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 事後評価の年度評価(平成13年12月)
大気エアロゾルの計測手法とその環境影響評価手法に関する研究

  • 更新日:2002年3月28日

1)研究の概要

1990年代半ばの中国は大気エアロゾル汚染が激しく、国連のレポート(World Resources,1998-99)では、北京の大気エアロゾル濃度は377μg/m3、東京は49μg/m3(ちなみに、日本の大気環境基準値は100μg/m3)と報告されている。そこで、北京および銀川の大気エアロゾルに焦点をあて、中日友好環境保護中心との共同研究として約5年間にわたる長期モニタリング(毎月2回の定期試料採取)を行った。Al、Fe、Cu、Zn、Pb等の重金属分析、無機系炭素と有機系炭素、炭酸塩炭素の形態別分析、PAH類の分析によって得られた結果をもとに、中国の都市大気エアロゾルの特徴を明らかにした。内陸の都市のみならず北京でも、土壌起源系エアロゾル(主に黄砂エアロゾル)の寄与が無視できないという特徴があった。

2)研究期間

平成8〜12年度(5年間)

3)研究成果

中国の首都である北京の大気エアロゾル汚染の実態を解明するために、1996年から2000年まで長期連続して、大気エアロゾル試料や乾性降下物試料、発生源である土壌試料、石炭試料、自動車粉塵等を収集した。大気エアロゾル試料およびダスト試料の捕集方法は、ハイボリュームサンプラー法、8段型アンダーセンサンプラー、乾性降下物サンプラーを用いた。また、本研究の一環として、土壌起源系エアロゾル標準物質(CJ-1、CJ-2)を作製した。この標準物質は、中国と日本で行った分析結果の精度管理に利用したほか、中国都市大気中で生じている土壌起源系エアロゾルの反応機構の解明を目的とした室内実験材料にも利用した。  中国北京の都市大気エアロゾル濃度は1999年以降低下傾向を見せたが、二級環境基準(中国の大気環境に適用する中レベルの基準、一日平均値0.15mg/m3以下)を下回るまでには至らなかった。ガス状物質については、SO2(中国二級大気環境基準、一日平均値0.15mg/m3(52ppb相当))が5年間で約50ppbから30ppbへと低下傾向を見せたが、NO2(中国二級大気環境基準、一日平均値0.08mg/m3(36ppb相当))は40ppbから70ppbへと増加傾向を示し、先進国の都市型大気汚染にだんだんと似てきていることが判った。  大気エアロゾルの粒径別化学組成を見ると、夏季にはPM2以下の微小粒子側に多く存在する硫酸イオンや硝酸イオンが、冬季や春季にはPM2以上の粗大粒子側での存在割合が高まることが判った。そのような季節には、黄砂等土壌起源系エアロゾルの寄与も高いことも明らかとなり、SO2やNO2のようなガス成分が土壌起源系エアロゾルと反応する可能性を示唆した。そこで、清浄な砂漠地帯や黄土地帯の土壌から微粉末の土壌粒子のみを分離精製して模擬黄砂標準物質を作り、土壌起源系エアロゾルとSO2やNO2ガスおよびNH4SO4微粒子との反応実験を行った。その結果、SO2やNO2は、土壌起源系エアロゾルと反応し、その表面にSO4やNO3として固定されることが判った。  次に、都市大気中に含まれる土壌起源系エアロゾルの寄与率の推定方法や判定方法を検討した。その結果、中国北京のような内陸部から離れた都市でさえも土壌起源系エアロゾルの寄与が全大気エアロゾル中で最も高く、特に春季に顕著となることが判った。その多くは、黄砂等土壌起源系エアロゾルによると推定された。

4)研究予算額

総額約100百万円

5)研究実施の背景

国連のレポートでも明らかなように1990年代半ばには、都市大気エアロゾル汚染の激しい上位10都市中9都市が中国の都市で占められていた。北京も例外ではなく4番目にランクされ、中国政府が取り組むべき環境対策の対象汚染物質の一つに挙げられていた。その主要発生源が人為由来なのか自然由来なのか、大気エアロゾルの性質や粒径的特徴は何かなど不明なことが多くあった。その科学的解明のために、日本が支援し設立された中日友好環境保護中心と国立環境研究所との共同研究を実施することになった。

6)評価結果の概要

北京の都市大気エアロゾルの現象解明を目的として、長期モニタリングとラボ実験の両方から精細な研究を行ったことに高い評価が与えられた。特に、黄砂エアロゾルとSO2やNO2等のガス状物質との反応機構を明らかにしたこと、世界初の黄砂標準物質を作ったこと、共同研究を通じ国際貢献を行った点を認められた。今後、中国の環境政策や東アジア地域の環境問題に反映するような研究の進展を期待するというコメントがあった。

7)対処方針

環境省地球環境研究総合推進費等の競争的資金の導入を計りながら、東アジアの環境問題の一つとしてクローズアップしてきた黄砂に特化した研究へと進展させていく計画としている。黄砂問題は、中国内陸部の砂漠化や土地の荒廃化問題と密接な関わりがあり、エアロゾル分野だけでなくいろいろな分野との連携が必要となってきている。本プロジェクトで築いた中国研究者グループとの良好な関係をベースに、今後も黄砂に関する環境研究と国際貢献に邁進して行きたいと考えている。