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重点特別研究プロジェクトへの助言(平成14年4月)
東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理プロジェクト

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

1992年の地球サミットで採択されたアジェンダ21により地球環境問題に対して世界的レベルで各種対策が推進されてきた。しかし人口及び産業の著しい増大が見込まれるアジア・太平洋地域においては様々な発展段階が共存し、森林減少、水質汚濁、水資源枯渇、土壌流出、自然環境の劣化等多様な問題が一挙に顕在化しており、この地域における問題解決が世界的にも極めて重要となっている。一方、日本国内にあっても総合的水・物質循環の把握に基づく自然資源の保全・修復は日本の新たな環境保全・創造にとって最も重要な政策課題となっている。

このため、環境の基本ユニットである流域圏が持つ受容力を科学的に観測・把握し(テーマ1)、環境受容力の脆弱な地域を予測する数理モデルを構成した上で(テーマ2)、陸域における環境負荷の減少と海域への流入量の減少を可能にする環境保全対策法を考究し(テーマ3)、これらの成果を統合化することにより、開発計画の再検討ならびに環境修復技術の適用等を含む環境管理手法の開発を行い(テーマ4)、日本及び東アジアのにおいて検証を行うとともに、持続可能な発展に寄与する知見を提供する。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成13年度の研究成果の概要

  1. EOS-TERRA/MODISを利用したアジア・太平洋地域の統合的モニタリング
    高機能地球観測センサーEOS-TERRA/MODISのデータ受信局を中国ウルムチに設置し、中国側の北京受信局と併せて環境観測ネットワークを構築し、広域環境モニタリング体制の整備を進めた。
  2. 長江流域を対象とした水文・土砂動態モデルの開発
    長江全流域の年間総流出水量(約1兆m3)の約20%を占める洞庭湖から長江への流入水量を記述する高精度かつ簡便な水理モデルの開発と検証を行い、既存の流域水文モデルとの統合化を行った。提案したモデルは長江の水位変動の影響を受けた洞庭湖から長江への急激な日流入水量の変動を的確に再現することができた。また、河川網と洞庭湖を統合化したモデルは、上中流域を対象とした計算結果も高い再現性を示した。
  3. 長江経由の懸濁物質の河口・沿岸域における動態と生態系への影響
    長江から供給されるシルトの高濁度水域(河口)−低濁度水域(混合・希釈海域)−外洋を対象に、懸濁粒子の沈降・堆積の物理化学過程と、高濁度物質の沈降に伴う光制限の解除と植物プランクトン光合成生産との関係についての観測を行った。
  4. 沿岸域環境総合管理
    汚濁物質等の沿岸生態系への影響と環境改善・修復手法開発の基礎データの取得のため、東京湾の人工干潟、及び自然環境が残されている松川浦の干潟で、生物による水質浄化能の評価を行った。松川浦では、二枚貝などの生物による水質浄化量が流入負荷と同程度であり、健全な生態系が維持されていることが明らかになった。

4)今後の課題、展望

  1. EOS-TERRA/MODISを利用したアジア・太平洋地域の統合的モニタリング
    中国における生態系の基本パターンである畑地、水田、草地、森林、半乾燥地の5つのタイプに、生態系観測ステーションを設置し、ミクロな生態系変化の追跡を行うとともに、MODIS衛星データによるマクロなモニタリング成果との結合を図る。
  2. 長江・黄河流域における水循環変化による自然資源劣化の予測とその影響評価
    中国西部開発にともなう環境資源の劣化、特に長江上・中流域への影響を水資源変化とその食料生産への影響の観点からのみならず、経済的要因も加味した観点からの評価も併せて行う。
  3. 長江経由の懸濁物質の河口・沿岸域における動態と生態系への影響
    三峡ダム建設地点より約30km下流の葛州覇ダム湖において、水質・生態系調査を実施する。特に、ダムに向かって懸濁物が沈降することによる湖水内で太陽光減衰率の変化、温度成層形成と水界生態系構造との関係について精査し、生態系モデルの基礎的知見を得る。
  4. 沿岸域環境総合管理
    自然に近い状態の海岸と修復技術の適用海岸における増殖速度を現地調査する。実験系での物質循環を測定結果と、現地調査による底生生物の存在量に基づき、現場における物質循環を推定する。さらに、現場の一次生産を基点とした炭素、酸素等の物質循環を調査する。

5)平成13年度研究予算額

約423,000,000円

6)評価結果の概要

中国特に長江全流域を対象として、流域全体を俯瞰するモニタリング、素事象の数理モデリング、現地観測に基づく素事象の抽出とモデル検証の3つの研究要素のバランスがとられ、組織的に順調に推進されている研究であると、概ね高い評価を受けた。 ただし、流域環境管理の視点から、1)管理を行う上での評価点・評価軸の設定、2)環境管理の在り方における“生態系”と“持続可能性”の概念の科学的に明確な判断基準、3)研究成果の適用に当たっての指針、についての今後の方向性を問われた。

7)対処方針

  1. 評価軸は幾つか考えられるが、本研究では流域の環境に与える4つの主要な圧力として土地利用変化、ダム建設、南水北調、汚濁負荷を考え、水の持続的利用及び森林・草地・農地での持続的な生物生産可能性を第1の評価軸として環境保全での費用対効果の観点からの議論を考えることとする。
  2. “生態系”、“持続可能性”、“環境管理”の3つの基本要素についての科学的判断条件を明らかにするために、UNEPのミレニアム・エコシステム・アセスメント(MA)が開始された段階、すなわち科学的判断条件についてはMAでも未解明であり、それを明確にすることが、本研究の第1段階の成果と考えられる。
    ただし、流域が地域特性を持っていることから、世界各地域から長江流域を含む5つの異なるスケールのサブ・グローバル・アセスメントの候補が選出され、ケーススタディとして、異なる流域での科学的判断条件についての知見が3年間で出される予定である。
  3. 中国の流域は、自然システムが大部分を占め都市システムは点在しているのが現状で、今後、社会基盤整備が急速に進められる中国でより効果的に流域管理研究を活用できる可能性が高いと考えられます。一方、社会整備がすでに行われている日本では都市モデルの精度向上を図ると共に、新しい社会システムへの根本的変革を求める研究に繋げていく必要があると考えられる。