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 事後評価の年度評価(平成13年12月)
都市域におけるVOCの動態解明と大気質に及ぼす影響評価に関する研究

  • 更新日:2002年3月28日

1)研究の概要

都市域におけるVOC(揮発性有機化合物)の動態解明と大気質に及ぼす影響を把握するために、固定発生源や移動発生源からのVOC排出量の推計、VOC成分の環境濃度の把握、モデルを用いた発生源と環境濃度との関連性評価を行った。研究方法としては、固定発生源・移動発生源から排出量のマクロ推計調査、トンネル調査による自動車からの排出実態把握、フィールド調査、数値モデルや室内実験研究による汚染メカニズム解明を並行して行った。

2)研究期間

平成10〜12年度(3年間)

3)研究成果

(1) VOCの発生量推計

総排出量に占める割合が大きいものの中から塗料・溶剤関連、自動車排出ガス、自動車燃料供給系からの成分別・地域別の排出量推計方法を精査した。マクロ推計に当たっては、自動車起源については排気管からの排出に加え、コールドスタート時の排出増加、アイドリング時の排出、燃料供給系からの蒸発による排出や未規制自動車の寄与を推計した。人為発生源では最大の塗料溶剤の蒸発による排出量の推計を試みた結果、VOCの発生量は82.5万トンと推計された。用途別内訳では建物、自動車、電気・金属などが上位を占めた。自動車排出ガスについては、車種別、燃料種別、道路種別の発生量を求めた結果、ベンゼンのように主にガソリン車から排出される物質と、ホルムアルデヒドのように、主にディーゼル車から排出される物質があり、後者の車種別寄与率は、NOxや粒子状物質の車種別排出寄与率と類似のパターンを示した。道路種別の内訳結果からは、車種別排出寄与を反映して、ホルムアルデヒドでは、PM(粒子状物質)やNOxと同様、大型車の比率の大きい幹線道路の割合が大きく、ベンゼンでは細街路からの寄与も相対的に大きくなっていた。VOC排出量の推計値は23.4万tとなった。走行時の排気管からの排出だけでなく、蒸発による排出では給油時ロスを例に月別推移を見ると、気温の高い夏季には冬季の2〜3倍の排出量となることが分かった。トンネル調査ではトルエンの発生比率が最も高く、全体の約15%あった。大型車両率が高いと排出係数が高い成分は、n-オクタン、n-ノナン、1,3-ブタジエン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、スチレン、ホルムアルデヒドで、大型車両率が高いと排出係数が低い成分は2,2,4-トリメチルペンタン、2,3,4-トリメチルペンタン、2-メチル-2-ブテンであった。

(2) VOCの環境動態把握:

関東地域とメキシコ市において地域的な特徴を把握した。メキシコ市におけるVOC濃度は関東地域と比較して極めて高く、中でもプロパン、ブタンは10〜30倍の値を示した。しかしベンゼン濃度に関しては関東地域とメキシコ市との間に大きな濃度差は無かった。大阪湾周辺地域の春季大気汚染の解析の結果、NO2(二酸化窒素)汚染には大阪湾上の船舶から排出されたNOxが大きな寄与を及ぼしていることが分かった。数値実験からは、酸化プロセスとしてはバックグランドオゾンの影響が圧倒的に大きいこと、また炭化水素発生源の発生量の削減はNO2の環境濃度の低減にはあまり貢献しないことが分かった。大陸地域からのVOC排出量の光化学オゾン濃度に対する感度実験を行ったところ、VOC発生量を半分に設定した場合と現状との比較した場合には、オゾンの月平均値でくらべると、両者の計算の濃度差は、差の大きいところでVOC発生量を半分に設定した場合の方が5ppb程度濃度が低くなった。差の大きい地点で詳細に比べると、数ppbから20ppb程度日最高濃度が低くなることが分かった。またトレンド解析からは、全国的にオキシダントの年平均値が増加傾向にあることが分かった。  風洞実験からは、ストリートキャニオン内の大気汚染濃度分布は渦の強さや安定性により変わり、道路の風下側の建物が周辺の建物よりも高く、渦の勢いが強い時には濃度が低く、逆に道路風下側の建物が周辺よりも低くて渦ができない時には濃度が高くなることがわかった。高架道路の有り無しを比べた結果、今回のケーススタデイにおいては、地上濃度分布には大きな差は見られなかった。

4)研究予算額

約73百万円

5)研究実施の背景

VOCが大気環境に及ぼす影響の代表的なものとして、光化学大気汚染があげられる。一方、VOCの中には、それ自身が人体に有害な物質も多い。大気汚染防止法の改正によって有害大気汚染物質対策が本格化し、ベンゼン等の汚染実態の把握が急がれている。VOCはキーとなる大気汚染物質であるが、発生量、環境濃度分布、汚染メカニズムなどに関する体系的な研究がなされていない。このため特に都市域に於ける実態把握が緊急に必要となっていた。

6)評価結果の概要

実態のよくわからなかったVOCについて、発生源、環境濃度分布などが解明された意義は大きい、地域分布などについて体系的にデータを収集・解析している、等の高い評価を受けた。一方、今後は、VOCのライフタイムや、PM2.5との関連性等の大気中での変化プロセスに関わる取り組み、PRTR制度で得られる情報の検証、発生源の変化に伴う環境濃度変化に関するシミュレーション研究を実施すべきとの指摘を受けた。

7)対処方針

本研究に対する高い評価を今後の研究の糧としたい。VOCの発生源に関する知見はかなり深まったが、環境動態に関する解析は未だ不十分である。今後の研究(平成13〜17年度実施の、重点特別研究プロジェクト「大気中微小粒子状物質(PM2.5)・デイーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価」略称:PM2.5・DEP研究プロジェクト)の中で、VOCとPM2.5の関連性解析等の大気中での変化プロセスに関わる取り組みや、PRTRで得られるデータとの比較検討、情報の検証、各種スケールのシミュレーションモデル開発研究を実施し、大気汚染発生源と環境濃度との関連性把握や影響評価を行っていく。今後の具体的な課題として、発生源の把握精度の向上が上げられ、これと共に測定技術開発や、これを用いた環境モニタリング、発生源と環境濃度の関連性を把握するための、モデルの開発や曝露影響評価研究を推進していく必要があると考えている。