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 事後評価の年度評価(平成13年4月)
環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

本研究では、さまざまな内分泌かく乱作用を有し、典型的なホルモン様化学物質であるダイオキシンをとりあげ、ダイオキシンの生殖・発生影響のリスク評価のための基礎的データを得ることを目的とした。本研究では主にラットを用いて、妊娠期に投与したダイオキシンの仔への影響を、胎盤機能、雄性生殖機能、甲状腺機能、免疫機能を中心に検討した。また、ダイオキシンの作用メカニズムの解明、スクリーニング手法の開発に関する細胞を用いた研究、ヒト試料中のダイオキシン濃度と病態との関連についての研究も行った。

2)研究期間

平成9〜11年度(3年間)

3)研究成果

妊娠15日目のHoltzman ラットにTCDD(2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-p-ダイオキシン:12.5〜 800ng /kg) を経口一回投与し、経時的に屠殺し、胎盤機能、仔の雄性生殖機能、甲状腺機能、免疫機能を中心に検討した。雄性生殖機能への影響では、精巣、精子形成への影響は認められなかったが、前立腺、肛門-生殖突起間距離への影響が認められた。特に肛門-生殖突起間距離は、120日齢の50ng/kgというこれまで報告された妊娠期一回投与による雄性生殖機能への影響のうちでもっとも低い値で影響が認められ、このデータは、ダイオキシンの一日耐容摂取量(TDI)の設定に重要な参考資料となると考えられる。  血清中の甲状腺ホルモンthyroxine (T4)濃度は、21日齢では対照に比べ有意な低下が認められたが49日齢では対照のレベルに回復した。肝のUDP glucuronosyl-transferase (UGT-1) mRNAレベルは、21日齢では有意な上昇が認められ、49日齢では対照群のレベルであった。TCDDによる肝UGT-1の誘導とそれによる T4の排泄促進が示唆された。組織病理所見で生後49日齢 800 ng/kg投与群で甲状腺過形成が観察された。妊娠期の低濃度ダイオキシン一回投与により、仔の甲状腺の過形成が示された最初の報告である。  生殖器官由来の細胞を用いたin vitroの研究では、それぞれの細胞の標的ステロイドホルモンとTCDDがお互いに抑制的に作用することが明らかとなった。  ダイオキシンの暴露とそれによる健康影響との関連については、子宮内膜症の重症度の高い患者の方が軽症例に比べて脂肪組織中のダイオキシン類の濃度が高い傾向が認められた。

4)研究予算額

総額約107百万円

5)研究実施の背景

近年の急速な化学工業の発展によって、多数の化学物質が環境中に放出され、環境汚染を引き起こしている。これらの化学物質の中にはホルモン様作用を示すものがあり、ホルモン様化学物質=環境ホルモンと呼ばれている。ホルモン様化学物質は野生生物において生殖・発生影響を及ぼすことが報告され、ヒトにおいてもその影響が懸念されている。環境中のホルモン様化学物質の子(次世代)への影響、とりわけ生殖能力への影響は人類の存続に関わる問題であり、これらの影響のリスク評価は、重要かつ緊急に対処すべき課題であると考えられる。

6)評価結果の概要

本研究は、“内分泌かく乱物質”という言葉がなかった時代に発案され、実行された研究であり、その内容はダイオキシンを中心としたものであるが、着実な実験の遂行によりいくつかの新しい確実な知見が得られたこと、ダイオキシン類の一日耐容摂取量算定の基礎となるデータが得られたことに対し、高い評価を受けた。一方、ヒトの試料中のダイオキシン濃度と病態との関連の研究については、症例数を増やすことを含め、臨床との協力で人体への影響評価に努力するよう指摘を受けた。また、ダイオキシンの低濃度暴露によるのヒトへの影響を解明するには、ある特性を持った集団を一定期間追跡するコホートスタディによる疫学研究が不可欠であるが、本研究ではその問題意識が希薄との指摘を受けた。

7)対処方針

本研究は動物実験を主体としたものであり、ダイオキシンの低濃度暴露によるのヒトへの影響評価については、平成12年度開始のミレニアムプロジェクト、「ダイオキシン類の体内負荷量と生体影響評価に関する研究」において、ご指摘の点を視野に入れつつ、コホートスタディのためのバイオマーカーの検索、有用性の検討を行っている。また、臨床との協力を強め、症例数の増加につとめている。