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特別研究平成14年度新規提案課題の事前評価(平成14年4月)
アレルギー反応を指標とした化学物質のリスク評価と毒性メカニズムの解明に関する研究−化学物質のヒトへの新たなリスクの提言と激増するアトピー疾患の抑圧に向けて−

  • 更新日:2003年6月30日

1)事業の概要

デイーゼル排気微粒子に含まれる化学物質群やフタル酸エステルを先導的に対象とし、これらの化学物質の実験動物への胎児期、乳児期、成長期、成長後等における暴露が、アトピー性皮膚炎と気管支喘息の発症と増悪に及ぼす影響を検討する。増悪メカニズムを明らかにするため、人と動物に共通する遺伝子とタンパクのレベルで、分子生物学的検討を加える。特に、その単独の活性化が多くの免疫関連遺伝子発現を誘導し、化学物質の毒性発現にも関連し、軽減対策の標的ともなりうる「転写因子」と「核内レセプター」の動態に注目する。また、化学物質がアレルギー反応に及ぼす影響の「in vivoスクリーニング」の可能性について検討する。アトピー疾患の増悪効果と「in vivoスクリーニング」の相関を検討し、有用性を評価する。「in vivoスクリーニング」の確立により、より多くの化学物質の評価を可能としたい。

2)事業期間

平成14〜16年度(3年間)

3)研究計画

  1. 化学物質が気管支喘息に及ぼす影響に関する研究
    (14年度)選択した化学物質を胎児期、乳児期、成長期等に動物に投与し、諸病態の増悪の有無を検討する。
    (15年度)増悪効果ににおける個々の化学物質種類や暴露時期の特異性を明らかにする。
    (16年度)増悪のメカニズムを明らかにするために、分子生物学的検討を加える。
  2. 化学物質がアトピー性皮膚炎に及ぼす影響に関する研究
    (14年度)アトピー性皮膚炎を発症するNC/Ngaマウスに、選択した化学物質を胎児期、乳児期、成長期等に投与し、諸病態の増悪の有無を検討する。
    (15年度)増悪効果ににおける、個々の化学物質の特異性、暴露時期の特異性を明らかにする。
    (16年度)増悪のメカニズムを明らかにするために、分子生物学的検討を加える。
  3. アレルギー反応を利用した「in vivoスクリーニング」の可能性に関する研究
    (14年度)選択した化学物質を病態モデルと同様の方法で暴露し、その後にアレルゲンを投与する。アレルゲン特異的抗体(IgE、IgG)と好酸球、IL-5、EOTAXIN濃度等を測定する。
    (15年度)上述のアレルギー反応を指標とし、「in vivoスクリーニング」と実際のアトピー疾患増悪効果の相関を検討する。
    (16年度)有効性が確認されれば、対象とする化学物質と投与時期を増やして、検討を進める。

4)研究予算額

総額60,000,000円

5)研究実施の背景

近年、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症、食物アレルギーなどのアトピー疾患は若年者を中心に急増し、新たな「国民病」となっており、この増加要因を解明し適切かつ迅速な国家的対策を講ずることはきわめて必要性・危急性の高い課題である。その増加のスピードより、アトピー疾患の増加・増悪要因は遺伝因子よりも環境因子の変化により可能性がある。我々はデイーゼル排気微粒子がアトピー疾患に及ぼす悪影響を検討する過程で、氾濫する『化学物質』の危険性に着目するに至った。しかし、これまでの化学物質の健康影響評価は、一般毒性によって論じられ、アトピー疾患への影響を明らかにしようとする試みはなく、次の世代への影響を含めた検討は皆無であった。

6)評価結果の概要

全体として、現時点において、社会に対する貢献度の高い、重要な課題であるとの評価が多かった。しかし、アトピー疾患の増加に関わる環境因子は、感染症の減少をはじめ他にも存在する可能性があるため、複数のストーリーあるいは仮説を考えておく必要があるとの指摘があった。また、スクリーニング法の今後の確立を念頭においた研究の遂行が望ましいとの意見も提出された。

7)対処方針

感染症の減少もアトピー疾患増加の一因と考えられるが、乳児期においても既にアトピー性皮膚炎や食物アレルギーの増加は観察されており、当該世代における感染症の減少だけでは説明しきれない部分も確実に存在する。この背景からも、胎児期や乳児期に暴露される環境因子の重要性が示唆され、その一つとして、化学物質は重要なターゲットであると考えられる。環境因子とアレルギーに関する疫学的知見、実験的知見等に今後も注意を払い、対象とする予定の物質以外の化学物質や他の環境因子の重要性も念頭におき、研究計画を遂行していきたい。対象とすべき化学物質は非常に多く、日々その数は増大している。少数の先導的に選択した化学物質(群)に関して、

  1. 疾患モデルにおける増悪作用の確認、
  2. vivoスクリーニングの開発と有用性の確認、
  3. in vitroスクリーニングの開発と有用性の確認 の順で研究計画を進めて行き、確立したin vitroスクリーニングを莫大な数の化学物質の評価に用いる過程が理想的であると考えられる。

今回の研究提案の守備範囲は(1)と(2)であるが、近未来的に(3)にもつなげるべく、研究を遂行したい。