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 事後評価の年度評価(平成13年12月)
流域環境管理に関する国際共同研究

  • 更新日:2002年3月28日

1)研究の概要

気候変動や人口増加、経済発展等により21世紀アジアの成長制限要因の中で最も重要なものとして水資源枯渇が挙げられている。特に新たな水資源とエネルギーの大規模開発が進行している長江流域において環境調和型の成長を達成するための調査・研究を、(1) 長江流域環境モニタリング手法と情報システム化手法の開発に関する研究、(2) 長江の河川水質と水界生態系に関する調査研究、(3) 流域環境管理モデルの開発、の3つを基本課題として推進した。

2)研究期間

平成8〜12年度(5年間)

3)研究成果

  1. 衛星画像を用いた洞庭湖・ハン陽湖周辺の洪水氾濫による被災面積の推定
    1998年7〜8月の長江流域での大洪水(中国では20世紀第2番目の規模)による広い領域の洪水被害面積を高頻度で把握するため、NOAA/AVHRRの衛星画像データを利用した手法を開発した。地表面植生の繁茂状況を代表する正規化植生指標(NDVI)を用いて洪水の氾濫域を特定し、地理情報ソフトを用いて、標高、土地利用の各データ上に氾濫域を重ね合わせることで、被災面積を推定した。その結果、洪水ピーク時(8月22日)における洞庭湖・ハン陽湖周辺の氾濫による被災面積として、農耕地の被害面積は2076km2(水田1120 km2、畑956km2)、全洪水被害面積3589 km2であり、中国が公表している被害面積である1970 km2、3210 km2に近く、実用レベルにあるもの判断された。
  2. 大流域降雨流出モデルでの利用を目的とした日降水量の比較検討
    流域面積180万km2という長江流域全体を対象とする水文モデルの精度は、入力すべき日降雨量の推定値の精度に大きく依存するため、入力する全球規模での降水量の推定値データセットであるヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)、熱帯降雨観測ミッション(TRMM)、全球降水量気候計画(GPCP)について、1998年夏期の長江流域を対象に、その時間的・空間的精度についての比較検討を行った。その結果、局地的な豪雨現象が十分に再現できないデータセット、現実の晴天日に相当量の降水量を推定したり、逆に実際の日降水量が多い日には過小に推定する傾向があるデータセット、といった地球規模の日降雨量データセットが抱える幾つかの重要な問題点を初めて指摘した。
  3. 長江の河川水質に関する調査研究
    1998、99年の10〜11月、長江の重慶−上海間、洞庭湖、ハン陽湖で、水質・生態系の調査を行った結果、次の特徴が認められた。(1)長江の水質の特徴は懸濁物質の濃度に大きく影響され、上流の高濃度が洞庭湖、?陽等の湖沼群での沈降・堆積を経て、急激に濃度が低下する。(2)懸濁物質濃度とリンの輸送量との相関は高く、今後の三峡ダム湖の出現、東シナ海への流入量を推定する上で、懸濁物質の濃度の変化を十分に注視することが重要である。(3)湖沼群と長江本川との水の交換により、養殖等の湖沼利用に伴う栄養塩投入が河川水質に大きな影響を与えている。(4)生物生産が低いため、日本の河川に比べて窒素濃度が高い割には有機物による汚濁が低い。
  4. 炭素安定同位体を用いた生態系炭素循環の解析
    水界生態系における食物連鎖には、通常の光合成経路と微生物食物連鎖の2つの経路が存在する。長江の河川水の一部に13C安定同位体で標識した無機炭素あるいは有機炭素を溶かして培養し、河川水中の植物プランクトンや細菌による13C安定同位体の取り込み量と光合成生産と細菌生産から動物プランクトンへの捕食を通じた炭素の移送割合を現地計測した。その結果、長江生態系の有機物の流れは、上流では光合成に必要な栄養は十分に供給されているにも関わらず、光が強く制限されるために細菌経路が卓越し、一方、中流の湖沼群で土砂が沈降し光制限から解放される下流では、光合成経路が卓越していることが判明した。
  5. 長江流域内での降雨による土砂輸送のシミュレーション
    植生被覆、土壌構造、土地利用等の地理的な不均一性が組み込んだ降雨による水文流出・土砂輸送モデルを開発し、1987年と1988年を対象に長江流域全体に適用した。計算された流量は大通(源流から5750km)での観測値とよく一致していた。一方、土砂濃度の計算結果は宜昌(源流から4700km下流)での観測値と比較より、洪水期の大規模な土砂流出現象の再現性に問題があり、この原因は2.で指摘した入力日降水量の推定データの精度の低さが原因と考えられた。宜昌より上流に位置する嘉陵江流域を対象に、入力する日降水量として地上観測値を用いたシミュレーション結果は、開発したモデルが長江流域の降雨流出・土砂輸送を十分に再現できることを示していた。

4)研究予算額

約 266百万

5)研究実施の背景

21世紀の中国の経済活動を支えるための急速な内陸開発は、環境への圧力を増大させることが予想されている。中国大陸からの環境負荷の影響は、数日(洪水)から数年〜十数年(生態系経由等)と、その伝わる時間は異なるものの東シナ海を通じて日本にも影響を及ぼしている。この広大な中国の環境変動の広がりは東アジア規模に及ぶ可能性があり、国際的連携による環境問題への積極的な取り組みの観点から、我が国には主導的に環境と調和した成長の在り方を求めていくことが期待されている。このような背景をもとに、中国科学院地理科学与資源研究所と中国水利部長江水利委員会を海外共同研究機関の中核として、長江流域での環境調和型の成長を達成するための流域環境管理に関する研究を推進した。

6)評価結果の概要

三峡ダムはまだ完成しておらず、この研究はダム完成前の状況把握の段階である。スケールアップの問題は大変重要な課題であり、現在観測点を設置し小〜大スケールの連続観測を行っており、この成果が反映できればと考えている。本研究成果は、中国の研究機関にとっても初めての知見であるとの評価を受けている。重点特別研究プロジェクト「東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理」において、今後研究を継続し、中国の研究者や行政が活用できるよう十分なる蓄積を行いたい。

7)対処方針

政策対応型調査・研究「循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究」の中で、簡易分析法によるスクリーニング法と機器分析による精密分析手法を組み合わせた体系的分析システムの開発に取り組みたい。対象化学物質は揮発性物質だけではなく、不揮発性物質も含み、新しい機器分析法の開発も考える。このシステムでは埋立地浸出水だけではなく、埋立廃棄物そのものや不法投棄された缶入り液状廃棄物も分析対象とする。また、毒性試験などによるリスク評価も行えるようなシステムに発展させていく。