の粒子だけの作用とは言い切れないが、疫学的な意味でのPM2.5の健康影響の一側面を反映していると考える。なお、重点特別研究プロジェクト「PM2.5・DEP研究プロジェクト」の中では、除粒子をしたDEの曝露と、ガス成分を除いたDE曝露を計画しており、PM2.5の粒子およびガス成分による健康影響のより詳細なメカニズムの解明をしたいと考えている。また、行政的な提案としては、例えば、DEP中の有害物質を減少させたエンジンの開発促進、DEPの排出規制値、地理・地形と気象学を考慮した粒子濃度予想による対策などが考えられる。今回の曝露は、1年間の曝露を2回繰り返したが、より低濃度で実験動物が老化する2年以上の長期曝露を「PM2.5・DEP研究プロジェクト」の中で、出来るように計画したいと考えている。