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 事後評価の年度評価(平成13年4月)
湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究

  • 更新日:2001年10月4日

1)研究の概要

天然水や排水中の溶存有機物(DOM)の特性や起源を適切に把握するために、典型的な難分解性有機物であるフミン物質の分離に基づくDOM分画手法を開発した。霞ヶ浦湖水、流入河川水や起源の明白な溶存有機物(DOM)の流域発生源水(森林渓流水、田面流出水、下水処理水等)を採取し、DOM分画手法を適用し、DOM分画分布・季節変化・分子量分布等の特性を明らかにした。 湖水DOMが植物プランクトン種組成に及ぼす影響を評価するために、霞ヶ浦から抽出したフミン物質を添加した培地で、アオコを形成する典型的なラン藻類ミクロキスティスの室内増殖実験を行った。また、DOMの水道水源水としての湖沼水質に及ぼす影響を把握するために、霞ヶ浦湖水、流入河川水等を分画し、フミン物質および非フミン物質のトリハロメタン生成能を評価した。

2)研究期間

平成9〜11年度(3年間)

3)研究成果

(1)湖水難分解性有機物の発生原因の解明

霞ヶ浦湖水、河川水、流域DOM発生源水サンプルを、DOM分画手法により、フミン物質、疎水性中性物質、親水性酸、塩基物質、親水性中性物質の5つに分画した。結果、陸水中の代表的なDOMおよび難分解性DOMはフミン物質と親水性酸であることが明らかとなった。また、霞ヶ浦湖水では、難分解性DOMとしては親水性酸が優占しており、さらに湖水中の難分解性DOMの増大は主に分子量600程度の難分解性親水性酸の増大によることがわかった。  霞ヶ浦湖心における難分解性DOMに関する物質収支を検討した結果、河川水の寄与は夏の80%程から冬・春には約40%に激減する、下水処理水の寄与は夏から春にかけて漸増し4月に約20%にも達する、ことがわかった。冬・春期における下水処理水の寄与率の大きさは注目に値する。

(2)難分解性有機物が湖沼生態系や水道水源水としての湖沼水質に及ぼす影響の評価

霞ヶ浦湖水から分離・精製したフミン物質は、アオコを形成する典型的なラン藻類ミクロキスティスの増殖を著しく抑制した。実験結果と化学平衡プログラムによる計算結果の解析から、現在の霞ヶ浦湖心では、ミクロキスティスは、フミン物質と鉄の錯化により過酷な鉄不足状態にあり増殖できないことが示された。  霞ヶ浦湖水DOM、 フミン物質、親水性画分(=親水性酸+塩基+親水性中性物質)の単位有機物量あたりのトリハロメタン生成能を測定した。親水性画分のトリハロメタン生成能はフミン物質よりも有意に大きかった。霞ヶ浦では親水性画分のほうがフミン物質よりも約2倍存在濃度が高いため、トリハロメタン前駆物質として親水性画分のほうがフミン物質よりも重要であると結論された。

4)研究予算額

約76百万

5)研究実施の背景

近年、多くの湖沼において、流域発生源対策が行われているにもかかわらず、湖内の有機物量、すなわち化学的酸素要求量(COD)濃度の増大傾向が観察されている。CODのほとんどは溶存態であり、易分解性指標である生物化学的酸素要求量(BOD)は横這い状態にある。従って、何らかの難分解性の溶存有機物(DOM)による水質汚濁現象が進行していると考えられる。難分解性DOM濃度の上昇は、植物プランクトンの増殖・種組成変化を含む湖沼生態系の変化、水道水源水としての健康リスク(発がん物質トリハロメタン)の上昇等、湖沼環境に甚大な影響を及ぼすことが懸念される。湖沼環境保全上、緊急に、この新しいタイプの有機汚濁現象を解明する必要がある

6)評価結果の概要

湖沼における難分解性溶存有機物(DOM)の上昇傾向の原因解明に大きく寄与した、難分解性DOMを分画しそれぞれの濃度を測定して、霞ヶ浦を中心に流入河川や下水処理水などとの関係を明らかにした意義は大きい、湖沼の環境基準が大幅に超えている原因を知る上で貴重な成果を提供している等の高い評価を受けた。  一方、今後は、湖沼の難分解性溶存有機物に関して、より明確に定量的に物質収支などにより評価すべきとの指摘を受けた。また、得られた成果を行政に反映するべき、湖沼環境基準指標であるCODのあり方について考えるべき、難分解性DOMの制御の研究に着手すべきとの指摘を受けた。

7)対処方針

本研究成果に対する高い評価を今後の研究の糧としたい。湖沼における難分解性溶存有機物(DOM)に関する知見はかなり深まったと考えるが、定量的な評価という点では未だ不十分である。今後の研究(平成13〜15年度実施の特別研究「湖沼における有機炭素の物質収支及び機能・影響に関する研究」)において定量的な物質収支的な評価を進展させ、難分解性DOM、特に親水性画分の起源等を明らかにし、よって当該現象の社会的理解・認識を高めたい。