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特別研究平成13年度終了課題の事後評価(平成14年12月)
環境ホルモンの新たな計測手法の開発と環境動態に関する研究

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

本研究では、環境媒体中でのホルモン作用の有無の確認とその原因物質の究明に向け、環境媒体に適用可能なホルモン活性のスクリーニング手法と化学物質の高感度分析法を開発し、これを応用して環境媒体のホルモン作用の実態の把握を試みた。イオントラップ質量分析法、負イオン化学イオン化法(NCI)、液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)や免疫化学的測定法(ELISA)を導入し、超微量成分を精度よくしかも簡単に測定できる手法の開発を行った。受容体結合試験の高感度化や簡便な酵母two hybridアッセイ法によるアゴニスト活性とアンタゴニスト活性を評価するシステムを構築し、環境試料に応用した。

2)研究期間

平成11〜13年度(3年間)

3)研究成果の概要

通常のホルモンは極微量でその作用を示すことから、環境ホルモンと疑われる物質の環境モニタリングにおいても通常のホルモンと同様に超微量分析が必要であるため、イオントラップ質量分析法、負イオン化学イオン化法(NCI)、液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS)や、処理が早く多くの試料の測定が必要な環境モニタリングには非常に有用な手法である免疫化学的測定法(ELISA)を導入し、超微量成分を精度よくしかも簡単に測定できる手法の開発を行った。また、分子プリンティングによるビスフェノールAの選択的吸着剤の開発をあわせて行った。一方、環境ホルモンの評価法開発研究では、環境媒体のホルモン作用を捕らえることができる方法を中心に開発を行い、受容体結合試験の高感度化や簡便な酵母two hybridアッセイ法によるアゴニスト活性とアンタゴニスト活性を評価するシステムを構築した。この結果、1日で多数の検体に対するホルモン作用の評価ができる高感度な酵母two hybridアッセイ法が構築された。さらに、アッセイ系を拡張し、ヒトのエストロゲン受容体、甲状腺ホルモン受容体、アンドロゲン受容体に加え、それ以外の動物への作用を評価できるようになった。

また、モノクローナル抗体を用いるメダカビテロゲニン測定法の開発を行った。これらの成果を環境に応用した結果、都市河川ではエストロゲン作用が認められるものの、東京湾や霞ヶ浦等ではほとんどエストロゲン活性が認められないことが示された。発生源である工場排水などからは、ノニルフェノールやビスフェノールAが原因と考えられるエストロゲン活性が認められる場合があったが、環境中のエストロゲン活性の大部分は本物のホルモンであるエストラジオール類に起因すること、したがって、下水からの流入水の多い河川に高いエストロゲン活性があることが示された。また、これら天然ホルモンは分解しやすく、移動拡散の過程で分解除去されること、エストロゲンの硫酸抱合体の分解が比較的遅いことが示された。

4)研究実施の背景

内分泌撹乱作用に基づくとされる現象と原因物質との因果関係が明確になっている事例は少なく、科学的に解明されなければならない点が数多く残されている。わが国では、全国規模の環境調査が実施されてきたものの、生態系への環境ホルモン作用の影響に関する報告は限定的であり、その原因物質の特定もされていないのが現状である。このため、環境ホルモンの実態を解明するには、

  1. 何万もある化学物質のスクリーニングという発生源側からの有害性の評価とともに、
  2. 影響を受ける環境側でどのような活性が認められるのかを試験することができるシステムと、
  3. 原因物質と思われる物質の同定と定量技術の向上が必要である。

5)研究予算額

  • 総額 103,000,000円

6)評価結果の概要

プロジェクト全体として、環境ホルモン類のバイオアッセイ系の可能性をさぐり、エストラジオールなどの高精度測定法の開発を行い、環境媒体中のホルモン類のスクリーニング技法を確立した実績を高く評価された。特に、環境媒体中のエストロゲン活性について、極微量物質の高感度計測手法を機器計測および生物学的手法による計測の両面から進め、環境水中のエストロジェン濃度について従来のデータを見直す必要性を提示したことや、ELISA法の有用性の検証、メダカビテロゲニンの自動測定法の開発等が評価された。一方で、野外への応用を進めるべき、河川、海への応用は測定頻度が十分でなく予備的レベルであると評価された。また、発生源へ応用し、環境負荷の低減策を提案ができると好ましいとの指摘があった。

7)対処方針

重点特別研究プロジェクト「環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクト」の中で本研究で得られた計測、評価手法を活用し、環境管理に展開するために発生源(工場排水、生活排水など)の調査を引き続き行うとともに、野外調査ではサンプル数、季節性などを考慮し、河川や東京湾を中心に研究を強化し、環境動態を明らかにしていく。また、ヒトエストロゲン以外の系をモニタリング項目に含め、環境媒体の様々なホルモン活性を把握するとともに、活性物質の同定を着実に進めて、生態系への影響を明らかにしていきたい。