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 事後評価の年度評価(平成13年4月)
環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

文献調査により、揚子江流域湖沼の生物資源劣化の現状とその原因を把握し、次に、三峡ダムの直下に位置することなどから、今後生物相が大きく変化することが予想される洞庭(トンティン)湖の水質と生物の調査を行った。さらに、1960年代に揚子江本流から切り離され、それ以来、様々な人為的影響を強く受けてきた東湖という大都市近郊の湖における長期的な生物データを整理し、人為的影響による生態系の変化とその要因について検討した。そして、中国都市郊外の富栄養湖の生態系管理として、揚子江原産のコイ科魚類であるハクレンを用いたバイオマニピュレーションの有効性を隔離水界実験によって検討した。

2)研究期間

平成7〜11年度(5年間)

3)研究成果

揚子江流域の湖沼の生物多様性が急速に失われつつあるのは、1)湖沼面積の縮小、2)生息環境の分断、3)乱獲と外来魚の移入、4)水生植物の減少、5)富栄養化、の5つの原因によることが示された。
  洞庭湖の水質は栄養塩濃度が高いが、湖水中に多量に含まれる粘土粒子などの懸濁物質が光を制限するため植物プランクトン量が極めて低いことがわかった。また、洞庭湖の魚類相に関して、漁獲される魚類の著しい低年齢化、小型化、回遊魚の減少、非回遊魚の増加などの変化が生じていることがわかった。幾つかの新種を含む洞庭湖のプランクトン相が本研究により初めて明らかになった。
  東湖では、80年代後半に突然アオコの発生がなくなり、植物プランクトンが小型の珪藻やクリプト藻に変化した。同時に、枝角類動物プランクトンが大型のダフニアからモイナなどの小型種に変わった。このような生態系の変化の原因が、ハクレンなどの濾食性魚類の現存量増加にあるという仮説をたて、濾食性魚類を用いた水質浄化の可能性を実験的に検討し、以下の結論を得た。ハクレンの導入は、アオコを形成するシアノバクテリアの種類と量を確実に減らすことができる。しかし、ハクレンはアオコを減らす一方で、動物プランクトンをも減らし、また全般的にプランクトンサイズの小型化を引き起こす。このため間接効果として、植物プランクトンの総量が増加することもある。従って、ハクレンの導入により、全藻類量を抑制し透明度をあげる効果は必ずしも期待できない。この効果を期待できるのは、1)アオコの発達が極めて著しい水界、もしくは2)もともと動物プランクトンを餌とする魚類の現存量が多いためにミジンコの仲間が少ない水界にハクレンを導入した場合に限られる。

4)研究予算額

総額約110百万円

5)研究実施の背景

中国は、国土の約2.6%を河川・湖沼が占める淡水域の多い国である。さらに、広い国土の大部分が、最終氷期に氷河に覆われることがなかったため、多くの河川・湖沼は高いレベルの生物多様性を維持することができた。こうした事情もあって、中国国民の食料資源としての淡水魚類への依存度は高い。特に、揚子江中下流域を含む東部湿潤地域には、中国全淡水湖の総面積の42%に相当する淡水湖があり、その水資源が地域経済および人間活動を支えている。しかし一方で、この地域の湖沼は、急激な経済発展と水処理技術の立ち遅れから、著しい生物資源の劣化や富栄養化によるアオコの大発生が生じている。

6)評価結果の概要

1)問題の把握、文献調査、現地調査、モニタリング、検証実験との科学研究テーマの設定はよく、それを着実に実行した、2)操作実験の手法を用いて生物群集変化のメカニズムを明らかにした科学に対する貢献が高い、3)中国での湖沼・河川の生態系と内水面漁業の動態を良くとらえ、中国の浅い湖沼の生態系管理に重要な知見を提供した、などの高い評価を受けた。また、我が国で湖沼生態系修復に関する研究を継続して欲しい、との要望があった。ただし、ハクレンとプランクトンという短絡した生態系で保全するのは、永い目で見ると不自然で、多様性が損なわれているように不安定な生態系ではないかとの指摘を受けた。また、中国にとって有用な研究を日本の予算により行うことの位置付けについての問いかけがあった。

7)対処方針

湖沼の生物多様性と生態系の安定性の関係については科学的に未解明の問題であるので、湖沼生態系の管理に生物多様性の保全をどのように組み込んでいくかについては今後5年間で行う生物多様性研究プロジェクトで取り組んでいく。なお、揚子江流域湖沼河川の生物相は、地球の長い進化の歴史により形成された固有のものであり、アジアの環境研究をリードする立場から、今後も地球規模の視野に基づき調査研究を通じてその保全を支援すべきと考える。また、今回の成果も踏まえ、今後は、我が国での流域生態系修復に関する研究も推進していきたい。