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重点特別研究プロジェクトへの助言(平成14年4月)
生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクト

  • 更新日:2003年6月30日

1)研究の概要

土地利用などの人為的な環境改変の生物多様性への影響を様々な空間的スケールで把握し、生物多様性減少の要因を分析する。局所生態系のスケールでは生物群集の個体ベースモデルを開発し、多種生物共存のメカニズムを探る。流域スケールでは生息地(特に河川)の分断・改変が種多様性に及ぼす影響をフィールド調査によって明らかにする。それより大きなスケールでは植生景相の地図情報化を行って生物種の分布との重なりを解析することにより、種と群集の地理的分布を表現できる二次元空間モデルを開発する。

また、侵入生物と遺伝子組み換え生物の生態系影響の問題を取りあげる。侵入生物の生態的特性、侵入経路、現在の分布、在来生物へのインパクトなどの情報のデータベース化と地図情報化、侵入生物による在来生物への捕食・競合・遺伝的攪乱などの影響の実態調査を行う。遺伝子組換え生物の生態系影響評価手法を開発するため、既成の安全性評価手法の再検討と分子生物学的手法による安全性検査手法の開発を行う。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)平成13年度の研究成果の概要

  1. 航空写真・植生図・数値地図より生物生息環境のデジタル地図を作成する手法を確立し、那珂川と利根川の水系について地図を試作した。この地図に基づく生息適地推定が複数の生物群について可能であることを実証した。
  2. 流域ランドスケープにおける生物多様性の維持機構において、流域および局所生態系スケールで景観要素(土地利用、地形、植生)と生物群集、水質との関係を調査した。また、砂防ダム、貯水ダムが魚類の種多様性に及ぼす影響を分析した。
  3. 個体の確率的な死亡と種子散布を課程した森林動態の個体ベースモデルの設計を行った。種子の分散能力の制約が塊状の樹木分布を生み出すが、これが種間競争が原因でおきる絶滅の速度を低下させる効果がある事が示唆された。
  4. 侵入生物に関して主要種リストを作成し、データベースのフレーム作りを行った。侵入生物がもたらす生態影響について整理し、競争在来種の絶滅、遺伝的侵食、寄生虫/病気の伝播の3点について検討した。
  5. 組み換え体の挙動調査に用いるマーカー遺伝子を導入した植物を開発した。また、ツルマメの開花時期を調査し、遺伝子組み換えダイズ(GMO ダイズ)と交配可能な品種を選抜した。標的の微生物をモニタリングするためのマーカ遺伝子として水銀化合物分解酵素遺伝子に着目し、これを各種土壌細菌に導入した。また、微生物の環境中での生残性に関する検討を行った。

4)今後の課題、展望

生物多様性の空間分布に関する情報収集を拡大するとともに、過去の航空写真などから植生/土地利用の情報をデジタル地図化する。土地改変や気候変動の歴史的情報から野生生物の分布変化を推定する手法を開発し、これをもとに土地改変や気候変動の歴史的情報をもとに、野生生物の潜在生息地の過去や未来を地図上に記述する手法を開発する。

流域スケールはフィールド調査によりランドスケープの構成単位となる局所生態系をその中の群集構造によって記述する手法を開発する。また、ダムなどによる河川生態系の分断化の生物多様性への影響を解析する。

森林動態の個体ベースモデル(局所生態系スケール)をさらに発展させ、樹木の集中分布が絶滅時間に与える影響を検討する。開発した個体ベースモデルを用いて生息地の分断、侵入生物等のパラメータを導入し、それらの影響の程度を解析する。

侵入生物に関して生態的特性、侵入経路、現在の分布に関して情報を収集し、データベースの改良を行う。分布を急速に拡大しつつある侵入生物について、集積された情報をもとにその原因を分析する。侵入生物による遺伝的撹乱が心配される野生生物のDNA解析により、遺伝子侵食の実態を調査する。

遺伝子組換え生物については既成の安全性評価手法の再検討を行うとともに、分子生物学的手法(マイクロアレイ法)による安全性検査手法の開発を行う。モデル実験生態系の設計を行い、他種生物への遺伝子伝搬の可能性を評価する。半野外実験系でマメ科植物の交雑および選抜実験を行い、種間の遺伝子伝搬を検証する。育種作物などの自然界への侵入拡大の文献および野外調査を行い、地図情報化する。

5)平成13年度研究予算額

  • 約184,000,000円

6)評価結果の概要

生物多様性を空間構造を軸として把握しようという新しい方向性を評価された反面、

  1. サブテーマを全体テーマのなかでどう統一するかが見えにくい点を指摘された。また、
  2. 人間活動の影響を明確に把握する手法や人間活動へのガイドラインの提示につながる研究の必要性が指摘された。
  3. 生物多様性がもつ様々な生態系機能の評価を通して、生物多様性の価値を評価すべきではないかとの指摘もあった。

7)対処方針

  1. 複数のレベルと複数のスケールをつないで統一的に把握することは重要で困難な問題でもあるが、GISを利用して地図上に表現することを全体の方向性としたい。
  2. 人間活動の影響をもっと分かりやすい形で、地図上に表現できるようにしたい。例えば土地利用強度から生物多様性の減少を推定する手法を開発するなどを通して、里山里地の荒廃、市街地の拡大、外来生物(侵入生物や遺伝子組換え生物)の影響などを把握したい。
  3. 生態系機能の評価は重要な課題である。このプロジェクトではおもに生態系や植物景相の生物多様性維持機能に注目して研究を進める。