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 重点特別研究プロジェクト及び政策対応型調査・研究への助言の年度評価(平成13年4月)
生物多様性の減少機構の解明と保全プロジェクト

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

野生動植物の遺伝子集団や種、群集の時間的変化を把握してその変動メカニズムを明らかにするためには、まず生息地の空間的な広がりを知る必要がある。生息地はいくつかの異なった空間スケールにおいて認識しなければならない。まず、ひとつの森林や湖沼など、ほぼ均一とみなせる生態系のなかでの集団や群集の動態の理解が重要である。次に森林、湖沼、農村部、都市部などがモザイク状に存在する流域ランドスケープでは、生息地がその中にどう分布するのかが重要な情報となる。さらに、もっと大きなスケールの地域(日本全体、東アジアなど)では、生物多様性を説明する要因として個々の生物種の地理分布が重要になってくる。そこで、このプロジェクトでは上記の3つのスケールを視野に、生物多様性に及ぼす人間活動の影響を評価する。特に着目する要因として、野生生物の生息地の分断縮小、外来生物の人為的導入、遺伝子組換え生物の開放系利用をとりあげ、保全手法を開発するための研究を行う。

2)研究期間

平成13〜17年度(5年間)

3)研究計画

平成13年度:これまでに構築した関東中北部のGISを利用して、現状の植生分布等と野生生物分布の重ね会わせから生息可能な環境を割り出す手法を開発する。河川流域における生態系多様性の成立要因を明らかにするために、単位となる局所生態系を生物群集構造から分類する手法を開発する。物理的・生物的撹乱による生物多様性の変動を予測するモデルのフレームワーク開発を行う。また、侵入生物/遺伝子組換え生物の生態影響に関する基礎情報を整備するために、侵入生物種については種のリストアップと文献情報の収集を行い、遺伝子組換え生物については環境浄化または組換え体の挙動調査に有用な生物および遺伝的マーカーを探索・単離するとともに、それを導入した組換え植物・微生物を作成する。
 平成14〜15年度:海外の研究者の協力をえて、東アジア地域の野生生物の分布情報を収集するとともに、フィールド調査を行う。流域スケールとフィールド調査に重点をおき、単位生態系内の生物群集構成を明らかにする。侵入生物の情報収集を国内各地の研究者の協力をえておこなう。遺伝子組換え生物については、マイクロアレイ法による安全性検査手法の開発を行う。
平成16年度:植生、土地利用、緯度、経度、標高などの条件と野生生物の分布との対応関係を分析する。局所生態系スケールで多種競争系の動態を記述する個体ベースモデルを開発する。遺伝子組換え生物は半野外実験系でマメ科植物の交雑および選抜実験を行い、種間の遺伝子伝搬を検証する。
 平成17年度:土地改変や気候変動の歴史的情報をもとに、野生生物の潜在生息地の過去や未来を地図上に記述する手法を開発する。侵入生物による遺伝的撹乱が心配される野生生物のDNA解析により、遺伝子侵食の実態を調査する。育種作物の自然界への拡大を航空写真などを使って調査し、地図情報化する。

4)研究予算額

130百万円/年(予定額)

5)研究実施の背景

生物多様性減少の原因となる人間活動はさまざまであるが、とくに、生息地の破壊・分断化と侵入生物・遺伝子組換え生物の影響が深刻である。これらの原因によって生物多様性が減少するメカニズムを解明し、人間と野生動植物が共存できる道を探らなければならない。そのためには陸上生態系を含む流域を人間と野生生物が共存する最小の単位ととらえ、その生態系管理方策を講じるための定性的、定量的な科学的知見を得ることが重要である。これをもとに、土地改変や気候変動の歴史的情報から野生生物の分布変化を把握する手法や侵入生物や遺伝子組換え生物の生態系影響を評価する手法を開発する必要がある。

6)評価結果の概要

(1)一般に生物多様性の減少を論じる時、個々の種の絶滅を意味する場合と一定地域内の種数の減少を意味する場合があり、論点がはっきりしないことが多いので、このプロジェクトでは明確にしておくべきであるとの指摘を受けた。(2)生物多様性とは何であり、どこまで維持すべきかという問いに答えるべきである。また具体的な事例研究から、国レベル、世界レベルの政策のあり方、対策手法の提案につなげて欲しいとの指摘を受けた。(3)生物多様性に関する研究は社会的出口が不明確ではあるものの、データの蓄積が必要な段階であり、基礎データをしっかりと収集し、科学技術として価値の高いものとすべきとの指摘を受けた。

7)対処方針

(1) このプロジェクトでは5年間の年限を考慮し、大スケールの問題は種類を限定して、一方比較的狭いスケールの問題では全種を扱うという研究戦略を設けている。ある地域の種多様性は、そこに生育する種それぞれの消長を総合したものと見ることができる。本プロジェクトでは、生物間相互作用を念頭においたフィールド研究や、生物間相互作用と系全体の多様性の関係をさぐる理論的な研究を通じて、個別の種の消長と地域の生物多様性とをつなげていく。(2) 生物多様性をどこまで維持すればいいかという問いには人間社会のゴールを何にすべきかという社会科学的な考察が必要となるので、我々の研究だけで答えが出るわけではない。しかし、これまで小さな空間しか扱ってこなかった生物学・生態学研究からの離陸を図って、流域や地域に研究対象を拡大したことは、その方向へ生物科学的な側面からアプローチを図る。(3) 指摘も踏まえ、学術的な価値の高いものを創出することを目標に基礎的な情報を蓄積していく。